INNOCENT NIGHT

 

 

スイートルームフロア直行のエレベーターを降り、両手に下げた荷物を軽く持ち直して黒田はベイサイド側の部屋のドアに向かった。

荷物でふさがった両手ではチャイムを押せず、ムートンのコート越しの肘で行儀悪くチャイムを押す。

「あ、お疲れさん」

ドアを開いて迎えたのは伊藤だった。

「重かった〜。一個持ってよ。あれ?みんなは?っていうか大ちゃん達は?」

玄関を抜けるとリビングが広がる。ベイサイドビューが売り物だけあって大きく窓が取られている。リビングの左はベッドルームとバスルームがあり、右にはゲストルームとキッチンが備え付けられている。

部屋の内装もシックな色合いで統一され、装飾品も華美ではなく落ちついた雰囲気のものが並び、さすが高級ホテルのスイートという部屋の造りになっていた。

そんなスイートルームではあったが、黒田が浅倉に頼まれた買い物に出掛けるまでは、浅倉を始め、安部等々が揃い、スタッフルームと化してバタバタしていたのだ。だが、今リビングには伊藤以外の姿は無く、買い物を届ける相手の浅倉すら居ない。

「なんでぇ…?」

黒田は思わず手にしていた荷物のぺディグリーチャムの缶を見下ろした。部屋の中を走り回っていたアニーとアルの餌のはずだ。

「大ちゃん達は、少し前に帰ったよ」

「ええっ?これどうすんだよ?大ちゃん家に届けるのか?」

真剣に問う黒田の様子に伊藤は苦笑した。

「届けるのは明日でいいさ。今日はゆっくりしてけって」

「え?」

伊藤の困ったような可笑しさをこらえているような表情を訝しげに見返した黒田に、伊藤が告げた。

「これが大ちゃんから俺へのクリスマスプレゼントだよ」

「なっ…」

絶句して黒田は改めて伊藤を見詰めた。嬉しそうに笑う伊藤の顔がすべてを物語っている。

「…俺の人権てどこに行ってるんだよ…」

思わず呟いた黒田の声に伊藤は後ろポケットに手をやると取り出したものを黒田の手にリャリンと落とした。

「そして、これが俺からのプレゼント」

クラシカルな装飾の付いた鍵が黒田の手の上に乗っていた。この部屋の鍵だと分かる。セキュリティ自体はカードで制御しているくせに、別に鍵を造っているあたりが、高級志向なのだろうか。

「選んで良いよ。泊まるか、帰るか」

ここまでお膳立てをされているのに今更どうしろと言うのか。黒田は伊藤の妙なところの律儀さに溜息をついた。

「…スイートルームに人の金で泊まれるなんて滅多にないよな。向こうにミニバーもあったっけ」

荷物を隅に置いて、黒田はゲストルームに向かおうとした。それを伊藤の腕が抱き留める。

「黒田…」

見詰められて黒田はきまり悪そうに視線を外した。伊藤の手が黒田の顔をつつんで正面に戻す。

「後でいいだろ?」

そう囁いて伊藤が唇を寄せてくるのを、黒田は軽く眼を閉じて受け止めた。慣れたように舌がしのび込み、黒田のものに絡みつく。息苦しいほどの接吻を交わしながら伊藤の手が黒田が身に着けたままのコートのベルトを解いた。合わせ目から手を差し入れると中は薄いシャツで、生地の上からでも薄い胸の筋肉と伊藤が与えた刺激で硬くなった突起を感じることができる。

「ん…っ」

黒田がその伊藤の手を取ってどけようと身を捩る。その動きが逆に伊藤がコートを脱がせるのを手伝って、簡単に黒田の身体からコートが剥ぎ取られる。

「…ったく、なにがっついてんだよ」

黒田が憎まれ口をたたくのはいつものことで、薄っすらと赤みのさした目許が伊藤の欲を誘う。

「ほしいんだって。今すぐ」

耳元で囁かれて黒田の身体がびくりと震える。伊藤の肩に顔を伏せたようにしていた黒田が掴んでいた肩を押し戻してボソリと呟く。

「シャワーくらい使わせろよ…」

自分の台詞に伊藤の顔が笑みに崩れるのを黒田は恥ずかしい思いで眼に止めながら、緩められた腕から抜け出した。未だに不思議なのだ。伊藤が自分を好きだと言い、こうして欲しがることが。

