今のおすすめCD

最近気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

"2000トンの雨/フェニックス"山下達郎(2003:Moon)

 山下達郎の新シングルは、またしてもタイアップつき。売上のためしかたないのか・・・。
「職人」として作曲する達郎は、タイアップのコンセプトに合わせ曲調を変化させてしまう。
 創作欲を最優先で作った、内省的な達郎の曲をぞんぶんに聴きたいもの。オリジナル・アルバムまでおあずけか。

 今回は新曲「フェニックス」と旧作「2000トンの雨」が収録されている。
 いわゆるA面扱いは「2000トンの雨」。これは単にプロモーション規模の差が理由だそう。

 5インチCDのシングルで、総収録時間は23分あまり。もっとも今は3インチの小さいCDって、ほとんど見ないね。
 カラオケや別バージョンなど、6曲入り。

 「フェニックス」はNHKの環境番組のテーマ曲として作られた。書下ろしの曲かは不明。手塚治虫の「火の鳥」を連想した。
 いっぽう「2000トンの雨」が復活したのは、映画『恋愛寫眞』のタイトルバックに採用がきっかけ。

 なんといっても「2000トンの雨」のシングル化が脅威だ。
 オリジナル・リリースは1977年12月20日のアルバム「Go Ahead!」。B面最後の曲だった。

 当時の思い出を、達郎がライブのMCで語ってた。
「"2000tの雨"は自分のキャリアでどん底の時。
 あれがB面ラストに入ってる「Go Ahead!」は、ノイズ・チェックを吉田保さんと二人きりで聴いた。
 "2000tの雨"のエンディング、エコーが消えたとき。
 『ああ。これでもう、ぼくは自分のアルバムを作らないんだな』と思った」

 だから達郎はこの曲の出来に、とても不満をもってたそう。
 「声が裏返ってる」とか、「中域が細い」とか。
 そこで映画に採用されたのを機会に、ボーカルを差し替えて難波弘之のピアノを足すという荒業に出た。
 再レコーディングでピアノはともかく、ボーカルまで・・・。
 しかも当時以上に、ふくよかな歌声がおそろしい。

 もっとも当時の青白い雰囲気の声だって好きだった。
 だから新バージョンが「歴史の美化」に思えてならない。
 あの裏返った声ですら、不安と若い情熱を感じさせてよかったのに。
 本人が狙った効果じゃないにせよ、ね。

 新旧verを二つ並べてクオリティを問われたら、迷わず2003年バージョンを選ぶ。
 だがあばたもえくぼじゃないか。何もそこまで過去を書き換えなくたってなぁ。

 今回のシングルは、当然ムーンからリリースされている。
 RCA時代の曲「2000トンの雨」をシングル化するに際し、契約的理由もあったんだろうか。
 オリジナル・テイクではムーンからリイシューできない、とかさ。
 もっとも達郎のことだ。たとえ一銭も入らなくたって、曲の出来が不満ならチャンス狙って再録したろう。

 なお「2003年バージョン」はマスタリングもばっちり。きれいな音圧に圧倒された。
 先日リイシューされた、RCA版よりも厚みあり。難波のピアノが足されたためか。

 そもそも「2000トンの雨」は文化放送の「ポップス・ハロー・パーティ」(1975)のテーマ曲がきっかけ。
 インストのエンディング・テーマを達郎が作曲し、その後半部分を膨らませたという。

 今回のシングルでいっぱいバージョン入れるなら、このときのラジオ・テイクも聴いてみたい。テープは残ってないの?
 ちなみにそのラジオ版のエンジニアは大滝詠一。かなりスペクター風味だったそう。

 いっぽう新曲の「フェニックス」を聴こう。
 こちらもスロー・テンポの、あったかいポップスに仕上がった。
 達郎らしい響きの打ち込みキーボードに誘われ、じわりと歌いだす。
 バラードよりちょっとテンポが早め。ロッカ・バラードってこういう感じだっけ?
 刺激に欠けるが、これはテレビ番組のコンセプトに合わせたか。

 あいかわらず隙が無い演奏・・・と言いたいが。なぜか一箇所、ベースがへんなフレーズを弾くところあり。
(*1)
 発売早々、MLで突っ込まれていた。
 完璧主義者の達郎がなぜ、フレーズをこのままにしたかわからない。

 だけどそれは枝葉末節。単純にこのポップスを楽しもう。
 ラジオでは「いい音で」と本人がさんざん強調するせいか、どうも聴いてる時に細かいところまで気になる。
 彼の曲を聴く時のみ、嗜好や聴くポイントが変わっちゃったよ。いかんなぁ。

 達郎は「なぜこんなとこまで気にする〜」と、重箱をつつくファンにあきれるが、ある意味当然。だって達郎自身がそうしむけてる。
 口でぼやいても、実はそんなファンを喜んでるのかもね。

 「フェニックス」はサビの3連に耳が引っぱられた。
 喉を大きく広げる達郎の歌を堪能できる。
 最初はシンプルで薄いバックの演奏が、曲の進行につれ次第に厚くなる。ロイ・オービスンを何となく連想した。

 なおカップリングされた各バージョンも聴きもの。
 映画の"タイトル・バックremix"な「2000トンの雨」は、ドラマティックな仕上がりになった。
 アカペラと弾き語りを曲の前後にくっつけた、さらに手が加わったverだ。

 細かい音使いがじっくり聴ける、カラオケの収録も嬉しい。
 今回はどっちもぶ厚いオケだから、なおさら。

 「TV Opening ver」の「フェニックス」はストリングスを頭に足して、サビへ繋げる。
 ちょっと安っぽい気がして、これだけはいまいち。

 「2000トンの雨」は25年前の曲。それが新曲「フェニックス」と違和感なく繋がって聴ける。
 いっぽうは生演奏、もう一方は打ち込みも多用。共通点は難波弘之のキーボードか。

 マスタリング技術もさることながら、変わらぬ視点とクオリティで作りつづける達郎の姿勢が素敵だ。

 しかし達郎の歌、ほんとすごいや。ますます脂がのって、極上のトロみたい。

(*1:「ベースがへんなフレーズを弾く」
 47秒あたり。ベースがつんのめるように装飾音を弾きます。
 符割りがかなり不自然。カラオケ・verだとはっきりわかります。
 
 もっともこれ、気にしないほうがいい。いったん耳につくと、もう離れません。いわば"Strawberry fields forever"のつなぎ部分みたいなもんです。)

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