第95話グラデ左 グラデ右辻と飯田

 ねえ矢口は憶えているかな? 加護は忘れらんないだろうけど・・・。
 例の武道館のコンサートの時にね、私らタンポポのラストステージが終わって更衣室に引き揚げていく時に、その前にのんちゃんが待ち構えていたの。
 そうそう、あの時。
 あの時さぁ、ののとあいぼん喧嘩してたんだよねぇ。
 おっとっと。あいぼん、そんな泣かなくていいよ。
 でね、そこでひと悶着あって結局仲直りできなかったんだけど・・・うん。でね、矢口とあいぼんはミニモニ。も控えていたからそのまま着替えるために更衣室に入っていって、舞台裏で私とのんちゃんの二人きりになっちゃって。
 あのコったらまだ泣いているし、まいったな〜どうしよう〜と思っていたらすぐに
「れへへ、いいらさんありがと」
 って言って涙を拭きながらも笑顔を見せてくれてね。これからどうやって、のんちゃんをなだめようと考えていた矢先だったから、正直ホッとしたの。立ち直り早いコだったよね。
 安心してあのコの頭を撫でてやると、私の手の中でジタバタしながらこう言うの。
「こどもあつかいしないでよぉ」
 って。その仕草がすでに子供っぽいのにね。おかしいでしょ。

 それ見て・・・今だから言えるけど、思いきり抱きしめてやりたくなった。もちろん「リーダー」という立場でなかったら、とっくに抱きしめていたのだろうけれども。
 なんかあのコには、そういうチカラがあったよね。甘え上手ってのかな。とにかくスタッフの人たちにも、のんちゃんのファンって多かったし。

 ・・・私ね、ののとあいぼんが解散を間近にして、チョットぎこちなくなっているの知ってた。
 今でもたまに思い出して、あの時なにか出来たんじゃないかって思う。知っていながら、最後のコンサートのあの日まで何もリーダーらしい仲裁しれやれなかったもん。あの時は解散控えて、イッパイイッパイだったのもあるかもしれないけど。
 でもね、本当は分かっていた。初代リーダーの裕ちゃんが卒業して、二代目に就任してきたときから、リーダーとして求心力の弱さを誰に指摘されなくても自覚していたの、私。
 弱音を見せるのキライだったから、他の人に相談することなかったんだけど。

 でもね、本当はののだけでも充分だったの。

 5期のコはあまり知らないかもしんないんだけど・・・4期メンバーと初めて「ご対面」したの今でも結構鮮明に憶えているんだ。緊張感なかったよねぇ、アンタたち。
 4期メンバーが加入して、一応私ってのんちゃんの「教育係」として面倒を見ることになったじゃない。うん、形式的なものだったんだけど。
 いや〜加入当時の、あのコのスキルの無さには驚かされたよねぇ。
 歌とかも鼻歌で歌う分には上手いのに、いざレコーディングやライブになるとからっきしの本番弱さ。大体、歌詞憶えるの遅かったし。ダンスもリズム感をしつこいくらい教え込んだんだけど、なかなか体に刻み込むことができない。まあ私だって、そんなにダンスとか得意なほうじゃなかったけど。
 トーク番組にでても活舌がはっきりしないし、リアクションも突拍子がないし。まあ、それがあのコの個性といえば個性だったんだけど。

 でもね、一生懸命なのんちゃんを見ていると不思議と癒されたんだよね。
 かたや新人あいぼん・教育係ごっちんのコンビが、どんどん娘。の中でもイニシアチブを握る存在になっていくのとは対称的に、ののと私ってのはなんだかメンバーの中でもやや浮いた存在になっていたと思うの。ふふふ、私は今でもそう。別に団体行動に縛られるタイプじゃ元々無かったし。あと、私はタンポポがあったけど、あのコは最初ユニットに参加出来なかったしね。
 で加入当時こそ面食らったけど、あのコが娘。としての日々を重ねる毎に少しづつ実力も付けてきてねぇ、私の手を離れていったんだよね。実際「辻加護」の名コンビはモーニング娘。に興味がない世代にも知れ渡る程までに成長たし。  ミニモニ。ってやっぱり凄かったって今でも思う。

 リーダーに就任したあたりからかな? ミニモニがポンってブレイクして裕ちゃんが卒業したあたり。徐々にののと二人きりで話すってことも少なくなっていってね。あのコはそのことについてどう思っているか分からなかったし、割とどんな人にも甘えるタイプだったし。ただ私にとっちゃあ故郷を離れて、上京しているということもあったんだろうけど、のんちゃんにに実の妹の姿を重ねて見ていたのよね。なんか自立して嬉しいのが半分、ちょっぴり寂しいのが半分、みたいな気持ちだったのかもしれない。

