ユウジの傷はすっかり塞がって、順調に回復しているらしかった。 オレは、責任とかもあるけど、ただ様子を知りたくて、ユウジの病室に毎日通った。 お見舞いなんてたいそうな感じじゃない。花持ってったのは一回だけだし。 ユウジの漫画を読んでるだけだ。話もそんなにしない。 だけど、オレは昨日までずっと伝えなきゃいけないことを伝えられなくて、そのために来てたともいえる。 で、昨日ようやく伝えることが出来た。本当に伝わってるのか疑問だけど、ユウジは頷いてくれて。 そして、オレにキスをした。 意味がわからなくて、でもなんか、キスはキスだし、うっかり自分でも分かるくらい赤くなってて、格好悪いんで部屋を飛び出した。 男なのにユウジのことが気になって、それからイロイロ考えてた。 動物みたいなもんだ。気持ちいいからじゃれあう。違うか。 ただ気持ち良かったのは事実で。あんな一瞬でもそういうことは感じるものだった。 お互い、このところそういうことから離れてたからかもしれない。 気持ちいいなら構わないともどこかで思ってる。 それも確かめたくて今日もユウジの病室で漫画を読んでいる。 被ってるキャップでそれとなく目線を隠しながら様子をうかがうけど、これといって何も変わらない。 本当はどういうつもりだったのかわからない。 「……どうかした?」 「別に」 やばい。ユウジのことじろじろ見すぎた。オレは慌てて漫画を読んでみる。 「ケンジ」 「……なに」 声がおかしくなった。何かに緊張してるみたいに。 「昨日、ごめん」 「え」 どういう、意味だ。 「何もしないからさ、安心してよ」 「…………」 何、どういうこと。オレが思ってたこととユウジの気持ちは違うのか。 「信じられなければ別に帰っても……ケンジ?」 「それ、本気かよ」 自分の声が思ってた以上に尖ってて驚いた。何に怒ってるのかわからない。 いや、本当はわかってる。 「え」 ユウジにも多分、わかってる。オレの、理由。 こっちを見ると、迷った顔をした。そして、迷った末に俺の頭を抱き寄せた。 「…………」 抱き寄せてオレの唇を奪う。昨日と同じだ。触れてただ離れた。 ユウジの目は、オレと同じことを考えてる。そう見えるだけで、それはオレの本音なだけかもしれない。 でも、ユウジはもう一度唇をくれた。キャップの鍔が当たる。オレは舌に促されるまま唇を開いた。 舌が会う。ほら同じだ、オレ合ってるじゃん。 窓の外は昼下がり。 オレの膝から漫画が滑り落ちる。 ユウジは唇を離すと、頭を引き寄せて耳元にささやいた。 「今日はどうしたの?」 落ち着き払った顔が目に浮かぶ。けど、違うだろ。落ち着いてなんかないの、わかる。 「……何が」 自分だってオレと同じだろ。 「嘘」 耳に吹き込むようにそう言う。 「だから何が」 わかってるけど。見上げた目は、意地悪そうな色をちらつかせてる。ほらね、やる気じゃん。 「解ってんだろ」 「……知らねーよ」 「今更」 会話が途切れると、何となく唇を合わせた。 オレは腕を捉まれてベッドに引き上げられて、向かい合うようにユウジの膝の上に座る。 ユウジはキャップ取ると片手でオレのペタンコになった髪を梳いた。 唇がまた触れて、喉を掠め、首筋に回り、肩口を滑る。手が服の上から胸に触れる。 耳の辺りにくちづけながらその手は胸をゆるゆると撫で、歯痒いような感じを引き出していく。 オレはどうしようか迷って、ユウジの袖を掴んでいた。 「ケンジ?」 「やだソレ」 ユウジの肩を押すようにして、手から逃れようとした。 「気持ち良くない?」 聞かれると困る。気持ち良くないわけでもないけど、はっきり気持ちいいわけでもない。 でもここで頷いたらなんか、格好悪い。 「……ない」 オレは絶対嘘だと思われるような言い方になったと後悔した。 それよりも胸を弄る手をなんとかして欲しい。するならする、しないなら……。 「そう」 突然足の間に手が触れて、体が跳ねるほど驚いた。その手は当然のように、形の変わったところをなぞって確かめる。 しばらく輪郭を撫でていた手にソコを掴まれて、背筋を駆ける何かに、首が後ろに反った。 喉の真中にユウジの唇が吸い付く。掴んだ手は、そのまま揉みしだいた。 「あぁ」 自分の口から出てるとは思えない声が漏れた。