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保田がこの5年間で身につけたものは多い。 英語や音楽的知識。 そして以前の自分では考えられなかったが、趣味として始めたバイク。高橋にメールで「今、バイクに乗っているの」と書いたら「え〜なんか想像できないっす〜」と返ってきた。どちらかというとインドア的な趣味の多かった保田にとって、バイクやツーリングといった保田のアクティブな活動は高橋にとって想像の範囲外にあるようだった。 バイクが好きになった理由は、いくつかある。 顔の傷の治療を続けていた保田にとって、公共の交通機関を利用するということはよっぽどのことがない限りなく、自分専用の足となるものを必要としていた。フルフェイスのヘルメットを被れば(時には包帯が巻かれた)顔が見えなくなるので、保田はよく好んでバイクに乗るようになった。 事故を心配する担当医師にはあまりいい顔をされなかったが、特に日本とアメリカを頻繁に行き来するようになったここ2〜3年の間に両国に自分専用のバイクを1台づつ所有する程にまでなった。 そして顔を隠す、足になるといった理由以前に―――バイクでアメリカのハイウェイを思いきり走ることの壮快感は何者にも代え難かった。
今、保田がまたがっているのはSUZUKIバンディット250。 (暗くなる前に、着かなきゃ・・・)すでに陽は落ちかけており、薄暗い閑静な森にバイクの排気音が響きわたっている。
この同窓会が開かれることを知った時、保田は参加する、しない以上に悩んだことがあった。
世間を震撼させた爆破事件から丁度3年が経過した初秋のある日。
その頃になると保田は3ヶ月のうちの1ヶ月ほどは帰国して、昔世話になった和田マネージャーと復帰に向けての打ち合わせと下準備に追われていた。 「Are you Ms. Kei Yasuda?(保田圭さんですか)」 「Yes, I am.(ええ、そうですが)」 「Well, do you know Ms. Maki Goto?(あのー、後藤真希さんはご存じですよね)」 「!! ・・・・」 「Hello?(? あのー)」 「Yes, she is my friend. What is the matter with her?(・・・ええ、友達です。彼女がなにか?)」受話器の向こう側からは、聞き慣れない男の声で淡々と用件を話された。 だがその内容は保田にとって、にわかに信じがたいものだった。あまりにも唐突すぎるその報告に、頭の中は真っ白になる。 「なぜ・・・?」その声を振り絞るのがやっとだった。
どうして私に電話をかけてきたのですか、という意味を込めて尋ねると警官は不思議そうな声で答える。
そうだ。
人違いだ。後藤でないことを確認しにいくんだ。
飛行機の中で何を考えていたのか、保田は思い出せない。
頭の中で繰り返し響きわたるのは、先ほどの電話の中での警官の声。その度に保田は両手で頭を押さえつけ、大きく左右に振ってかき消そうとする。 「Ms. Maki Goto killed herself in the apartment. If it's even convenient, I want to ask for the confirmation of her dead body.(マキ・ゴトウさんがアパートで自殺した。都合さえよければ、遺体の確認をお願いしたい)」 |
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