七発目 2001.11.14

もう10年ほど昔の話だが私が初めてCDを購入したときの話をしよう。
私の親はほとんど音楽を聴くことがなく、その影響でピアノを習っていた私もPOPSとは全く無縁であった。
しかしそれは大阪に住んでいた時までで千葉へ引っ越すことで変わった。

千葉のその小学校では、給食時に放送クラブなるものが児童から集めたリクエストをもとに好き放題に音楽をかけていた。
内容は完全に邦楽オンリーだった。
もし今の私が放送クラブのメンバーであったなら、必ずやデスメタルを選曲し、歪みまくりの超音圧のギター、地獄の叫びの様なデス声、そしてBASSブォリュームを右一杯に回した爆音ドラムの中で食事することができただろう。

そういう経緯を経てようやく俗世間のいわゆる流行歌に触れ合うことになった。
歌謡曲関連用語は「リンダリンダ」と「光ゲンジ」しか知らなかった私は乾いたスポンジが水を吸収するかの様に邦楽にのめり込んでいった。
当時かなり流行っていた「ある曲」なんかは、手淫を覚えた猿が四六時中自慰するかのごとく繰り返しかけられていた。
当時はまだメタルに目覚めていなかった私は、放送クラブの布教活動のおかげでついにその「ある曲」のCDを購入する決意にいたったのだった。

CDの購入など簡単な事だ。友達の付き合いで一度見たことがある。
欲しいCDをレジに持っていきお金を払えばいい。そう、簡単なことは理解していた。
しかし当時としてはかなりの大金である夏目さんを一枚持ち、尚且つ初購入ということで私はかなり舞い上がっていた。
ショップに到着し深呼吸をしてから自動扉をくぐった。店内は知らないBGMが小さな音で流れていた。
私は一目散にお目当ての「タ」行の前へ進んだ。実は購入前に下見を済ましていたのだった。
しかし店員には初めて来た客に見えるように小学生なりに演じた。
そしてお目当てのCDを手にとった。
赤を基調とし、表にバンドメンバーの顔写真、裏には歌詞が書かれていた。
大事マンブラザーズバンドの「それが大事」がお目当てのCDだ。

実は私は迷っていた。(この迷いが後に悲劇を生むのだが)このCDは漱石一人分の価値があるのか?あったとしても購入することで我が財政は破綻することは目に見えていた。
私は葛藤の末に、裏に印刷されている歌詞を見て最終決定を下すことにした。じっくり読んでみようとCDを薄汚いプラケースから抜いた瞬間、ピィィィィィィィィィィィーーーーーー
私は何が起きたのか解らなかった。
ただ自分の手元にBGMを掻き消してショップ中に大きく鳴り響いている原因がある事は解った。
店内の全員が私を見ているからだ。
原始人が初めて現代文明に触れたときのような驚きと恐怖に襲われていた私は完全にパニックになっていた。
音が出ている穴らしき所を指で押さえたりしたが一向に音は止まず私の顔はCDジャケットよりも真っ赤になった。

ようやく店員が駆け付け私の手からプラケースを取り音を止めてくれた。
「お買い上げですか?」との問いに思考が停止している私は「はい」としか言えなかった。

大恥をかいて買ってきたCDを家で聴き終えるまでまで私の顔は真っ赤だったと思う。家族の前でCDを聴くのが何故か照れたのと、店内での出来事を思い出してしまっていたからだった。

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