 だからね、二代目リーダーとかそんな名誉よりも、のんちゃんを独占していたかったなー・・・みたいなのは少なからずあったんだ。
 ただ、リーダーになった以上はそのプライドを守り通してやる、みたいな意地もあったんだけど。
 でも正直なところ私にとって本当に、ののだけでも充分だったの。

 話がズレちゃったね。
 とにかく、のんちゃんに対して最後の最後になって力になれないのは、はがゆかった。

 えーっと、どこまで話したんだっけ。
 あっ、そうそう。それでね、泣き止んだののが突然、ミニモニの小道具のポシェットの中から何かを取り出してきて言うのよ。

「いいらさん、たんじょうびおめでとうございます」
 うん、あの日は私の誕生日でもあったしね。
 何かなって思ったら、よくあるプレゼントの箱。1辺5センチぐらいの立方体の小さい奴だったけど。
 カワイイ大きなリボンが結んであってね、白いプレゼント。

 私言ったの。

「こないだのコンサの打ち上げで誕生パーティもやったじゃん」
 って。
 ツアーの地方公演の最後でね、それ終わった後のパーティって私となっちの誕生会も兼ねていて、そこでみんなからプレゼント貰ったんだよね。
 のんちゃんからは、ディズニーアニメのキャラクターのぬいぐるみを贈られた気がする。だから誕生日プレゼントはその時もう貰ったから、無いと思っていたの。
「ちがうんれす。いいらさんには、つぃ、いろいろ教えてもらいました。これは、つぃの3年間をみまもってくれた、いいらさんへのきもちです」
「そんな・・・気持ちだなんて・・・ののに、私けっきょく何もしてやれなかったよ・・・」
「そんなことないれす。何度もつぃは自信がなくてやめようとおもったこともあります。でもいいらさんにめいわくがかかるとおもうと、がんばれました」
「のの・・・」
 結局、それで泣いちゃった。
 だってホント、無邪気な笑顔で言い切るんだもん、感情が爆発して・・・。
 ガマンしていたのに、思いっきり抱きしめてた。もう涙があふれてきたし。

 私も同じ気持ちで、娘。を続けていたから。
 どんなに気分が乗らなくて仕事を休みたいと思ったときでも、ののに弱音を見せられないと思って続けられたし。

「いいらさん」
「何? のの」
「5年たったら、どうそうかい・・・?をしよ」
「ぷっ・・・何で5年後なの?」
「この1年で、3センチ背がのびました」
「・・・そっか・・・最近ちょっと大きくなった気がする」
「だからこの計算だと、あと5年ぐらいすれば、いいらさんとおなじぐらいになるのれす。それまで待っていてくらさい」
「ふふふ。そだね、同じ背の高さになったら、同窓会で何しよう?
 デカモニじゃんけんぴょん、でも踊ろうか?」
「やくそくれすよ」
 私、解散とか喧嘩とかあって正直滅入っていたんだけど、ホッと胸をなで下ろしたんだ、当時は。その言葉を聞いて。
 大丈夫だ、ののだったら。これからも。

 そう。この同窓会は、あのコとの約束みたいなものだったの。二人だけの。
 だからこれを開催することによって、やっと私なりにケジメをつけられる、みたいな狙いがあったの。実は秘密にしておくつもりだったんだけど。で、他のメンバーにもそういった、あの事件でのモヤモヤしたのが晴れてくれればなぁってのがあるの。

 ののってサ、マイペースなように見えて結構みんながケンカにならないように、とか険悪な雰囲気にならないようにとか気を遣っていたんだよ。何かの番組でリーダーに向いているのは、辻だっていう分析があったじゃない? あの時は意外な感じしたけど、もし今でもモーニング娘。が続いていたら、ののがリーダーだったかもしれない。あのコがいるだけで殺伐とした雰囲気も一変するってこと、よくあったからね。
 ホント、自覚なかっただろうけど、あれも立派な才能だと思う。
 だから、ののが同窓会うんぬん言い出したのも、その時あいぼんと喧嘩していたのがよっぽど堪えていたってのもあるのかもしんない。
 うん、だから・・・この同窓会で、あれこれ言い争うのはやめようよ。
 確かに、私もごっちんの手紙といい、いまのよっすぃーや石川の話はちょっとビックリしたけど・・・。でも、まあ、あれはそれぞれが自分の中で結論を出せばいいんじゃない? あんまり深く考えなくてもいいと思う。

 え?
 プレゼントの中身何だったんだって?
 ヘヘヘ。それは秘密。私とのんちゃんだけの秘密。

 でもね、その時は思いもよらなかったなあ。私、その時はののにプレゼントのお礼を言って、まあ舞台裏だし時間も限られていたし、箱を開けないまま楽屋の自分の鞄にしまい込んだのよ。
 で、それから事件が起きた。私は長い間入院してた。

 だから本当に思ってもみなかったわけよ。
 そのプレゼントの中身を知るのが、貰ってから3ヶ月後になるなんて。

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