「はぁい」
室内のスピーカーから、やる気のない看護婦の声が
聞こえた。
「またかよ、あのアホ患者」とでも言いたげな声だ。
1〜2分経っただろうか、ようやく看護婦がやってきた。
「どうしました?」という言葉が終わるのも待たず、
「背中が熱くてどうしようもないんですよ!どうにか
して下さい!」と叫ぶ。
看護婦は「う〜ん、、、」と唸るだけだった。
「そんな事を言われても」という声だ。
判っている。どうしようもないのは判っている。
だが、どうにかして欲しいのだ。
そんな願いも空しく、看護婦はあの言葉を放つ。
「我慢してもらうしか、、、」
まさしく「一つ覚え」というヤツだ。くそ。
「我慢できそうもありません」
毅然とした声で言い返す。
「毅然とした声で弱音を吐く」なんて、どうしようもない
くらいバカげた事だと思ったが、そんな悠長な事を
考えている場合ではなかった。
沈黙が支配する。
看護婦は、抜け落ちた血圧計を直しながら、
俺の様子をじっと見ている。
俺は暗闇にうっすらと浮かぶ看護婦の影を睨みつけ、
唸り声をあげ続ける。
「とりあえず、氷枕でも持ってきましょうか?」
やっと前向きな言葉が返ってきた。
「お願いします」
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
どれ程の効果があるか判らないが、ただ我慢させられる
だけよりはよっぽどマシな筈だ。
いや、これだけでも、かなりの前進と言えよう。
数分後、看護婦が氷枕を抱えて戻ってきた。
早速背中に当てがわれる。
最高の心地よさ。
背中の温度が急激に下がっていくのを感じる。
状況は、想像以上に好転したのだ
「大丈夫そうですか?」
「ええ、なんとかなりそうです」
俺の安堵の表情を見て、看護婦は帰っていった。
これでなんとか眠れそうだ。
今度こそ、目を覚ましたら朝になっている筈だ。
そう信じて、静かに目を閉じた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
目が覚めた。背中の痛みで。
辺りは相変わらずの暗闇だった。
「またか、くそ!」
氷枕に手を当ててみると、枕は完全に暖かくなっていた。
中の氷は溶けてしまったらしい。
即座にナースコールボタンを押し、やってきた看護婦に
氷枕を取り替えてくれと頼む。
今までにない素早い対応で、新しい氷枕が用意された。
これで朝まで持つだろう。
眠れ。眠るんだ。
自分にそう言い聞かせ、目を閉じた。
〜続く〜
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