足元に落ちたコートを伊藤が拾い、ベッドルームのワードローブに掛けようと運んでいくのを見て、黒田は一つ溜息をついてバスルームに向かった。

バスルームのドアを開けると脱衣所と洗面で、そこに据え付けられた優雅な曲線を描く装飾のついた三面鏡が黒田の半身を幾人にも映し出す。黒のパンツに白のシャツという普段と変わらない自分の姿。鍛えていても相変わらず細い身体。だが決して女のようではない。

くしゃりと髪を掻きあげて黒田は鏡を見ないようにして服を脱いだ。擂りガラスでできた浴室のドアを開く。

「…さすがスイートってことかな」

思わず独り言を言うくらいベージュとクリーム色で統一されたタイル張りの浴室は広く、大理石でできた大きな浴槽は黒田が3人くらい入っても余裕なくらいの広さで、ガラスで仕切られたシャワールームが別に備わっている。浴槽に湯を張りながら黒田はシャワールームに入った。コックを捻ると程よく調節された湯が降り注ぐ。目を閉じて頭からシャワーを浴びる。身体がゆっくりとほぐされていく心地良さに浸る黒田の耳にドアの開く音が入り、あわてて入り口を振り返ると伊藤の姿があった。

「俺も一緒に入りたい」

伊藤があっさりと口にして入ってくる。驚いて黒田はシャワールームのドアを開けて怒鳴る。

「バッ…。いやだからな!」

「なんで?ここのバスルーム広いじゃん」

黒田の抗議など気にする様子もなく、伊藤は浴槽の湯加減をみながら身体をながすとさっさと湯船に浸かってしまった。そして怒ったままの顔の黒田を面白そうに見上げる。伊藤の位置からは丁度黒田が正面に見えるようになる。幾何学模様のすりガラスで覆われているのはガラスの下半分だけで、長身の黒田の半身は伊藤からそのまま見えている筈だった。今更と思う反面、どうしても伊藤の視線に晒されるのが耐えられずシャワールームを出て行けない。

浴槽の湯の注ぎ口を止めようとして伊藤が後ろを振り返ると、思わずホッと溜息が漏れそうになる。

「へぇ…。これジャグジーにもなるんだ」

後ろを向いたまま、蛇口の側でなにか見つけたらしい伊藤が声をあげた。

「来てみろよ、黒田」

伊藤の声に迷う気持ちを振り切られて黒田はシャワールームを出た。浴槽に近づくと伊藤が笑って湯を指差す。浴槽の側面からジェットの泡が吹き出してジャグジーに変わっていた。

「あ、ほんとだ」

黒田が一歩近づいた瞬間、伊藤の手が伸びて黒田を浴槽に引きずり込んだ。派手な飛沫が上がり、ほぼ頭からお湯に飛び込む形になった黒田は、口に入ったお湯にむせながら自分を抱きあげた伊藤の顔を見詰めた。

「な…、なに考えてんだよ!」

一瞬遅れでやって来た怒りのまま伊藤に食って掛かる。

「ゴメンって」

伊藤は滴のしたたる黒田の髪を掻き揚げると黒田を抱き寄せて接吻た。伊藤に誤魔化されるような気がして抵抗しようとして黒田は自分の態勢に気付く。抱きとめられたまま伊藤の上にいるのだ。伊藤の思うままになったと今更ながら気がついた。

