盲腸日記:第17話



第17話
神は居なかった。絶望と恐怖。
いささか力み過ぎたのだろう、頭がクラクラする。
目の前で火花が散る。貧血か。
そこかしこで火花のあがる黄色い廊下を
看護婦に連れられて戻っていく。
俺は今、どれくらいの速さで歩いているのか。
どれくらいの距離を歩いたのか。全くわからない。
本当に歩いているのかどうか、それすら怪しい。

気がつけば部屋の前まで来ていた。相変わらず真っ暗だ。
彼女に手を引かれてベッドへ戻り、
全身に痛みを感じながら横になる。
いつの間に用意したのか、横に立つ彼女の手には
しびんと細い紐の様なものが握られていた。
「それじゃあ管入れて出しちゃいましょうね〜」
おもむろに手術着の前を開け、包帯ふんどしをずらし、
チンコを取り出す。
俺の股間に、しびんが置かれる。

「ちょっと待て!麻酔とかしないのか!?何もなしか!?
盲腸なんぞより、コレにこそ麻酔を使うべきだろうが!」
そう怒鳴ろうとして彼女の顔を見たが、言えなかった。
悪魔だ。悪魔の顔だ。

彼女は右手に管を持ち、左手でしなびたチンコを支え
狙いを定めている。
「殺られる」
目を背け、天井の一点を見つめる。全身に力が入る。
全てが止まる。

「ちょっと痛いけど、我慢して下さいね〜」
直後、尿道に激痛が走る。
「ぃいってぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!」
思わず絶叫する。
まるで、カミソリを差し込まれたかの様な痛み。
それは留まる事なく、奥へ奥へと入ってくる。
「ぃぎぃいいいいぃぃぃぃ!!!」
右手で、ベッドの柵を掴む。ガタガタと音が鳴る。
全身が震える。

かなり奥(恐らく、根元辺り)まで入ったところで
彼女が手を離した。
「はい、後は自然に出てくるので、しばらく放っておいて
くださいね。また後で取りにきます」
彼女は部屋を出ていった。悪魔は去った。
管の違和感はあるが、痛みも少しづつ引いてきた。
直後、下腹部に液体の流れを感じる。小便だ。

俺の意志とは無関係に、小便が流れ出る。
体内からビニール管を通り、しびんに直接流れ出ていく。
少しづつ、とめどなく。
まさしく「垂れ流し」というヤツだ。

真っ暗な病室。老人は相変わらず呻き声をあげている。
遠くの部屋で、男が吐いている。
老婆のわめき声がこだまする。

左腕に点滴、右腕に血圧計、鼻にも管を差し込まれ、
ベッドの上で天井を見つめながら、
ただただ小便を垂れ流す。
「これが俺か。二十数年間の結果か」
酷く悲しかったが、涙は出なかった。

俺の中で、何かが猛烈に変化していった。

〜続く〜


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