| フェイバリット・アルバム・レビュー
原子心母
おせっかい
狂気
炎 〜あなたがここにいてほしい〜
アニマルズ
原子心母
70年発表。ヒプノシスの手による牛(ルルベル3世という名前らしい)のジャケットと「原子心母」という邦題が印象的なアルバム。「プログレ」の定番アルバム。
原題が「ATOM HEART MOTHER」であるからこれ以上ない直訳であるが、その辺はご愛嬌。肝心の内容であるが、まず現代音楽家のロン・ギーシンと共に作った23分強のアルバム・タイトル曲が素晴らしい。全く破綻のない形でオーケストラとロックの見事な融合を見せている。私は、ピンク・フロイドは、アドリブの利きづらいオーケストラを相手にしたこの曲を作ったことを堺にして、偶発的な音作りから卒業し、一部の隙もないいわゆるフロイドらしい緻密な音作りをするようになったのではないか、と想像するのだが、どんなものであろうか。残りの曲も優れた曲が多く、またウォータース、ライト、ギルモアそれぞれの曲が収録されていて、この頃はまだバンド内の民主制が保たれていたことがわかる。ラストの「アランのサイケデリック・ブレックファスト」は調理中の音や朝食時の会話などの音を盛り込んだ完全なお遊び曲であるが、そういったSEと演奏部分の配置が絶妙で聴き手を退屈させることなく、曲としても十分成立している。特にこの手のお遊びソングは後期フロイドには全く見られなくなるので、そういった意味でも貴重なトラック。
現代の4〜5分の曲に慣れている人には、この手のいわゆる「プログレ」アルバムは馴染みづらいところもあるのかもしれないが、時間や心の余裕のある時にじっくり聴いてみると、その良さがわかると思うし、それほど難解でもないこともわかってもらえると思うのだが・・・。
おせっかい
71年発表。原題は「meddle」。
アルバムの流れとしては前作「原子心母」を踏襲していると思うのだが、サウンド的にはオーケストラをフィーチャーした前作とは一変し、シンセサイザーを多用した音作りへと変化している。ブッチャーの入場曲でもお馴染みの「吹けよ風、呼べよ嵐」と映画「2001年宇宙の旅」のラスト23分とシンクロしているとも言われる大作「エコーズ」ばかりが注目されるようであるが、私としては、中盤のアコースティックな小曲群にもかなりの趣があると思うし、アコースティックな作品もピンク・フロイドのもうひとつの核と言えると思う。
「原子心母」と次作「狂気」の間にリリースされた作品、ということで、少し気の毒な立ち位置ではあるが、アルバム全体としても十分に聞き応えがある。歴史的名盤・・・は言い過ぎかもしれないが、キャリア的にももっとも充実している頃の作品で、名盤と言って差し支えないと思う。
狂気
73年発表。歴史的名盤と言われるアルバム。原題は「THE DARK SIDE OF THE MOON」。
私は、歴史的名盤などと言われると、ほんとかよ、とつい疑ってしまうあまのじゃくであるが、このアルバムばっかりは歴史的名盤であると認めざるを得ない。「マネー」などのヒット・シングルも収録されているが、そういったシングル曲もすっぽりと違和感なく吸収してしまうほど、アルバムの完成度が高い。まるでアルバムに1曲しか入っていないかの様な見事な構成で、コンセプト・アルバムとしては、このアルバムを超えるアルバムはないのではないか、とさえ思ってしまうほどである。
ところで、最近ではエレクトロニカやら音響系やら、と色々なジャンルがあるが、このアルバムにおいては、プログレと言われればプログレだし、ロックと言われればロックだし、音響系と言われれば音響系だし・・・と結局、現在の音楽の要素をほとんど含んでいるのではないかと思われる。そんな訳で、発売から30年以上経った現在でも少しも古さを感じさせない・・・というより今なお、未来的なアルバムと考えてもいいのではないだろうか。
炎 〜あなたがここにいてほしい〜
75年発表。原題「Wish you were here」。
前作の大ヒット、そして前作から2年半振りのリリースということもあってかなり期待されたアルバムであったが、前作の様なトータル・コンセプト・アルバムではなく、どちらかと言えば、内省的なアルバムで当時としては大分拍子抜け感があったようだ。しかしながら、現在では「狂気」と並んで評価も高い。
現在再評価されているのもある意味当然な話で、純粋に曲の良さ、メロディの良さで言えば、他のどのアルバムよりも粒ぞろいだと言える。「狂気」とは趣が異なるが、「狂気」と並ぶフロイドの最高傑作と言っても差し支えないのではないだろうか。
アニマルズ
77年発表。
人間を犬(インテリ)、豚(資本家)、羊(労働者)に見立てて、社会批判を試みるコンセプト・アルバム。作詞、作曲ともほとんどウォータースひとりで手がける様になり、リーダーシップを発揮すると共に他メンバーとの確執も表面化する。
発表当時も現在もあまり評価の高くないアルバムのようであるが、私は結構好きなアルバムである。確かにロジャー・ウォータースの独善的な価値観の押し付けが見られ、辟易する部分もなくはないが、これまでになくミニマムでハードな音作りで、全編に緊張感が漂っている。特にギルモアの変幻自在のギターは素晴らしいし、バンドサウンドとしても、タイトで心地よい演奏だと思う。アレンジも素晴らしくSEの配置や、ともすれば陳腐になりがちなヴォコーダーも実に効果的に使っている。
とは言え、前作であれだけメロディメーカーとしての才能を発揮したにも関わらず、今作においては特に印象に残るメロディの曲はほとんどない。こういう表現が適切かどうかわからないが、レッド・ツェッペリンの「プレゼンス」の2曲目以降を並べた様な感じの作りである。ただ印象的なメロディがないからこそ、純粋に緊張感のある演奏を繰り返し楽しめる、という部分もあり、「プレゼンス」同様、ファンの間でも評価が分かれるのはある意味仕方のないことなのではないだろうか。私としては、ハードロック好きな人間であれば、楽しめる作品だと思う。
|