■穏闇風会■
もう、何度目の襲撃だろうか。
そんなことさえも忘れさせるような美しい夕焼け。
ボロボロの屋敷のテラスからただそれを見つめていた。
「お姉ちゃん…少し寝たほうが良いよ」
不意に背後から声がかかる。
シルキアが部屋に入ってきていた事も気づかなかった。
「そうだね…」
少し疲れたような顔でシルキアに微笑む。
ここ数日は襲撃も無く、いつもの平穏に戻ろうかに見えていた。
シルキアが出て行き、一人ベットに腰をかけると
何故か涙が零れて来た。
さっと鎧などを脱ぎ捨てるとベットに潜り込んだ。
「父上…母上…」
ベットに寝転んでただ、小さい子供のように涙を流した。
そしてそれは深い闇を誘い、
そのまま吸い込まれるように眠りに落ちた。
その眠りの中でソールとシルキアは不思議な体験をする…。
――ここは…?
――お姉ちゃん?
――シルキア?何処にいるの?
――わからない…
――汝らに問う…
――だっ誰?
――闇を求めるか?太陽の名を持つ魔族の娘よ…
――闇を求めるか?幼き魔族の魔法使いよ…
――…そっそんな…貴方は父上の…
――……我が主は……死にたもうた……
沈黙が悲痛な叫びさえも飲み込み、
ただ、延々と黒い世界に波紋をたてている。
明かりが灯るように次第に自分と、
闇の主が見えるようになっていく。
――私は…私は…
――………
――私は太陽の名の娘…闇の力を欲するものなり…
――よかろう…
――僕は…
シルキアは感情を抑えきれず涙が溢れる。
――僕は…わからないよ…
――……そうか……
突如、シルキアの姿が消える。
――なっ何を!
――案ずるな…それよりも…汝に試練を課す…
――試練…?
そこで闇は途切れる。
目覚めると眩いばかりの朝日が窓から差し込んでいた。
「あれは一体…」
ふと、隣りを見やるとシルキアが可愛い寝息を立てていた。
寂しくなって部屋にきていたのだろう。
あれは何だったのか、考えながらシルキアを撫でる。
「試練…父上…」
溢れそうになる涙を堪えて上を向く。
まだそう決まったわけじゃない、と心を落ち着かせる。
鏡の前に立ち、身体を動かしてみる。
特に異常は無いように見える。
「ただの夢であってくれればいいのに…」
さっと服を着込むとシルキアの横に腰をかけ、
そっと髪を撫でてやる。
心地よさそうに寝返りを打つシルキア。
「大丈夫…私は大丈夫…」
起こさないようにベットから離れ部屋を出ると下の階に降りる。
丁度、剣豪セロニアスが帰ってきたところだった。
「よう、お目覚めかい?」
「うん、おはよう」
「顔色が悪いな、何か作るから待ってろ」
そういうとセロニアスは食堂へと消えていく。
しばらく食卓の椅子に腰をかけて物思いにふける。
次第に美味しそうな匂いが広がってくる。
すると心地よい風が吹き込み思考から解き放たれる。
ふと、窓に目をやると青年が窓に腰をかけていた。
日が差し込んでいてはっきりと見ることが出来ない。
「だっ誰?」
「誰でしょう?」
風に透き通るような声がソールの耳に届く。
そのとき丁度シルキアも食堂へ入ってきたところだった。
「あ、アリスたん!」
「え?」
ソールはシルキアの声で後ろを向き、
直にその青年へと目を向ける。
すらっとした体格に緑色の短髪を靡かせ、
赤い瞳の青年がそこにいた。
「わ、お久しぶりですvアリス様v」
椅子を倒しかねない勢いで立ち上がる。
倒れそうになる椅子をシルキアが慌てて受け止めた。
「お久しぶりな趣で」
そういうとアリスと呼ばれた青年はにっこりと微笑んだ。
食堂の物音にセロニアスが慌ててキッチンから出てくる。
「何者だ!」
「いえ、客人です、幼馴染の」
ソールが慌てて口を開く。
「これは失礼、しがない風の精霊アリスナレムと申します」
やはり清々しい笑顔で挨拶をする。
それを聞いてセロニアスも訝しげな顔を止め、
丁寧に挨拶を交わした。
何言か交わした後、セロニアスはキッチンへと戻った。
「アリス様、ゆっくりしていってくださいですv」
ソールは半ば強引にアリスナレムの腕を取ると椅子へ座らせた。
アリスナレムは少し参った顔をしたが、
ぎゅっと握るソールの手の力と、
少し涙ぐんだ目に負けたかのようにゆっくりと頷いた。
シルキアがアリスナレムの横に座るとそっと告げ口をした。
「お姉ちゃん、寂しがり屋だから…」
アリスナレムはそっと笑みでシルキアに返した。
その日は珍しく何もない日だった。
これから起こる全てを見透かすような・・・。