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石川が目の前の席にいる紺野の異変に気が付いたときには、すでに高橋が困惑した顔で彼女の肩を必死でゆさぶっていた。「〜! 〜!」訴え掛けるような目で、声にならない叫びを張り上げているようでもあった。 「紺野・・・どうした・・・?」吉澤の呼びかけにも、紺野はただ左手で口を抑えて首を振るだけ。
何が起こったんだろう。
やがて握っていたフォークをテーブルに置いて、小刻みに震える左手で何か宙を掴むような仕草をする紺野。
目の前に差し出された紺野の手のひらが、真っ赤な液体で染まっていたからだ。そしてまだ幼さの残る顔。その口の周りも、赤く。 (血・・・?)そう連想した瞬間、すでに石川は叫び声を上げていた。 誰かが肩を抱いている。何か言っている。でも自分の叫び声でそれもかき消された。 「きゃああああああああ!!!!!!!!!」 「梨華ちゃん! 梨華ぁ! 違うんだ! 落ちつけって!」ネガティブにパニック状態が加わり石川は状況を把握出来ないまま、思考が停止している。頭の中にリピートされているのは、何かとんでもないコトが、紺野の身に起こったという認識だけ。 うずくまって泣き叫んでいた石川を、吉澤が無理矢理立ち上がらせる。 「あうううう! あんあああん!!」 「よく見てみろよ! ホラ!」なぜこれほどまで周囲が落ち着いているかが、石川には理解できなかった。 「・・・!?」ようやく目を恐る恐る見開いて、紺野を正視してみる。 紺野は平然とした顔で、飯田から奪い取った(と思われる)グレープフルーツジュースをがぶ飲みしている。
ごくごくごく。ぷはーっ。 「紺野・・・?」 「ふーっ、死ぬかと思いました」いまだに周りが真っ赤な口で、そう言い放つ。 「え・・・? 紺野?」 「うまいっすね、このオムライス」 「・・・その・・・血は一体・・・」 「?」紺野はグラスに入ったジュースを一滴も残さず飲み干し、キョトン、とした目で石川を見つめる。空になったグラスをテーブルに置くと、自分の手のひらの赤い液体でピカピカに磨かれていたはずの表面が赤茶色に汚れているのに気が付いた。 「あ、やだ、ケチャップが」 「はぁ?」 「私、オムライスはケチャップ派なんです」その紺野の言葉で、ようやく石川は自分がとんでもない勘違いをしていたコトに気がついた。 あまりにも夢中になってオムライスをがっついた紺野は、当然のごとく喉にピラフが詰まって苦しんでいたのだった。 「あたし、てっきり料理に毒でもはいっているのかと・・・」 「はぁ? なんでぇ? 作ったの石川さんでショ?」 「だってだって! ケチャップが血に見えたもん!」食堂が呆れていいのか、笑っていいのか良く分からない雰囲気に包まれた。 紺野は、高橋から手渡されたナプキンで汚れた口の周りを丁寧に拭いて、申し訳なさそうな顔でうつむく。 「すいません、お騒がせしたみたいで・・・」 「も〜、でも紺野らしいっちゃあ、らしいけど」 「せっかくデミグラスソース作ったんだから、ケチャップにすんなよー!!」 「いや高橋、そうゆー問題でもないだろう」保田も周囲に同調してみせたものの、実は石川と同じく紺野の身に何かが起こったのでは、と内心ヒヤヒヤしていたので無事を確認しホっと胸をなで下ろした。 |
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