アジア経済における業界再編
・資本力で変わるM&A
今やアジア経済は一昔前の様に世界の成長産業ではなくなってしまっている。
日本から飛び火したと言われている全世界的経済不況はアジアにおいてもかなり深刻なものである。
金融機関などの構造的問題は今からでも10年、15年はかかると言われている。
しかし今現在不況に陥っているのはアジアだけではなく、どこの国でも同じような問題を抱えている。そ
んな中で今最も企業の勢力争いの中で重要度を増している戦略がM&Aである。M&Aと一口に言っ
ても様々なタイプがあり、無 理矢理吸収合併するものから、友好的に提携して一つの事業を行うとい
うものまである。つい最近までのM&Aの流れと言えば後者の様に友好的に提携してというものが主
流であったが、ここ最近の状況を見てみると、意外な事に資本力にモノをいわせて必要分野の企業を
買収するというケースが見られる。例えば資本力という意味では今最も力があるであろう米「マイクロソ
フト」社。
「同社の時価総額は50兆円を超えている。理屈の上ではSONYも、松下も、日立も全部買えてしまう。
そういう時代が来たということだ。」(ソニー・プレシジョン・テクノロジー社長・佐野角夫)
国民の血税を4兆円もつぎ込んで救った長銀をリップルウッド・ホールディングスは総額1210億円で買
い取った。長銀がそうであれば日債銀に外資が殺到しても不思議はない。既に外資系の買い手にはJP
モルガン、GEキャピタル・米LBO投資ファンドや米大手保険グループなどの名も挙がっている。これは
日本市場のど真ん中で、投資効率を冷徹にはじく「資本の論理」が、自在に振舞い始めたことを意味して
いるであろう。
これからの企業社会を支配するのは、国境、規制、系列といった日本的秩序ではなく、グローバルなマー
ケット・メカニズムである。「マーケットの暴力」と嘆いてみても始まらない。
・中国での自動車産業
94年以降、自動車部品産業の中国進出が加速している。そして進出企業数の増加ばかりでなく、
その中味、質的な面でも94年以前とは大きく変容している。94年以前は、ワイヤーハーネスに代表
される労働集約的なメーカーが安い人件費を生かして先進国への輸出を目的とするパターンであっ
た。94年以降の動きはこれとは異なり、長期的に高い成長が期待できる中国の国内市場向けの生
産を目的とするものと、ある程度の量産規模が必要な部品、トラックなどのアジア域内での分業拠
点化を目的とするものである。94年以降の動きのきっかけは94年の新自動車政策と、95年の自動
車部品産業発展目標で、国産化、集約化、積極的な外資の導入が明確化された。これにより96年
以降、生産規模、国産化率等の条件を満たせば新規参入が認められ、外資規制も緩和される一方、
当初からの高い国産化が義務付けられた。これらを背景に完成車メーカーの中国プロジェクトが動き
出し系列部品メーカーにも進出要請が行われたこ
と、部品政策でも集約化が謳われ、出遅れると
参入条件が厳しくなるという観測が、進出ラッシュに拍車をかけているとみられる。
現状では厳しい投資環境の中、130社以上の完成車メーカーと2000社以上の部品メーカーの大
半が小規模、低生産性に喘いでいる。しかし政策が明確化されたことで日系自動車・部品メーカーの
長期的なスタンスも中国国内向けにせよ、アジア域内での分業拠点であれ、徐々に定まってきた。
中国事業では、早くから進出し順調に基盤作りが進展しているいすゞや小糸製作所の例に見られる
ように、長期戦で欧米とは異なるビジネス感覚、忍耐強いコミットメントが必要であるが、それを支え
るのは日本本社の中国ビジネスの造詣の深さと経営陣の決断、信念であると思われる。
自動車産業のM&Aについて
自動車産業のM&Aが注目されるようになったのは、ダイムラーベンツ社とクライスラー社との合
