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「いや・・・マジでうまいよ、石川」 「えへ」舌をペロっと出して照れ隠しの石川。ともすれば、そのメイドのコスプレまがいのコスチュームのせいで、ただでさえブリッ子キャラの石川のその仕草は嘘っぽい印象を与えてしまいがちだが、この時ばかりは本当に素直に自分のこみ上げてくる喜びを抑えようとしているのが他のメンバーにも伝わってきた。その正面に座っている紺野は、黙々とただひたすら食べ続けている。隣りの席の高橋もさすがに呆れて、みんなから見えないように紺野の脇腹をつっつく。 「こんちゃん! もう〜食べるのに夢中になって!」 「んんん〜だって美味しいもん〜」 「だけどさ、せっかくの同窓会なんだから・・・」 「んゴ、石川さん、おいしいですぅ〜」加護は、ああホントに変わってないな、と改めて思う。紺野の食べている時の幸せな表情が5年経った今でも。 「石川さぁん、お店とか開けばいいのにぃ〜洋食屋さんとか〜」 「そ、そ。『チャーミーのお店』とか言って」 「ぎょーれつ出来るよ! きっと!」 「石川の手料理なら5万出しても食べたいってヤツ、いるだろうなぁ」やんややんや、と吉澤や加護が煽るが当事者である石川は、涼しい顔で受け流していた。 「お酒が苦手な人にはジュースも用意してありますからね〜」石川が手にしている透明ポットにはピンクグレープフルーツの生しぼりと、かち割り氷が目一杯満たされており、冷たい汗を吹き出させている。曰く、トロピカル風味だと言う。 「あ、ビミョ〜にココナッツの味がするぅ!」すっかり料理で上機嫌になった矢口が、その特製ジュースを口にして自慢げに声を張り上げる。 「んん! サッパリしてる!」 「モ×フラよりも後味スッキリしててイイ!」 「っていうか、アレ、正直いってマズ・・・」 「ダメー!!」 「何で? もうCM契約してねーじゃん」 「あ、そっか」食卓が、ドっと大きな笑いに包まれた。 加護と安倍はお酒が飲めなくて、石川も苦手なので料理に合うさっぱりめのジュースを用意したのだが、これは“酒豪”の保田と吉澤にも大好評だった。 酒といえば、意外にも場の雰囲気に押されたのか飲めないはずの安倍のグラスに注いだワインもかなり減っている。ベビーフェイスを真っ赤にしながらも、ケタケタ笑っている。隣りに吉澤、正面に保田というポジションのためなのかあまり自らのペースを崩さなければいいのだが、と高橋は心配そうに見守る。
宴が進むにつれて、保田はあちこちから何か熱い視線を感じていた。
ひととおり料理も出そろったし、そろそろあのコを期待しているのかな、と保田も思った。 (でもその前に、この石川特製のフルコースを冷めないうちに堪能しなきゃね。まったく歌は私のほうが自信あったけど料理じゃ歯がたたないわよ、こりゃ)ざわっ・・・
その時だった。 「こん? こん?」その雑音の中から、高橋の意味不明な呼びかけだけが妙に耳に残る。 保田はテーブルの上に身を乗り出して、その声の発信源を確認する。高橋は隣りで前かがみになっている紺野の肩を抱いている。 「・・・」紺野はフォークを握ったままの左手で口を押さえ、右手は両側から垂れ下がった黒髪で見えづらいが胸を押さえている格好だ。 「紺野! またさっきのオヤツの時みたいなドッキリか?」吉澤がニヤけながら、嬉しそうに語りかける。 が、それに対しての紺野からの反応はなく、ただギョロっと大きく見開いた視線の先が、食卓の上の自分の食べかけのオムライス一点に絞られている。 「オイ・・・」最初は冗談めいていた吉澤の語り口が、徐々に陰りを帯びて真剣になってゆくのが分かる。 「紺野・・・どうした・・・?」高橋も最初は優しく紺野の背中をさすっていたが、そのうちバンバンと鈍い音を立てながらも、力強く叩きはじめた。 紺野はそれに対しても、何も言わずにただ首を振るのみ。やがて握っていたフォークをテーブルに置いて、小刻みに震える左手で何か宙を掴むような仕草をした。
目の前に差し出された紺野の手のひらは、真っ赤な液体で染まっていた。 |
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