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「なんてことを・・・」 「小川っ! 違うの! あれはののじゃないの!」安倍は足に電気コードを絡ませたまま、小川に詰め寄る。 「もう、みんな! このままじゃ死んじゃうの! 「そんな・・・でも・・・辻ちゃんが・・・」 「そうだ・・・一緒に逃げよう! ここも危ないよ!」 「・・・」 「ちょっと待ってて、今コードがこんがらがっちゃって、えへへ」安倍はしゃがみ込んで、絡み付いて取れないコードを強引に引きちぎろうとするが、当然のようにビクともしない。 焦れば焦るほど、固く結びついてしまう。 「・・・安倍さん、ちょっと待って」 「え?」小川が冷静に、安倍の足から伸びているコードの元を一本一本慎重にたぐり寄せて、結び目を緩めていく。 「小川・・・」黙々と、絡みを解く。安倍の座っている角度からは小川の表情は一瞬づつしか確認出来ないが、口をきゅっと締めて歯を食いしばって涙を堪えているように見えた。 小川は、ほとんど怪我を負っていなかった。安倍にとって、今まで見てきたメンバーの姿が異様なだけに奇妙な違和感を憶えた。 「・・・あ・・・ありがと・・・」 「さあ、これで足が抜けるはずです。行きましょう」 「ちょっと待って、あと一本だけ・・・」安倍が膝のあたりにひっかかっていた、太めのコードをやや強引に引っ張る。
カラン。
聞き慣れない金属音が、薄暗いステージ下に響きわたる。
さあ行こう、と小川に声を掛けようと安倍が思った瞬間、視界全体が斜めにゆっくりと傾く。 「あれ・・?」自分が眩暈か何かで、倒れかけているのかと思った。 「危ないッ」小川が強引に安倍の手を握りしめ、引っ張り、そして駆け出す。 視界の斜体の歪みは徐々に鋭角になってゆく。安倍たちを取り囲んでいる、ステージを支える骨組み。竹薮のように入り組んでいるその鉄骨が、垂直から徐々に角度をつけはじめている。全ての鉄骨が一斉に。 「痛い!痛い!」そんな安倍の声を気にすることもなく、小川は一気に障害物の入り組んだステージ下を走り抜ける。パイプを倒してからほんの10秒程、距離にして5メートル弱だったが、安倍はその間スローモーションの映像を見ているような錯覚に襲われた。
一斉にガラガラと音を立てて、崩れ落ちるステージ。 「うぐぐ」小川が振り返り、悲しさと強さを含んだ目で安倍を見つめる。その目で安倍と同様にあの地獄を見てきたのだろうか。とにかく言葉を交わすこともなく、ふたり手を繋ぎ、見つめ合って「生き延びた」余韻にしばらく浸っていた。
が突然、小川の安堵に満ちた顔が、また驚愕の表情に歪む。 「ど・・・どうしたの、小川?」安倍は彼女が口をぽかん、と開けながら見つめている背後を振り返る。 照明用の高さ10メートル以上はあろうかという太い鉄骨を組み合わせた柱が、まっすぐ二人に向かって倒れかけていた。赤と水色、緑の幻想的な光。そして火花。 むき出しになった大型のスポットライト。直撃すれば、さきほどステージが崩れた時とは比較にならないほどの打撃を受けるだろう。
だがもう間に合わない。 「いやぁぁぁ!!!!」ガラガラ。 ガシャン。バチバチ。
鉄骨が崩れる音。 「ううん・・・」わたし、生きている・・・? うそ・・・?
ゆっくりと、瞼を開ける。 「よかった・・・私助かったんだね・・・」それが彼女の口から発せられた、最後の言葉だった。 |
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