併を契機としてである。この頃から400万台クラブという、年間400万台以上生産する自動車メーカ
ーでなければ生き残れないという話が流布しだした。世界で6社(グループ)程度の自動車メーカー
になると言われている。以前は250万台クラブと呼ばれていた。自動車業界はより寡占化が進むも
のと考えられる。M&Aの買い手の目的としては、次のような項目がある。
1.外部経済資源(人材・各種ノウハウ・販売ルート、技術、設備など)の獲得。
2.時間の節約
3.シナジー効果(相乗効果)の獲得
売り手と買い手の経営資源の融合により得られる相乗効果の獲得
4.供給過剰リスクの回避
業界内の過当競争回避・軽減によるマーケットの維持
また、M&Aの売り手の目的は、次の項目が考えられる。
1.事業継承
2.創業者利益の獲得
”創業者利益の獲得”は後継者難、事業存続のために多額の投資資金が必要になるため等の売
却がある。この場合には事業業績が良い時に売却し、多くの利益の確保を目的とする。M&Aの
中で創業者利益の確保の割合は少ない。
M&Aの中で比率で圧倒的に多いのは、事業継承のためのM&Aである。次の3つの要素を含ん
でいる。
1.事業本体の売却
2.業績不振の部門・子会社の売却
3.資金捻出のための部門・子会社の売却
事業本体の売却とは、日産自動車の場合にはルノーとの提携であり、株式の第三割当の増資
である。事業不振の部門・子会社の売却は、利益率の悪い事業を売却して、本業の利益率を向上
させる。また、資金捻出のための部門・子会社の売却は、本業に専念して、核となる事業を築くた
めに行われる。自動車事業に限らず多くの事業では、同じ用途に使用してこそ資産の価値が保持
される。そのために事業の継承は、利害関係者の利益保全の面を持っている。
・再編後のターゲット市場はアジア
ドイツのダイムラー・ベンツ社が経営不振に陥っている日産ディーゼル工業を買収するというニュ
ースは、世界中に衝撃を与えた。それは強い日本経済の象徴だった自動車産業でさえも、生き残り
のための国際的な業界再編が避けられない現実を明らかにされたからだ。ドイツのフォルクスワー
ゲンは英国のロールス・ロイスを買収し、ダイムラー・ベンツは米国のクライスラーと合併する事で
合意した。日産ディーゼル買収劇は、そうしたグローバルな自動車メーカーの戦略の一環だ。
再編を進める巨大メーカーの狙いは、世界市場での占有率(シェア)を高めることと、膨大な資金
を要する技術開発力の向上にある。日産ディーゼルを買収するダイムラー・ベンツの狙いは前者に
ある。自動車業界にとって、アジアは最後の成長市場といわれる。性能と品質の良さで定評のあ
るダイムラー・ベンツだが、アジア地域での売上は全体の6パーセント程度しかない。
同社は、この売上比率を10年以内に訳25パーセントに引き上げる計画だ。今回の買収は、まさ
にその足掛かりと見ることができる。
・総論
この事から自動車産業においてはまだまだ有望なアジア市場は、欧州に目が行きがちな最近の
市場動向ではあるが、ダイムラーベンツの日産ディーゼル買収にも見られるように、徐々にではあ
るが回復しつつある経済動向の中で日増しに重要度を増している。実際には生産台数も伸び悩ん
でいるアジア市場ではあるが、これから5年、10年というスパンで見ていく場合、今ある全世界的
な経済不況を前に、今まで培ってきた経営方法や様々なノウハウを捨てて日本に撤退する企業も
多いが、それこそ多大な損害を企業に与えているものと思われる。長期的な目で見るならば、ダイ
ムラー・ベンツのように着々とアジア進出計画を遂行していっている企業の方が懸命であろう。
今回はその方法としてM&Aを挙げさせて頂いたが、もっと様々な方法があり、より多角的な目
で市場動向を捉え、進出していく必要性が、こんな時だからこそ必要なのではないだろうか。
1999.11.16