「一緒に風呂に入るなんてことないじゃん。家のじゃ狭いしさ。一度入ってみたかったんだって」

黒田を抱きしめたまま離そうとしない伊藤が臆面もなく言ってのける。

「…そのオヤジ的発想をどうにかしろよ」

頭を抱えたくなるような気分で黒田は呟いた。

「黒田、ここには誰も居ないし誰も見てない。だから他人の眼なんて気にしなくて良いんだ」

諭すような伊藤の口調に、黒田はどきりとして伊藤の顔を見上げた。自分が拘っているものを指摘されたような気がして視線を合わせられない。

「焦らされるのは好きじゃないんだ、欲しいって言っただろう?」

伊藤の言葉とともに背中に回された手が黒田を抱き寄せる。伊藤の唇が重なってくるのを受け止める。角度をかえて接吻が交わされ抱きしめていた手が黒田の身体をやわらかく愛撫する。それだけで黒田は浸かっている湯よりも体温が上昇していくのを感じた。いつもと違うシチュエーションといつもに増しての伊藤のストレートな欲求が興奮を煽っているのかもしれなかった。

「ん…!」

首筋に伊藤の歯が立てられると思わず口をついて声が漏れる。浴室の篭った空気の中に甘く響く気がして、黒田は唇を噛んだ。

「構わないって」

伊藤は黒田の顎を掴んで噛み締められた唇を解くように舌で舐めた。何度かなぞられて探られ、黒田は耐えられないように唇を開いて吐息を漏らした。

伊藤の指が黒田の背筋をなぞり、馴らすように後ろに触れていく。

「や…っ」

どうしても慣れることのできない感覚に黒田は眉を寄せ身を硬くする。伊藤はその表情に微かな罪悪感を覚えながら閉じた瞼に接吻て、黒田の腰を抱き寄せた。

「…い…っ…!」

伊藤の背に回された黒田の手が爪を立てる。その苦痛を訴える声を唇で飲みこみ、伊藤は耳元で繰り返し黒田の名を呼ぶ。

伊藤を受け入れる痛みに耐える黒田を宥めるように触れていく指と唇に、少しずつ溶かされていく身体を黒田は熱さの中で感じていた。

「好きだよ…好きだ…」

伊藤の囁きが黒田を快楽の淵に落としていった。

標準を越える長身の二人が並んでもまだまだ余裕の大きさのダブルベッドにうつ伏せになり、黒田は眠りと覚醒の合間の心地良さを漂っていた。少々少女趣味めいた作りのベッドルームはここがスイートルームという事を考えると仕方ないのかもしれなかった。スプリングが程よく利いたベッドは、黒田の指を動かすのも億劫なほどだるい身体を包み込んでくれるようだった。

「ん…」

ひんやりとしたものが頬に当てられ、黒田は目を開いて顔を上げた。

「ほら」

見ると伊藤が氷と琥珀色の液体の入ったグラスを差し出していた。レザーのパンツにシャツを羽織っただけの伊藤は、黒田が横になっている間に用意をしていてくれたらしい。ゆっくり起き上がってそれを受け取ると黒田は一口飲んだ。薄めに作られた水割りが火照った身体に沁みていく気がした。伊藤はビールの缶を呷りながら、シーツを巻きつけて座る黒田のすぐ横に腰掛けた。

人の重みで僅かに沈み込んだマットにつられて黒田の身体が伊藤の方に傾く。体温を感じられるほど近づいた黒田の身体を伊藤は空いている右手で後ろから軟らかく抱きしめた。

戯れるように手を胸に滑らせ、肩口に寄せた唇を項に這わせる。

優しい感触のはずが黒田の身体の中でゾクリとする刺激に変わり、グラスを持つ手も危うくなる。

「…やめろって。酒がこぼれるだろ」

そんな言葉で伊藤を離そうとするが、伊藤は苦笑を浮かべて自分の缶ビールをベッド脇のサイドボードに置くと、黒田のグラスを取り上げ、自分の口に一口含んだ。

「ちょっ…、まだ飲んでる…」

グラスを取り戻そうとする黒田の顎を捕らえて唇を重ねてアルコールを口移しに注ぎ込んだ。驚いて目を見開いたままだった黒田も目を伏せて口に広がるバーボンを飲み下した。口の中に忍び込んだ伊藤の舌が甘さを増していく気がした。充分に黒田の唇を楽しんで離れた伊藤は、どこか触れていないといられないかのように再び黒田の肩を抱き寄せる。黒田はその腕が嬉しいような、ふと怖くなるような気がした。

