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居間の古時計の鐘が6回鳴ってから、随分時間がたつ。 「あとは手の込んだ衣装のリーダー様だけ?」各々が好き勝手に雑談している。そこには屋敷に来たとき、どこか他人行儀な態度をとっていた安倍・矢口の姿もあった。やはり他のメンバーとは一定の距離を置いているといった印象は否めないものの、軽い雑談に応じるなど、幾分態度を軟化させてきているようではある。 「きたっ!!」紺野が、東棟の廊下の奧からゆっくりとあらわれたリーダーの姿を確認し、嬉しそうに叫んだ。
真っ赤なルージュとマニキュア、そして身体の線がくっきり浮き出るドレスに包まれた飯田がファッションショーのモデルのような歩き方で、階段を一歩一歩降りてくる。 「準備できましたー!」石川が食堂のドアから、顔だけをひょっこり出して居間にいる皆に伝えた。 「お〜やっと出来たかぁ」お腹が空いている矢口が嬉しそうに、舌なめずりをしながら立ち上がる。他のメンバーも三々五々食堂へと向かう。 中では高橋がテキパキと食器をテーブルの上に並べたり、料理を厨房から運んできたりしている。 様々なディナーの香り漂い、おやつの時と同じく恍惚の表情を浮かべる紺野。 「もうお腹、ペコペコだよぉ」加護が情けない声をあげる。 「あんなに紺野のお土産食べたのに?」吉澤の絶妙なタイミングでのツッコミに、ほとんどのメンバーが大笑いした。
その時一回だけ鳴り響いた、古時計の音。
2階の遊技場への重厚な階段。歴史を感じさせる暖炉。ゴージャスな食器棚。こういったものに囲まれて生活するのはどんな気分だろう、と矢口は思う。 (毎日ディズニーランドで、寝起きしているみたいな気分かなぁ)食堂のまわりの壁には、加護がこの屋敷に滞在してからの一週間で作ったという、色とりどりの紙で作ったポップやオブジェ、花飾りなどが彩りを添えている。それはこの渋い食堂にマッチしているかどうかは個人の判断に任せるとして、洋館の堅苦しい雰囲気を和らげるには十分だった。 特に「第1回・モーニング娘。同窓会!」と書かれてあるボード。 ハートマークや星、加護が描いた独特のメンバーの似顔絵(名前が記されていないので、まったく誰が誰だか分からない)などがタイトルの周囲を賑わしている可愛らしい仕上がりだ。
それぞれが食堂の席に着く。テーブルの上の座席を示す名札も、加護のお手製だ。吉澤の名札が「よっすぃー」なのは当然だとしても、高橋のそれが「たかはす」なのには、本人も微妙な笑顔を浮かべるしかなかった。
すべての料理が運び終わり、石川と高橋もそれぞれの席についた。
リーダーの隣りに座っている紺野が高らかに宣言する。 「えー、本来なら我らがリーダー飯田圭織幹事がご挨拶するはずですが、都合により不祥ながらわたくし紺野あさ美が副幹事として本日のモーニング娘。同窓会の進行をつとめさせていただきます」「都合により」―――そんな遠回しな言い方しなくったって、誰しもが分かっている。
声量がもともと少ない紺野が必死になって声を張り上げる姿は、昔と変わらずどこかしら滑稽だ。 「このあとサブリーダー保田さんがこられることになっておりますが、仕事の関係で少し遅れているようなので、料理が冷めないうちに一足お先に開催したいと思います。それでは、リーダーの開会の挨拶を読ませていただきます」紺野は胸のポケットから四つ折りになっている便箋のようなものを取り出し、それを読み始めた。 「みんな、忙しいなか集まってくれてありがとう。解散から5年たちました。パチパチパチ。何人かのメンバーは小さく頷きながら拍手している。 付け加えるように、リーダーが手話で紺野に何かを伝えた。 「5年たったけど、ミンナいい顔している、って」この5年、いろいろあった。苦しいことも、悲しいことも。 過去を忘れて生きてゆくことはできない。 でも過去ではなく、未来に向かって生きていかねばならない。 志半ばで人生が途切れてしまったあの子達のためにも。 「・・・それでは若くしてこの世を去った、私たちのかけがえのない仲間。辻希美さん、新垣里沙さん―――そして後藤真希さんのご冥福を祈って一分間の黙祷をお願いします。黙祷」・・・・・・・
紺野が「黙祷、やめ」と言ったその瞬間、玄関の呼び鈴が鳴り響いた。 |
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