Foll‘n―天使hokaku―

 

抱きしめた手を背中に滑らせる。肌触りを楽しむように、今度は撫で上げた手で、くっきりと浮き出る肩甲骨の下を丹念に愛撫する。

「ん…」

掠れた声が漏れてきて、伊藤は見えないように笑みをこぼした。

ここは、いつしか覚えた黒田の感じる場所の一つだ。

「やめ…ろっ…て…!」

ほとんど口を開くことの無い黒田が、制止の言葉を吐く。笑みを深くして軽く爪をたててなぞる。

「やっ…」

黒田が苦しげに眉を寄せる。その表情に誘われるように頬に手を伸ばした伊藤は、自分の手に付着しているものに眼を見開いた。

血で紅く染まった手。

ハッとして伊藤は黒田の身体を裏返した。

「やめろ!」

黒田が伊藤の行動を遮るように抵抗をはじめたが、構わず伊藤は黒田の身体を拘束した。

暴れる黒田を押さえつけて見た背中には肩甲骨の下に並ぶ、血を滲ませた二本の傷跡。

「黒田…。お前…」

伊藤は、呆然としたように呟いた。思考が白い闇にさ迷いこんで行く。今までの記憶が曖昧になって、現実との境が見えなくなる。

今、自分の前に居るのは「黒田倫弘」だ。だが、それはいつからだ?その前は…?

答えを求めるように黒田を見詰めると、肩越しに振り向く黒田の瞳の中に、意識が吸い込まれていく。

(確かに、俺は知っている…)

「…だから、やめろって言ったのに…」

意識を失って自分の横に沈み込んだ伊藤を抱き寄せ、黒田が呟く。

身動きするたびに、決して消えない背中の傷が疼く。

「…罪は二等分。堕ちるなら一緒だろう?」

黒田は抱きしめた伊藤の肩に顔を埋めて呟いた。

 

fin