おかしい。何かがおかしい。
全く眠れない。背中の痛みがまた酷くなっている。
氷枕の効果もこれまでか?
どうする?また看護婦を呼びつけてダダをこねるか?
いや、それは時間の無駄というものだろう。
氷枕以上の処置が施されることは、恐らく無い。
だがもうこれ以上、背中を氷枕に付けていても無意味だ。
とりあえず、背中に何かを当てているのは限界だ。
俺はベッドの上に体を起こした。
鼻のチューブと右腕の血圧計がまた外れる。
脇腹の傷が激しく痛む。
同時に、吐き気に襲われる。
一瞬の天国から、永遠の地獄へ。
こんなものか。
次に取るべき行動は、すぐに決まった。
トイレだ。
廊下に出れば、少しは涼むことも出来るだろう。
丁度良い、と思った。
看護婦に見つかったら怒られるかもしれないが、構うものか。
またしても老人のような格好になって、トイレを目指す。
長く、黄色い廊下。ずるずると歩く。
おぼろげな記憶を頼りに歩き、トイレに到着。
相変わらず、湿気たスナック菓子の匂いが充満していた。
この匂いで、吐き気がさらに強くなったが、それよりも
どこかに腰掛けて休む方が先だ。
吐き気はまだ我慢出来る。今は背中が最優先なのだ。
とりあえず、大便器の蓋の上に腰掛ける。
ドアは開けたままにしておいた。
最初は涼しかったが、それも僅かな時間だった。
狭い個室だけあって、速攻で温度が上がる。
嫌な汗が全身から吹き出す。
耐え切れずに個室を出て、トイレの洗面台に両手をつく。
吐く。何も出ない。
当然だ。昨日から何も食ってないのだから。
だが、吐き気は治まらない。ひたすら吐く。
吐く度に、脇腹に激痛が走る。
ほんの僅かな胃液と、涙だけが流れていく。
嗚咽が空しく響き渡る。
暫く吐き続け、ようやく吐き気も治まった。
再度ずるずると廊下を歩き、部屋に戻る。
氷枕を背にし、横たわる。
疲れた。酷く疲れた。
だが、この疲れが良かったのだろう。
今までとは違う、いつもの眠気に近いものが
静かに、そして素早くやってきた。
身を任せ、眠る。
泥のように。雑巾のように。
〜続く〜
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