息だけ吐き出せばいいのに、喉がうまく使えない。 オレを包む手が予想以上に気持ち良くて、声を抑えようとしても気付けば口の端から漏れている。 肩を掴んでる手も何時の間にか力が抜けている。布越しに触れるだけでも。 もう、いつまでこんなことしてんだよ。 「は、ユウジ」 「なに」 「……あ」 やるなら先進めろよ。こんなのもう嫌だ。 ユウジはそれがわかったのか、ジッパーを下ろして震えるソレに直に触れた。 「ハァ」 どうしようもない息が零れた。溜め息のような。安心したような。実際安心したような気がする。 目の前がぼんやりした。 「あ、ん」 オレの腰は、勝手にその手に摺り寄せている。そこから快楽が紡ぎ出される。 「ケンジ」 「なに」 「もっとよくしてあげるよ」 「え……」 つい期待するように目を上げてしまう。普段よりいくらかぼやけた視界で、ユウジが覗きこんでいる。 「いや?」 そりゃ気持ちいい方がいいけど、そういう風に聞かれると困る。どう答えても格好いいわけがない。 でも、何か答えを求める目は、ここで返答しない限り何もする気がなさそうだ。 「……いや、じゃないけど」 結局あいまいな答え。ユウジはそれでも満足したように少し笑った。きっとオレの思ってることなんてお見通しなんだ。 「じゃあ、ジーパン脱いで」 「え」 展開が早くてオレはユウジの顔を見るしかできなかった。 「いいじゃん、俺しか見てないし」 さらっとそんなことを言う。 「そ、そういう問題かよ」 こういうコトで見られながら脱ぐのは面白くないし、なんかとてつもなく恥ずかしいような気がする。 「俺が脱がせてもいいけど」 迷って目を伏せると、平気な顔でまた提案された。確かに脱がされるのは男としてどうかと思う。 だったら潔く脱いだ方が男らしいんじゃないか。 「……わかった」 迷った挙句、実はすでに半分脱がされてるジーパンから脚を抜いた。 「コレも」 ユウジは遠慮もなく下着に指を掛けると、そんなことを言う。 マジで? オマエも脱げよ。 何でオレだけ、と思いながらユウジをにらみつけたけど、一向に怯んだ様子は見せないし、 逆に「今更何いってんの」みたいな顔されたんじゃ、そうするしかない。 諦めてオレは、下半身だけ裸という、変にいやらしい格好になった。 ユウジは両手でオレの身体を抱き寄せると、服を着た背中から裸の尻へ手を滑らせた。 何が気に入ったのか何度も往復する。尻ばっかり撫でられて、何故か息が漏れた。 「感じるの?」 「……黙れよ」 ユウジは殊更ゆっくり撫でさする。目を閉じても、感触がなくなるわけではない。オレの口はまた甘くないた。 「感じてんじゃん」 「…………」 何と反撃したって、さっき弄られたままのオレが反応してれば、言い訳にしかならない。 震えるソレに触れられると、声が漏れた。 「俺のも触る?」 「は?」 オレノモサワル? 言葉をうまく飲み込まないうちに、ユウジは俺の手を自分の脚の間に引き寄せた。 布越しにユウジのものに触れると、なぜか反射的に手を引っ込めていた。 人のものなんて触ったことないからか。多分、そうじゃない。 「ねえ」 「……なに」 今度は何を言われるのかと身構えてたら、おでこに唇が触れた。 「約束だしね」 「?」 約束? 何のことかわからない。けど、ユウジは尻を撫でてた手をその狭間へと滑りこませる。 「ヤ、そんなとこ触んな」 「いいから、黙って」 ソコを指で何度も行き来されて、どうにも居心地が悪いと言うか。 予想できない感覚に戸惑ってオレは腰を浮かせた。要するにソコに挿れるってことだろ。 「やだって、ユウジ!」 「ここまで来て何だよ」 ユウジは軽く流すと、オレの先から溢れる蜜で指を湿らせて、しつこく撫でていた場所に指を含ませた。 「いた、もう痛いって、ヤ」 入る場所じゃねーんだよ、ソコは。 「大丈夫だって」 「なにがっ、ァ」 逃げようとした矢先に、ユウジの手はオレのを握って上下に緩く擦った。 そうされては逃げようもなく、オレは与えられる快感を追いかけるしか出来ない。 そうこうしているうちに、指はどんどん奥をほぐしていった。 「あ、あ、ユ」 「ん?」 どういうわけかなじんでしまった指は、オレの中の壁を撫で回して、返事のオプションとでも言う具合に刺激する。 