第76話グラデ左 グラデ右保田

「来た?」
「圭ちゃん?」
 リーダーは黙祷が終わり目を開けたとき、みんなの様子がおかしいので紺野に何が起こったのか訊いてみた。
「インターホンが鳴ったんです」
(じゃあ・・・ついに来たのね、サブリーダーが)

 急いで石川がエントランスのドアへと向かい、正面玄関の鍵を開ける。

「え? えええええ?」
 テーブル席についているメンバーたちが、ホールドアの裏側から聞こえてきた石川の驚きの声にざわついた。
 しばらくして、石川に導かれてきたのは・・・。

 ストレートボブの黒髪で顔の右三分の一を隠して、凛として落ちついた眼差しをそこにいる全員に向けている女性。艶やかな藍色のシルクのロングドレスと白薔薇のコサージュ。現役の頃からトレードマークのひとつであった肩のラインを、惜しげもなく披露している。スリットは深めで、そこからチラチラ覗かせている、なまめかしい脚。かつては猫背気味だと言われていた背筋もぴんと伸ばし、高めのヒールということもあるのだろうが、心なしか昔よりも身長が高く見える。
 綺麗だった。

「・・・本当に圭ちゃん?」
 吉澤の声が震えている。
 保田の肩に後ろから手を回している石川は、もうすでに涙目。
「みんな、心配かけてごめんね」
「保田さん・・・」
 ずっとメール交換していた高橋も、こうして顔を会わせるのは事件以来5年振りになる。
 顔にあの時の傷痕が今も残っている、と本人からのメールにも書いてあった。
 しかし目の前にいる女性は、髪の裏側には傷跡があるとしても、それを忘れさせてしまう程の煌めきに満ちている、つまりひとことで言ってしまえば美人、だ。
「マジ?」
 矢口も未だに半信半疑といった表情を浮かべている。
「・・・会いたかった・・・です」
 高橋が駆け寄る。
 吉澤も、この5年間自らに課して貫き通してきたスタイル―――ダンディズムを意識し、それを強調していた立ち振る舞いを忘れ、ここにきて初めて「素」の間が抜けた泣き声を張り上げる。
「ぶえええええええん!」
 この屋敷のエントランスと居間でいくつかのモーニング娘。メンバーの再会があった。その中でも最大級の歓迎を保田は受けた。
「オイオイなんだよ、ヨシコまで」
 保田を中心に、高橋・石川・吉澤がわんわん泣き声を張り上げながら取り囲むように抱きついている。
 席に着いている加護や飯田の目からも、思わず涙が漏れる。
「本当に、け、圭ちゃん、なの?」
 安倍も確認するかのように、問い直す。
 まるで目の前にいる保田が、別人であるといわんばかりに。
「だいぶ皮膚の移植手術をしすぎて、顔のツクリが変わっちゃったのかなぁ。よく言われるよ、別人になったって」
 と本人は、照れ臭そうに話す。
 たしかに面影はある。
 それでも安倍はにわかに信じられない。

  皮膚だけなのだろうか。
  ついでに整形とかも、したんじゃないの?

 安倍だけじゃなく、食堂にいるメンバーほぼ全員がそう思った。
 それほどまで保田の顔は現役の頃とは、いい意味でかけ離れていた。

 でも飯田だけは、整形じゃないと思った。

 今の保田は自信に満ちている。
 あの武道館の事件により、顔を失うといった女性として大きなハンディを負ったにも関わらず、単身渡米までして治療するといった行動力。
 そして娘。の一員だった頃からソロシンガーとしての生きていくという固い決意で歌い続け、その夢をここ数年でつかみかけている。しかも元モーニング娘。という肩書きを一切利用せずに、自らの力だけで。
 その内面から輝く自信が、オーラとなって今の保田の美貌を形成しているのだろう。

 女は美人に生まれてくるのではない。美人になるのだ。

 泣いて抱き合っていた3人だったが、保田になだめられてようやく自分の席に戻った。

「遅れてゴメンね♪」
 保田は小さく手を合わせながら、自分の席につく。
 飯田はこの食堂にに奇妙な磁場が生まれたような気がした。
「それでは皆さん、乾杯の音頭をせっかくですから、たった今来たサブリーダーにとってもらおうと思いますけどよろしいでしょうか?」
 そう言う紺野も楽しそうだ。
「意義なーし!」
「それじゃあ保田さんお願いします」
 保田がこの場の雰囲気を徐々に支配しているのを、飯田は感じ始めていた。
「ええーっいいっすか、私なんかで。それじゃあ」
 保田が立ち上がる。
 皆がグラスをかかげる。

グラデ右 next to ... 第77話 モーニング娘。

グラデ右 最初に戻る ■  トップページ