盲腸日記:第20話



第20話
おかしい。何かがおかしい。
全く眠れない。背中の痛みがまた酷くなっている。
氷枕の効果もこれまでか?
どうする?また看護婦を呼びつけてダダをこねるか?
いや、それは時間の無駄というものだろう。
氷枕以上の処置が施されることは、恐らく無い。
だがもうこれ以上、背中を氷枕に付けていても無意味だ。

とりあえず、背中に何かを当てているのは限界だ。
俺はベッドの上に体を起こした。
鼻のチューブと右腕の血圧計がまた外れる。
脇腹の傷が激しく痛む。
同時に、吐き気に襲われる。
一瞬の天国から、永遠の地獄へ。
こんなものか。

次に取るべき行動は、すぐに決まった。
トイレだ。
廊下に出れば、少しは涼むことも出来るだろう。
丁度良い、と思った。
看護婦に見つかったら怒られるかもしれないが、構うものか。
またしても老人のような格好になって、トイレを目指す。
長く、黄色い廊下。ずるずると歩く。

おぼろげな記憶を頼りに歩き、トイレに到着。
相変わらず、湿気たスナック菓子の匂いが充満していた。
この匂いで、吐き気がさらに強くなったが、それよりも
どこかに腰掛けて休む方が先だ。
吐き気はまだ我慢出来る。今は背中が最優先なのだ。
とりあえず、大便器の蓋の上に腰掛ける。
ドアは開けたままにしておいた。

最初は涼しかったが、それも僅かな時間だった。
狭い個室だけあって、速攻で温度が上がる。
嫌な汗が全身から吹き出す。

耐え切れずに個室を出て、トイレの洗面台に両手をつく。
吐く。何も出ない。
当然だ。昨日から何も食ってないのだから。
だが、吐き気は治まらない。ひたすら吐く。
吐く度に、脇腹に激痛が走る。
ほんの僅かな胃液と、涙だけが流れていく。
嗚咽が空しく響き渡る。

暫く吐き続け、ようやく吐き気も治まった。
再度ずるずると廊下を歩き、部屋に戻る。
氷枕を背にし、横たわる。

疲れた。酷く疲れた。
だが、この疲れが良かったのだろう。
今までとは違う、いつもの眠気に近いものが
静かに、そして素早くやってきた。
身を任せ、眠る。
泥のように。雑巾のように。

〜続く〜


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