ウマいこといけへんなぁ。

2003.3.21(金) じゅんぺー、見てましたか?

  16日の日曜日、久しぶりに阪神競馬場へ出かけた。
  メインは、報知杯フィリーズレビュー(G2)。
  あと1ヶ月で桜花賞(G1)である。
  この時期の3歳、特に牝馬は、2歳時の活躍をそのまま当てはめて良いのかどうか、成長の見極めが難しい。
 パドックで、一見良く仕上がっているように見えても、能力的に他馬に追い越されてしまっていることが少なく
 ない。

  阪神競馬場は生憎の雨模様。
  メインのフィリーズレビューには、桜への3枚の切符を巡って16頭がエントリー。その中で1番人気に推さ
 れたのは、昨暮れの阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)2着のヤマカツリリー(牝3)。
  そう、あのリンデンリリー(牝15)の仔である。

  あれからもう12年の歳月が経つ。
  91年、リンデンリリーがエリザベス女王杯(G1)を勝ち、鞍上の岡潤一郎(じゅんぺー)が初G1制覇を
 果たしたその時から。前年、怪物オグリキャップ(牡18)に跨り宝塚記念(G1)に出走し、オサイチジョー
 ジ(牡17)の2着と敗れ、騎乗の未熟さ・気弱さをマスコミから散々叩かれ、言い表せないほどの屈辱を味わ
 ったであろうじゅんぺーが、レース中に故障していたリンデンリリーを気遣う複雑な笑みでウイナーズサークル
 に立ったあの姿を、ついこの前の出来事のように思い出す。
  それから1年と少し後。
  大学受験を控えつつも、私はこたつに入り横になりながら競馬中継を見ていた。京都競馬新馬戦、確か7Rだ
 ったと記憶している。1番人気に推されたのは、オギジーニアス、鞍上じゅんぺー。4角を回り先頭、これは勝
 てるな…と思ったその瞬間、オギジーニアスが故障、じゅんぺーは馬場の真ん中に放り出された。その上を後続
 馬が通過していく。レース後、カメラは動かなくなったじゅんぺーを映し出していた。重体。その後、かすかに
 脳波に反応が、というニュースが流れ、せめて命だけは…と願った。
  2月、私は受験に向かう電車の中にいた。じゅんぺーの死を知ったのは、その時だった。事故からおよそ2週
 間、生と死の間で必至に闘った彼は、力つきた。

  話をリンデンリリーに戻そう。リンデンリリーは、当時サイヤーランキングの上位にいたミルジョージの産駒
 だったが、母父キタノカチドキという地味な血統で、デビュー勝ちするもあまり注目された存在ではなかった。
 しかし続くKBS京都紅梅賞(3歳牝馬オープン、現在の紅梅ステークス)でも1着入線。桜花賞戦線に名乗り
 を上げたかに見えた。ところが進路妨害を取られて降着となり、さらにレース後骨折が判明、半年間の休養を余
 儀なくされる。復帰後、武豊を背に3戦1勝、何とかエリザベス女王杯トライアル・ローズステークス(G2)
 に間に合った。ここで豊が、春のG1で騎乗していたスカーレットブーケ(牝15)を選んだことで、じゅんぺ
 ーとの新コンビが誕生する。リンデンリリーはローズステークスを快勝、続くエリザベス女王杯も勝ち、一気に
 乙女の階段を駆け上がる。そして上でも触れたように、このレースを最後にターフと別れを告げることになる。

  91年という年は、前年オグリキャップが引退レース・有馬記念(G1)で奇跡の優勝を遂げた興奮さめやら
 ぬ中、競馬ブームの頂点を迎えつつあった。トニービン・サンデーサイレンス・ブライアンズタイム産駒に席巻
 される前のことで、騎手の世代交代が進んでいた時期である。じゅんぺーの同期騎手には、「千ちゃん」こと千
 田輝彦騎手、そして岸滋彦騎手らがいる。リンデンリリーがエリザベス女王杯に勝った翌週、岸騎手はダイタク
 ヘリオス(牡16)に跨りマイルチャンピオンシップ(G1)を勝つ。まさに若手騎手の黄金時代を迎えていた。
  じゅんぺーが逝く前、岸騎手はビワハヤヒデ(牡13)の主戦を降ろされる憂き目に遭う。その後はすべての
 歯車が狂ったかのように、ケガと騎乗馬に恵まれない日々を続けた。そんな岸騎手が、ついに先月引退。引退届
 を提出した日が、じゅんぺーの命日の翌日だったことに気づいた競馬ファンが一体何人いただろう?
  岸騎手の無念さ、心中察して余りある。

  今年のフィリーズレビューは、一度は下がりかけたヤマカツリリーが母譲りの勝負根性を見せて勝ち、桜花賞
 の有力馬に名乗りをあげた。因みに、リンデンリリーの新馬戦・紅梅賞に騎乗していたのは、今回4着に善戦し
 たユキノスイトピー(牝3)の騎手・須貝尚介騎手である。また、その紅梅賞が行われたとき湾岸戦争が勃発し
 た。12年後、同じようにイラクとの戦争が始まることになろうとは、歴史とは皮肉なものだ。

  母が果たせなかった夢、そしてじゅんぺーの想いをのせて。
  がんばれ、ヤマカツリリー。

   冬枯れの 淀のターフに散りし夢 永遠に忘れじ君の面影

                            (じゅんぺーの記念碑より)