後ろに挿れられて感じるなんて思いもしなかった。内側なだけに直接すぎるくらい感じる。 「ァん」 唇からは甘い声しか出ない。ユウジは握ったモノを扱きながら、同じリズムで指を抜き差しする。 「やっ、あ」 両手で逃げ場の無いくらい攻められて、オレは力の抜けた上半身をユウジの肩に預けた。 「ア、もう」 肩に頭をもたせたまま限界を呟く。 「イキそう?」 聞いてくる声が意外に優しくてオレは頷いていた。 「……ん」 「いいよ。ホラ」 奥を突くのと一緒に先端をキュッとされて、オレは熱を放った。 肩で息をしていると、奥から指が抜け、代わりにもっとデカイものが押し当てられた。 マジで? 「ケンジ、わかる?」 「なに、が?」 本気、かよ。 「今当たってるもの」 「…………」 オレはそんなこと言わされる状況が、恥ずかしくなった。首を横に向けて目を逸らす。 解るに決まってる。そんなの入るのか。痛くないのか。切れたりしないのか。逃げ腰の感情が一気に押し寄せた。 けど。指であんなに感じるなら……。 「ん」 身体は正直だ。そう思った途端、入り口が、つまりユウジに一番触れてる場所がじれったそうに収縮した。 今更ながら、顔を赤くして首を横に向ける。わかるに決まってる。入り口が時々じれったそうに収縮してる。 「挿れるよ」 「……うん」 オレはただ頷いた。でもユウジはオレの身体を組み敷いて、膝を抱え上げる。 脚を広げさせられると、突然動きが止まった。 不安になって様子を見ると、オレの脚の間を、ユウジの量目がじっと見ていた。 「なに、見てんだよ」 まじまじと見られると変な力が入って、ヒクつくのを止められない。 「ケンジのココ、濡れてるなーと思って」 ユウジはさらっと言って、オレの顔を見る。恥ずかしくてこっちは目なんか合わせられるわけがないのに。 「へ、変なこと言ってんなよ」 キョロキョロしながら反抗する。 「事実だろ」 「バカ。もー見んな」 そう言ってオレは顔を枕に半分埋めた。 「ごめん」 ユウジは本気の声で謝ると、自らを押し当て身を沈めた。 「う、あ」 「キツ」 このまま突っ込んだら壊れる。そう思った時、ユウジの手がオレのモノを撫でさすった。 そうされると身体の力が抜けていく。 一瞬身体の奥が疼いて緩んだ隙に、一気に貫かれた。 「ああっ」 全部収めて身じろぎされると、内壁全てを刺激されてたまらない。 「大丈夫?」 「ん、うん」 答えてオレは両腕を伸ばした。ユウジが身をかがめるのに、ぎゅっと抱き付く。 抱きついた所為で繋がったところが動いた。 「アッ」 もう何でもいいから中のものを動かして欲しい。刺激されるのを待ち切れないみたいに腰が勝手に揺れる。 そんなオレにユウジは軽く腰を引くと、内壁を擦ってゆっくり突き入れた。 「アァ、あ」 「っ」 傷の心配なんてとっくにできない。 ユウジのモノはオレの中をいっぱいにする。ここまできて他のこと考える余裕なんてない。 内側を奥までめいっぱい抉られる。オレはむさぼるように腰を揺らし、ユウジのリズムとその鮮烈な様を味わった。 何事もなかったかのように、今日も隣で漫画を読んでいる。 後ろめたさがないわけじゃないけど、何となく来てしまっていた。 ユウジはベッドからオレを見ている。きっと何か考えてるんだろう。オレは顔を上げて、その目を合わせた。 「なに?」 「ケンジ」 ユウジは顔を覗きこんで、掬うように唇を合わせた。キャップを取って髪を撫でる。 ヤバイ。これ以上いたら本当に……。 唇が離れるとオレは目を伏せた。 「……オレ帰る」 「ケンジ?」 オレは乱暴に立ちあがると、ベッドに漫画を放った。 「待てよ、急に何」 つい呼び止められるまま振り返ってしまった。目を合わせられなくて、反射的に床を見る。 何を答えても無事では済まないような気がする。 今どうなろうといずれ傷つくんだろう。そして恐らくユウジはオレの思ってることに気付いてしまう。 だけど。もうどうしたらいいんだ。 オレは怒ったような溜め息を吐いて呟いた。 「……んだよ。解ってんだろ」 「え」 オレは返事を聞く前に部屋から出て行った。 言葉の少ない会話。 解ってんだろ。 手に触れる、唇に触れるその感触。 明日もきっとここに来るだろう。 大事なものが、存在していると確かめるために。 終