「結局矢口さんって・・・何の話やったんすか? 石川さん」
「ん〜なんかね、部屋替わりたいんだって」
「ああ、やっぱゴキブリがダメなんですね。あ、タマゴこれっくらいかき混ぜればいいっすか」
「ん〜もうちょっと。泡でアワアワになるまで〜」
「アワアワって・・・。で、替わることになったんですか」
「うん。まあ、別にいいかな〜って感じで。たぶん保田さんが入る予定だった“Memories”の部屋に行くんじゃないかな」
「はぁ。カワイソウですね、保田さん。追い出されちゃうなんて。ゴキブリ部屋で泊まることになるんでしょ?」
「まー保田さんなら、ゴキブリぐらい食べちゃうかも。ふふふ」
「い・し・か・わ・さ〜ん。そりゃあ、あんまりやないすか〜? あ、タマゴこんな感じで?」
「うん。バッチリしわしわ」
「アワアワですよね?」
「うんアワアワ。でかした、ラブリー」
「懐かしーっすね、その呼び方も・・・ではチャーミー石川さん。次は何を?」
「うむっ。このスープを焦げ付かないようかき混ぜていてね」
「ハイっ!」
「うーん、そういえば矢口さんバケツが何とか言ってたなぁ・・・」
「バケツ?」
「うん、バケツがなんかいっぱい要るみたいだったから、裏小屋のカギ、渡しちゃった」
「あの物置小屋みたいなところ?」
「うん。おっと、愛ちゃん、もうちょっと火を弱めてくれない?」
「はい。でも一体何に使うんですかね、バケツ」
「さぁ〜・・・あっ! 掃除してないって言ったから、今ごろあの部屋で水拭きでもしているんだよ! きっと」
「へぇ〜意外とマメなんですね、矢口さんって」
「うん・・・」
「・・・・・」
「うん・・・」
「・・・楽しみですね、石川さん」
「うん。まさか保田さんまで来るとは思っていなかったしぃ、ホラ・・・ずっと5年間音信不通だったじゃん」
「私にはたまに、メールで近況とか送ってくれましたけど。アメリカの」
「へぇ。なんかさぁ、愛ちゃんと保田さんって解散直前になって急に仲良くならなかった?」
「うん、あたし番組の収録中に泣いちゃったことあったじゃないですか」
「あったねぇ。あんときゃビックリしたよ」
「ほんでぇ、もう辞めようか、歌続けようかどうしよっか、悩んどったんですけど・・・」
「・・・・」
「保田さんに、なんか励まされて・・・うん、あれが無かったら歌手続けとらんかったと思います」
「そう・・・」
「歌のアドバイスは今でも、よくいただいているんすよ」
「ふううん、いいなぁ愛ちゃんは歌があるから〜。私も保田さんに最初の頃は歌教えてもらっていたんだけどなぁ」
「はぁ、教育係だったんですよね」
「結局オンチは直らなかったよ。ふふふ」
「いえ、そんなことは」
「いいのよ、気を遣わなくったって。自分でも分かっていたし。で、保田さんとは?」
「うん、それでモーニング娘。解散のあの日、約束したんです」
「どんな?」
「へへ“5年後もお互い歌手でいたら一緒に曲を作って出そうね”って・・・」
「・・・・」
「それがあったから・・・私売れなくても・・・嫌なことがあっても・・・・歌手でいることにこだわったんです」
「・・・・」
「ずっとずっと・・・しがみついていたんです」
「・・・いいなぁ」
「え?」
「カッコいいよね、愛ちゃんも、保田さんも」
「やだっ、そんな、いや、別に・・・」
「いいって。うん、気にしないで」
「・・・・」
「アメリカで治療していたんだよね、保田さん」
「私も実際会ったことは一回もないんですけど・・・」
「あんなに仲良くしていた愛ちゃんまで? やっぱ顔の怪我がまだ残っているからかな?」
「それもあると思いますし・・・いろいろデビューの準備とかで忙しかったみたいですよ」
「そっか・・・何気にスゴいねぇ、保田さんって」
「ここ2、3年は日本とアメリカけっこう頻繁に行ったり来たりで」
「ふ〜・・・ーん・・・アメリカねぇ・・・」
「・・・・」
「・・・・グスッ」
「・・・・」
「へへ、あ、愛ちゃんカボチャかなりトロトロになってきたかなぁ?」
「・・・今石川さん、後藤さんのこと考えていました?」
「・・・(こくっ)」
「後藤さん・・・」
「うぐっ」
「石川さん?」
「うえええええええん」
「・・・・石川さん!・・・ふえぇっぐ」
「うえええええん」
「ひいいいいんん」
「えええええええん」
「ひっく、ひいいん」
「へへ、泣いてばかりもいられないよっ。夕食の準備しなくちゃだわ」
「うん、遅れ気味なんですから急がなきゃっ」
「・・・でもやっぱ・・・思いだしちゃうよね・・・・」
「うん・・・あたしも・・・後藤さんに憧れてモーニング娘。に入ったみたいなもんやから・・・」
「私、新聞や雑誌ぐらいでしか、あの事件のこと知らないんだけど・・・」
「うん、私・・・保田さんにも、あまり聞きづらかったんですけど・・・」
「けど?」
「うん。メールで1行だけ書いてあったんやけど、後藤さんのコト。それっきりで」
「なんて?」
「・・・保田さんは、後藤さんの最期の姿を見たみたいなんです」