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「そうだ! 保田さんの話きかせて!」石川が自分の失態をごまかすためか、強引に話題を切り替えようとしてきた。 「あ! 俺もききたい! 犬神にゃんこだっけ?」 「ね・こ!」保田は憮然とした表情で、吉澤の間違いを訂正する。 「なんかね、ほとんどの人が今日になって始めて知ったんですよ!」 「知ったって・・・私イコール犬神音子ってこと?」 「ううん。それもあるけど、今日ココに圭ちゃんが来るってこと自体」 「マジぃ!? 加護は?」 「・・・ビックリしました」 「ね、ね。聞かせてよぉ、今どんな仕事しているの?」石川が目を輝かせながら訊いてくる。高橋に目をやると、話してやりなよ、といった視線で返された。 「うーん、ラジオ、だねぇ今は。ホラあたし、こんな顔じゃん」そこで食卓を囲んでいるメンバーの動きが、ピタッと固まる。 やがて高橋や安倍が静かに、首を横にゆっくり振る。悲しい目をしているがじゅうぶんキレイだよ、といいたげな表情を向けている。 (でもね、この髪の下は・・・)保田はあまり自らの顔の傷について触れるのは辛いが、だからといって何も言わずに周囲に気を遣わせるのも不自然だと思った。 「だからね、あんまり人前に出れないからねぇアハハ、まああんまり娘。の頃からアイドルっぽくなかったけど。とにかくどんな形でも歌いたかったの」保田は現役時代から顔で売っていたわけじゃないし、ということを踏まえながらあくまでも冗談っぽく言う。だが顔に傷が残るということは女性にとって死を宣告されるに等しいことであり、それとは全く別問題といっていい。 絶望的な状況に置かれながらも自分の夢を貫こうとする保田の強さにメンバーは改めて畏敬の念を抱いたし、あちこちから上がる溜息に近い「へぇ〜」といった相槌の声には、そういった感情が込められていた。 「私、ぜんっぜん保田さんとは知らずにCD買いました!」 「ホント? ありがと〜石川〜。 「『ナカマダチ』! 今思うと、あの歌詞って私たちのことだったんですか?」 「へへへ、まあ分かる人には分かる、みたいな」徐々にブレイクする兆しは見せているものの、まだラジオといった場でくすぶっているといった状況の中で、やはりテレビを中心に仕事をしている安倍や矢口には、あまり犬神といった名前自体にも馴染みが無いようだった。それに比べて石川は、犬神がかつての仲間であることを知らなかったという割には、いろいろと詳しいので素直に保田自身も驚いた。 他のメンバーにとっても、保田がどういった道のりでここまでの成功を掴んだのかといったことは割と興味津々のようで、目の輝きがそれを物語っている。 「ねぇ、今はもう、次の曲をやってるの?」 「うーん、アルバムのリリースが決定したんでそのツメの作業にとりかかっているところだけど・・・もしかしたらセカンドの売れ行きが良かったら、発売前にシングルカットされる曲があるかもしんない」 「ど、どんなの」 「曲だけはもう決まっているんだ。実は高橋が・・・」 「はいっ! 歌詞を担当させていただいています!」 「スゴイスゴーイ! 曲名は?」 「えーっとね、『3度目の奇跡』です!」そこからは高橋と保田、ふたりがメールのやりとりをしながら一つの音楽を作り上げていく過程―――それもここ数カ月の間のことだが―――を丁寧に説明していった。飯田は感心しながらも、少し羨ましそうな表情で、じっとその話に「魅入って」いた。耳を傾ける、のではなく。 「保田さん」 「何? 加護」 「保田さんのアメリカでの生活も、どんなだったか聞きたいです」 「・・・・」加護は、あからさまに「あのこと」について知りたがっている。 (・・・どこから話そうかな)保田にとって、この5年間のうち大きな転機は3回あった。
ひとつめは、治療のために渡米することを決意した5年前。
それぞれが密接に絡み合って、現在の保田がいる。 |
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