「…明日、お前はどこにいるんだろうな」

呟いた伊藤の口調の変化に黒田は伊藤の顔を見やる。向き合う顔、絡まる視線の先の冷えた眼差しにドキリと心臓が跳ねた。

「明日って…。一緒に仕事だろ。」

分かりきっているスケジュールのはずだった。ここに居られる時間も限られている。こんな時間が持てること自体が珍しいのだ。

「そうじゃなくて、夜さ…。お前は誰といるんだろうって思うよ」

明日の夜。クリスマスイブだ。

「誰とって…」

なぜか身体が引けていくのを黒田は感じた。こんな感じは苦手だと思う。

「何を言ってんだよ…。夜までどうせかかるし、きっとみんなでクリスマスをやるに決まってるだろ。毎年同じ…」

伊藤の眼が細められて、見詰められたままの黒田の声が途切れる。喉に声が絡まる気がして声が震える。

「…帰って、ラピにご飯あげて…」

「黒田…」

伊藤の声が聞きたいのはそんな言葉ではないと告げる。肩を掴んだままの手に力が込められる。息を飲みこんで黒田は口を開いた。

「一人だよ…。明日も明後日も!知ってるだろ?!

自棄を起こしたように怒鳴る。今は誰とも付き合っていない。付き合っていると言っていいなら、今は伊藤とのこの関係だけだ。

「良かった…。お前が誰かと明日の夜を過ごすくらいなら、このままお前を閉じ込めようかと思った」

さらりと言われた言葉の内容を反芻して黒田は眼を見開いた。薄い伊藤の唇が皮肉っぽく笑いを形づくる。

「俺、けっこう本気だから」

伊藤は固まったままの黒田の唇に指で触れてやわらかさを楽しんで唇を重ねた。

「そんなに驚く事か?信じてなかった?」

心外だと言いたげな伊藤の言葉を否定できない黒田だった。

初めての時のことは記憶が定かではない。ただ抱きしめられて、好きだと口説き落とされた気がする。

信じていなかったわけではないと思う。だが信じきれる確証が何もなかったのだ。

自分を抱きしめる腕も、受け入れる熱さも現実ではあったが、気まぐれのように時々求めてくる伊藤に流されて快楽を共有しただけの気がしていた。

確かに自分も伊藤を好きだと思う。でなければ同性の伊藤とこんな関係を続けるはずはない。だが、自分の中にも確信がなかった。

ただ、伊藤に触れるたび苦しさが胸の中に積み重なった。

「そんな眼をするなよ…」

不安そうな眼で自分を見上げる黒田の眼差しを受けて、伊藤は溜息混じりに苦笑する。この眼に弱い自分を知っていた。保護欲と嗜虐性の両方の感情を煽られる。言いたかった言葉はいつもこの眼に遮られていた。

「今日だから言わせろよ、お前の嫌いな言葉」

伊藤は黒田の首を抱き寄せて片手で黒田の眼を塞いで接吻た。その唇を耳元に滑らせ囁く。

「愛してるよ…」

想いの丈を込めた告白。

瞬間、呆然としていた黒田が自分の目を塞ぐ伊藤の手をどけようと手を掴んだ。外せないよう力を込められた手を振り切ると、伊藤の眼を食い入るように見詰める。

「…本当に?」

「もう一度言おうか?」

口を開きかけた伊藤を、首に腕を回して引き寄せた黒田の接吻が塞ぐ。驚いて黒田を抱きとめた伊藤が深く重ねられた黒田の舌を絡めとり、濃厚な接吻に変える。

「言えよ、何度でも。俺が信じられるまで…」

唇を開放されてもまだ伊藤の首に抱きついたままの黒田はくぐもった声で告げる。今、自分の中に湧き上がるこの気持ちをどう言葉にすれば良いのかわからなかった。嬉しくて苦しいような、切なさが胸を焼く。

