第85話グラデ左 グラデ右吉澤

「どうした加護?」
「ううん、何でもない、よっすぃー」
 隣の席の加護がどことなく沈み込んだので、吉澤は心配して話しかけた。
「よっすぃー」
 保田が、まじまじと吉澤を見つめながら声をかける。
「ん?」
「噂には聞いていたけど・・・オットコ前になったよなぁ。直で見てみると、もう」
「ふふん」
「でしょ? “かっけぇー”でしょ!?」
 石川も、自分のことのように喜んでいる。ちなみに「かっけー」は「カッコイイ」の意味で、元々は吉澤が言い出してメンバーの中で流行った言葉だ。
「で、今はバーを経営しているんだって?」
「まーね。ちょっと普通のバーじゃないけど」
「もしかして、よっすぃーみたいなのがいっぱいいるバー?」
 吉澤は無言でひとり納得したかのように、何度もうなずいてワインを一気にあおった。
「・・・スゴイなぁ」
「そーかな」
 吉澤は何も考えずに行動してしまう。
 それは自分の生き方だし、昔から変わっていない。そもそも、モーニング娘。に入ろうとオーディションに応募しようとしたきっかけですら、思いつきだった。その性癖を誉められても、ただ困惑するしかない。
「やっぱ5年もたつとミンナ変わるよなぁ」
「何言ってんの圭ちゃん、自分が一番変わったクセに」
「かなぁ」
「ルックス的には一番・・・かな?」
 矢口も、吉澤の意見には同意する。
「ホントホント。最初別人だと思ったもん」
「別人は言い過ぎでしょ。ちゃんとホクロの位置も変わってないでしょ?」
 保田は自分の口の左下を指差す。
「でも・・・マジで・・・キレイになったよ・・・」
 吉澤のその言葉に、多くのメンバーが無言で首を縦に振る。
 保田はそう言われることに慣れていないのか、リアクションに戸惑っているようで、ただうつむいて口元を緩めるのみ。
「う〜ん、私的に見た目一番変わったってのは・・・」
 上目遣いにテーブルを取り囲んでいるかつてのメンバーを見渡す。
「よっすぃ〜は確かに変わったけど、ハマりすぎってのはあるし・・・」
 短髪茶髪の吉澤だが、在籍時も男前キャラのイメージが強かったので、それほど現在のルックスも意外性を感じない、ということを言いたかったらしい。
「カオリンは相変わらずゴージャスだし、黒髪も似合うなぁ・・・」
 後期に加入したメンバーにとってやや違和感があるものの、保田にとっては懐かしい気分を思い起こさせてくれる今の飯田の髪の色。
「矢口は予想通り! カワイイなぁ」
「やめてよ、もう25なんだからぁ! この歳になるとカワイイよりキレイって言われたほうが嬉しいんだけど・・・なかなかそうゆうわけにもいかなくて・・・」
 矢口が、ついさきほど「世間の抱くイメージと、自分が目指すイメージが、かけ離れていることが悔しい」といったことを発言していたことを思い出した。
 しかし保田は、素直に今の矢口を見て「カワイイ」と思った。
 矢口の抱えている問題は、複雑である。
「石川も・・・ある意味、ぜんっぜん変わってないわね・・・」
「なんですか保田さん、その『ある意味』ってのはぁ!」
「だって・・・そのメイド服は、えーと、何? サービス?」
「え? 似合ってませんかぁ? コレ?」
「いや・・・似合ってるよ・・・うん、間違いなく・・・」
 石川に関しては、いまだにお人形というかマスコットのような雰囲気を漂わせている。誰が見てるわけでもないのに、アイドルとして捉えられる事を意識しているような・・・そんな幻想すら抱いてしまう。
「加護も変わってないかな」
 というより、5年の月日を経ているにも関わらず「変わらなさすぎる」ことが不気味だった。加護にしても、石川にしても。彼女らは事故後もお互い交流があったそうだが、二人の間に時間は流れていたのだろうか。これは保田だけでなく、他のメンバーも皆思っている。
「私が思うに・・・一番変わったのは・・・やっぱりなっちかな」
「え? 私?」

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