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「私が今日、この同窓会に参加しようと思ったのは・・・このことをメンバーみんなに打ち明けるためなんだ」 「・・・」 (なるほど。 (ということは) (こいつは、私が隠している秘密の一部も知っているってわけね) 「あえて、こう呼ばせてもらうわ―――大女優・安倍さん」その女は、この暗闇に包まれたつんく♂の私室で、安倍が5年前のことを物語っていたのと同じように小さな小さな声で話しかけた。 (―――こいつに対して、こういった呼び方をするようになるとは、現役時代まったく思ってもみなかった)安倍は先ほどから話をしながらずっと目に涙を溜めていたが、ここで初めてこぼれ出た大粒の涙がひとつだけ彼女の手の甲で弾けた。 「このことは同窓会で話すべき話題じゃないと、私は思う」 「え?」安倍が逆転無罪判決を受けた被告人のように、ハッとした表情で女を見つめる。 「貴女は今、女優として成功している。 「・・・」 「ののや新垣の分まで、精一杯生きればいいじゃない。そうでしょ?」 「・・・そうなのかな、そうだよね・・・」 「それにスッキリしたんじゃない? 今話して」 「うん、ちょっとだけ・・・いやだいぶラクになった。ずっと5年間、心の中で溜めておいたからかな・・・」女は笑顔で、安倍の頭・肩・背中を優しく撫でる。 「私間違っていなかった。一人だけでも、このことを打ち明けたの」 「でしょ? ふふふ。でも私だけにしとこうよ」 「そうだよね。せっかく久しぶりにみんな集まるんだし、こんな暗い話されても困っちゃうよね」 「大丈夫。行こう。もうすぐ6時。名シェフの美味しい夕食が待っているよ」 「あ、それで・・・あの・・・」 「ん?」 「なんでこの部屋にいるの?」 (そうだ。その弁解をしなくちゃいけない)わざわざ他のメンバーの目を盗んで、鍵のかかったつんく♂の部屋に明かりを消し、音を立てないようにこっそりと侵入しているワケを。 しばらく気まずい空気と沈黙に包まれた。 「・・・あのね、私も実はずっと隠していたことなんだけど」 「なに何ナニ?」安倍が目を輝かせて、身を乗り出す。 「・・・私、つんくさんとは・・・その・・・男と女の関係だったの」 「えぇ!・・ごぶっ」安倍が大声を出しそうになったので、女は慌てて彼女の口を塞いだ。 「〜! 〜!」安倍は口を押さえつけられ喋れない状態なのに、やらしい笑顔で女を見つめ続ける。 「今はもう終わったんだけど・・・昔ここに来たときの忘れモノを取りに来ただけ」安倍は手を離してもニヤニヤ笑みを浮かべている。この部屋に来てからずっと沈みがちだったのだが(あんな「告白」をしたのでは無理もない)随分本来の明るさを取り戻してきたようだ。とはいっても「心からの笑顔」を失ったことには変わりないのだが。 「で、あった?」首をぶんぶん振る安倍。 「なっちはどうなのよ? なんでこの部屋に・・・」 「え? 私?」 (ほかに誰がいるというのだ) 「私―――はね、これを置きに」安倍はポケットから、何かを取り出す。 白く簡素な封筒の表には「つんく♂さんへ」と丁寧な文字。 「! ・・・なるほど」多分その中に入っている手紙には、今安倍が話した告白の内容がこと細かに書かれてあるのだろう。 メールでも電話でもなく、手紙というところが安倍らしい。 「ねえ、つんく♂さんには教えてもいいよね・・・さっきのこと」 「・・・うん、そだね。信じてもらえないかもしれないけど」 「信じてもらえなくったっていい。私つんく♂さんがいなかったら・・・」 「ハイハイ。それから、なっち」 「うん?」 「お互い・・・この部屋で話したこと、他のメンバーにはナイショだよ」 「分かった。そもそもウチらがこの部屋にいることじたい、不自然だもんね」 「でしょ? さっきのアノことも絶対ナイショだからね!」 「分かりましたってば」 「じゃこっそり・・・裏口から出ようか」 「うん」女は平静を装うのに必死だった。目の前で話している安倍に、どす黒く渦巻いている自分の心を見透かされないよう――― |
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