伊藤はシャツを透して染みてきた水滴に気付いて黒田の身体を引き離そうとした。嫌がって顔を伏せたままの黒田の身体を、そのまま入れ替えてベッドに押し付ける。

「黒田…」

「バカ!見んなよ」

憎まれ口すら愛しいと思う。両腕で顔を隠す黒田のすべてが伊藤を誘っていた。羽織っていたシャツを脱ぎ捨て、黒田に身体を重ねて抱きしめる。

「愛してる。愛してるよ…」

繰り返す言葉は、伊藤がずっと告げたかった言葉だ。本気で想われるのを恐がる黒田を知っていた。何人の女と付き合っても、それは変わらなかった。受け止めてもらえるのかどうか分からない不安を抱えていたのは自分だ。

喉元に舌を這わせて、晒された胸元に軽く接吻ける。

「いい…?酷くしないから」

黒田の両腕を外しながら伊藤が、嫌がって目を瞑って横を向いた黒田の目じりに残る涙の後を舐め取る。

返事を返せるわけのない黒田に接吻けて、手を胸から腰にさ迷わせた。胸の赤い飾りに舌を絡めて舐め上げる。

「ん…」

黒田の手が耐えるように伊藤の髪に指し入れられた。黒田の感じている快感を指が伝えるようで伊藤はさらに愛撫の手を強めた。唇を下に滑りおろし形の良い臍に接吻け、ゆっくりと片足を引き上げる。腿の内側を奥へとなぞると引きつったように黒田が全身を強ばらせる。

身を起こした伊藤は枕元の小ビンを取り上げた。コルク栓を取るとふわりとバラの香りが漂う。ビンを傾けて中の液体を指に取ると黒田の奥にそれを塗りつける。

「や…っ。バカ…。変なもん使うなよ…っ」

身体に触れる冷たい感触に黒田は忙しない息の下から抗議の声をあげた。

「ただのオイルだよ。傷つけたくないんだって」

そう言って入り口をなぞっていた指をそっと中に挿しこみ、熱い内壁に馴染ませていく。

「やぁ…っ」

身体の内側でさざめくむず痒いような感覚に黒田は耐えられないように身を捩った。体温で滑らかに溶け出したローズオイルが鮮やかな香りを撒き散らす。

肌を薄っすらと紅く染めて身悶える黒田の姿と指に絡みつく熱が伊藤を熱くする。黒田の中心に愛撫の手を伸ばしながら、充分に中が潤ったのを確認してゆっくり指を抜き取った。

「力、抜けよ…」

ぎゅっと目を瞑ったままの黒田に囁いて、立てた足を抱きなおしてゆっくり押し広げた。

「ん…!」

伊藤の熱を感じた瞬間、黒田の身体が強ばったが、伊藤を受け入れようと息を吐いて力を抜こうと努力する。オイルで潤された内側は、一度めの時よりも滑らかに伊藤を受け入れ、熱く伊藤を締めつける。そっと伊藤が突き上げるたびに、痛いほどに伊藤を締めつけ、快楽をもたらして来る。欲望のまま黒田を貪りたくなる逸る身体を押さえて、伊藤は黒田の快楽を煽る。接吻て舌を絡め取りながら、手は中心への愛撫を強める。黒田の手が背にしがみつくように回されるのを嬉しく感じる。

「好きだよ…」

何度も繰り返した言葉をまだ足りない思いで繰り返していた。

「…お…れもっ…」

限界の近い黒田が漏らした言葉に伊藤は驚いたように黒田の顔を見詰めた。辛そうに眉を寄せた表情に自制が飛ぶのを感じた。

「黒田…!」

黒田の身体を抱きしめ、欲しがる感情のまま激しく突き上げる。

「あぁ…っ!」

黒田の背が弧を描くように仰け反り達したのと、伊藤が黒田の中に吐き出したのは同時だった。意識を失うようにシーツに沈み込んだ黒田を抱きしめ、伊藤も目を閉じた。

ふわりと毛布を肩に掛けられたのを感じた。

半分起きている意識が伊藤に自分を抱き寄せた者の声を届けた。

「…今日だから、俺も言うよ…」

そっと告げられた告白は、届くことを恐れているようだった。

「…愛してる。たぶん…」

眼を開けることはできなかった。幸せな夢が覚めてしまいそうで。

朝になったら自分から告げようと思った。

Merry Christmasと自分がみた幸せな夢の内容を。

END