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「おう石川ぁ、加護も。久しぶりやなぁ、あっははは」 「あ、お、お久し、ぶりで、です・・・」屋敷の前でのおよそ5年ぶりの再会に、元モーニング娘。プロデューサーのつんく♂は右手を高々と掲げ、意気揚々といった面持ちで出迎えた。 ワインレッドの趣味のあまり良いとはいえないサングラス越しとはいえ、加護はその笑顔がかなりムリをしているように見えた。だが、それ以上に石川のぎこちない態度が気になった。 つんく♂は顔色も悪く金髪もボサボサにほつれていて、数年前まで長者番付の常連だったとは思えないほどの貧相な容姿を二人の前にさらけ出していた。もっとも、こんな山奥では滅多に来訪者もおらず、あまり外見にこだわる必要も無いのかもしれないが、さんざんマスコミなどで叩かれている彼の凋落を目の当たりにするようで、加護は武道館爆破事件の重みを改めて感じたのだった。
この同窓会が開かれる一週間前―――9月16日―――のことだった。
いよいよ山奥のつんく♂邸に到着し、荷台から車椅子を降ろすとワゴン車のエンジン音が聞こえたのだろうか、玄関の大扉の前にすでに待ちかまえている洋館の主人の姿があった。 「いやあ懐かしいわな。俺も同窓会出席したいねんけどなぁ、正式にあれから一回もみんなと顔会わしとらんやろ?」 「ええ、加護だって今でも時々会っているのは梨華っちぐらいなんですよぉ、ねぇ?」 「う、うん・・・」月並みな挨拶に続いて、つんくが会話の中に何度も「懐かしい」を織り交ぜながら話しかけるが、やはり石川は本来の明るさを失っているように加護の目には映った。 エントランスで3人立ち話していても、石川はどこか、この場を一刻でも早く逃げ出したいという気持ちが見てとれる。つんく♂とはまったく目線を合わせようとしないばかりか、会話にも参加する気配がない。 そのうち、加護とつんく♂の二人だけの話が延々と続き、それを所在なさげに石川は聞いているだけといった構図になった。 居間で5分ほど3人で話したあたりだろうか、しばらくして背後からお手伝いさんの声がした。 「それじゃあ、寺田(つんく♂)さん、また一週間後に来ますんで宜しくお願いします」 「ああ、みっちゃん(家政婦)。お疲れやったな」 「あと、これ。今ポストを見たら亀井ちゃんと田中ちゃん、あとえーっと・・・道重ちゃんからの手紙が・・・」 「うん、あとで見ておくわ。そこに置いといて〜」 「それじゃあ、今日の夕食の分は用意しておきましたんで、私はこれで・・・」 「ああ待ってや、ちょっといま急用思い出したから俺ももう出るわ。このコらに屋敷の鍵渡して、なんか注意することあったら言うといてや」 「えっ、そうなんですか。 「ああ、悪いけど別にええわ。そや、俺の部屋にある荷物ねんけど・・・」急につんく♂が、慌ただしく出発の準備を始めた。 つんく♂も石川の様子がおかしいのを、先ほどから察しているのだ。急に部屋に置いてある旅行カバンを気にしたりと、バタバタと動き始めた。そこにはこの家の主人という風格は微塵も感じられず、まるで居候のような滑稽な雰囲気すら漂わせている。 加護も石川を誘ってつんく♂の部屋を覗きに行ったが、まだ所々散らかっていて、いかにも急に今出掛けることに決めましたというのが丸わかりだった。
しばらくして別れの挨拶もほどほどに、逃げるように主人は屋敷を出ていった。お手伝いさんのワゴンとつんく♂のマイカーであるクリーム色のジャガーに別々に乗って、2台連なって山道の向こう側に消えて行くのを、加護は一人で玄関から見送った。 「梨華ちゃん、男の人が苦手なのは分かるけど・・・あれだけお世話になった、つんく♂さんじゃない! 一体どうしちゃったの!?」 「・・・ごめんね、あいぼん。私・・・本当に・・・本当に男の人がダメなの」 「・・・・・」加護も、あの武道館の爆破事件で石川がファン数人に強姦されたのを知っていた。 それだけに、何も言えなかった。 居間に重苦しい沈黙が訪れる。それを破ったのは、石川の悲痛な一言。 「・・・私・・・私さえしっかりしていれば、ののと里沙ちゃんは死なずに済んだのに・・・」 「え? 梨華ちゃん?」加護と石川は、解散後もずっと友達の関係を続けてきた。 ただし、武道館の事件からの1年程は、お互い怪我の治療などでそれどころではなかった。 石川はその加護も知らない、Xデーから1年の間に自分の身に起こったことを静かに語り始めた・・・ |
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