MIDSUMMER NIGHT

 

薄闇の中で、せわしない息遣いと快楽に濡れた声が途切れとぎれに響いている。

ギシッとベッドのきしむ音が響くたび、あがる声が切なさを増して、限界の近さを訴える。

「やぁ…、も…う…」

切れ切れの声に触発されたように、突き上げる動きが速くなる。

「あ…くぅ…」

ギリギリまで開かされた箇所が痛みを訴えながら、身体の中に差し込まれた熱の塊が与える快楽に意識さえも飛びそうになる。

「いと…!」

解放を求めて彼の背にしがみつくと、微かに笑む気配がして黒田は唇を噛んだ。それを宥めるように口付けられて、一段と深く抱きこまれた。

「一緒にいこう」

長い指を持つ手に、自身を握りこまれるのと同時に限界まで突き上げられ、黒田は快楽の波に意識を投げ出した。

 

 

 

 

「…シャワー浴びてくる…」

床に脱ぎ落としたシャツを拾い上げて羽織った黒田がベッドを下りようとした。

「抱いてってやろうか?」

しっとりと汗に濡れた艶めかしい姿を名残惜しげに愛撫していた伊藤が冗談混じりに問いかける。

「あほう!」

腰に絡みついたままの伊藤の手を払い落とした黒田の手が、伊藤の頭の飛んだ。

「いて…。まったく手が早いんだから…」

「お前がバカなこと言うからじゃんか!」

顔を紅くして噛みつく黒田の顔をニコニコしながら見ている伊藤には、失言などという気持ちは微塵もないらしい。

「だって、せっかく久しぶりに会えたんだからさ、ちょっとでも倫くんと一緒に居たい訳よ」

「子供かよ、お前は」

呆れたように伊藤を見下ろした黒田も、取りあえずベッドに腰を落ち着かせた。さっそく嬉々として抱き締めてくる伊藤の腕を拒むには、その胸の中が暖かすぎた。

「なんかさ、遠恋の気分だよね、俺達」

じっと黒田の瞳を覗き込みながら伊藤が笑う。その綺麗な笑顔にドギマギして黒田は目を伏せてしまった。慣れたようでいて慣れていない関係。会える時間が減った分そうなのかもしれなかった。

「今年の七夕みたいなもんじゃん。年に一度の逢瀬なのに台風で会えなくて可哀相ってね」

「そうだったっけ…」

昼夜逆転、曜日感覚が抜け落ちた日常では日にちさえわからなくなる事がある。

「台風すごかったのは覚えてるんだけど、七夕は忘れてたわ」

「そうなの?俺はお前の事思い出してたのになぁ〜」

恨めしげに言う伊藤の言葉がどこまで本当かは分らないが、その言葉は心地良く黒田に届いた。伊藤が見せる独占欲のようなものを感じるたびに安心する自分を知っていた。

「なんかさ、七夕って印象薄くて、7月になると祇園が始まるからさ…」

「京都の?」

問う伊藤にコクリと頷く。一年中なにかしら祭りのある京都だが、三大祭はやはり規模が違う。

「なぁ。お前も行ったりしてた?」

「まぁな。友達とだけど」

下手な嫉妬は困ると予防線を張る黒田を見通したように伊藤は笑った。

「ね、浴衣とか着て?」

「え〜、着ねぇよ。女の子は着てたけどさ…」

言ってから黒田が慌てて言葉を飲みこんだ。ニヤニヤする伊藤の顔を悔しそうに睨む。

「なんだよ!」

「いや別に。お前の浴衣姿も見たいな〜って思って。俺、着たことなくてさ。持ってないの?」

問われて黒田は言葉に詰まった。バカ正直さがアドリブに向かないといわれる所以かもしれない。

「持ってるんだ?」

「やだぞ、似あわねぇから」

去年、姉と姪が遊びに来た時に母親が作ったといって持って来たものがある。

「ええ?!見たい!着て見せてよ!」

「やだって言ってるだろう!」

これ以上ここに居ては口説き落とされるのが目に見えていて、黒田は伊藤の腕を抜け出してバスルームに逃げ込んだ。

「黒田〜」

伊藤のねだる声が背後から追ってきて、黒田は大きな溜息をついた。シャワーを浴びながら墓穴掘りの自分の性格を恨む。そして、なんだかんだ言っても伊藤にはつい甘くなってしまう自分を。

「なんだかな〜…」

バスタオルを頭から被ってペタペタと重い足取りで部屋に戻る。伊藤の嬉々とした顔を見るのが癪で背を向けたまま、ワードローブの奥を探る。きちんと折りたたまれた浴衣は届けられた時に一度広げられただけで、そのまま眠っていたのだ。今日、伊藤に言われなければずっとそのままだったはずだった。

ぱさりとタオルを落として、素肌に浴衣を羽織っていく。糊の効いた浴衣地の感触が何故か懐かしさを感じさせる。

小さい頃には何度となく着せてもらっていたので、浴衣の着方に戸惑うことはない。二周りとは言わないが、余る帯の長さを恨めしく思いつつ帯を締め終えて、軽く襟と袖を引っ張ってバランスを直す。

はぁ〜っと一つ溜息をつくと覚悟を決めて、ずっと感じていた視線の主を振り返る。

そこにはジーンズだけ着けてベッドの縁に腰掛け、微動だにせず見詰める伊藤の姿があった。

「…なんだよ…」

せっかく着た浴衣に何も言わない伊藤に焦れて黒田が声を掛けると、びくっとしたように慌てて伊藤が立ちあがる。黒田の側に近づくとまたその場で固まってしまった。

「あ…、えっと…」

煮え切らない様子に黒田が口を開きかけると同時に突然抱き締められた。

「ありがとう…。すっげぇ、嬉しい」

「伊藤…」

ストレートな感謝の言葉に黒田は笑い、伊藤の頭を抱き返した。こんな我侭ならたまには聞いてやっても良いかもしれない。

「着るの見ていて、マジにドキドキしてた…」

伊藤は黒田の顔を両手で包むと、そっと口付けた。

「すっごく色っぽくてさ」

少し困ったような笑みを浮かべた伊藤に、黒田が不審を覚えたのと伊藤の手が帯に掛かったのは同時だった。

「伊藤!」

「ゴメン!でも、止められないみたいなんだ」

抗議の言葉は口付けで塞がれ、帯の結びが解かれていく。

「…ゼッタイこうなるって思ったから嫌だったのに…!」

黒田のぼやきは無視され、伊藤の愛撫の手に溶けていく。嬉そうに胸元に唇を落とした伊藤の赤い髪に指を差し込み、黒田は苦笑とともに目を閉じた。

 

 

END