私はロックがまだ社会から外れ異端であった60年代最後の年に生まれ、ロックがビジネスとして社会の中に組み込まれていった70年代後半からロックに親しみ始めました。80年代にはMTV、CDが登場してロックはますます簡便化されてゆき、私はまるで水でも飲むかのように手をのばせばすぐそこにロックがあるという情況の中で様々なバンドの創り出す音楽とともに成長しました。ここではそんな典型的MTV世代の最初のジェネレーションである私がとくに好きなバンドをご紹介します。

キッス
(ジーン・シモンズ/B&Vo、ポール・スタンレー/Vo&G、エース・フレーリー/G&Vo、ピーター・クリス/Ds&Vo、エリック・カー/Ds&Vo、ブルース・キューリック/G&Vo、ヴィニー・ヴィンセント/G、マーク・セント・ジョン/G)

彼らの成功はわずか建国200年余りのアメリカ合「州」国が、またたく間に世界のトップにのしあがっていったのになぞらえることができるでしょう。ニューヨーク・シティというまさに人種のミックス・サラダ的な街で育ったユダヤ人移民の少年二人がビートルズに触発されて音楽を始める。一介のクラブ・バンドでありながらも徹底したマーケティング戦略をライヴへやってきた観客への楽しませてなんぼ的アピールへ反映させ、やがてアメリカの産業面に食い込むほどの巨大な存在に成長していったのは背筋がゾクゾクするほど痛快だよね(まずその音楽がドライヴ用に親しまれていた野暮ったい自動車産業の街デトロイトから彼らがブレイクしたのは皮肉なものだったけど)。移民、ニューヨーク、成功、この3つの単語だけでも、充分すぎるほどアメリカ。私にとってはチャンスと可能性に満ちあふれていた「善きアメリカ」そのものです。ライヴスタート直前のMC、"You wanted the best, you got the best!"は真実以外の何ものでもないしね。

キッスってとにかくわかりやすくって楽しい気分にさせてくれる。いい加減歳喰ってしまった今となっては、メイクなしの素顔も、パイロが爆発するタイミングも、ジーンが吐く血の成分(笑)も、何もかもわかっちゃってる。それでもアルバムを何度も繰り返し聴き、ライヴがあるとなれば通ってしまう。センチメンタリズムからではありません。キッスはいつだって現在進行形であり、さらに先をゆくバンドとして楽しませてくれます。何かと金ばかりが取りざたされる今回のオリジナル・メンバーでの再結成だって、ネガティヴな題材を扱うギャングスタ・ラップやアティテュードのかけらもないメロコアパンクやらが氾濫するシーンに、健全なロックを再び持ち込もうとした上での行動であって、決して再結成ブームにのった結果ではないのです。ただブームに便乗するのなら、2年前のリユニオン・ツアーだけで一稼ぎしてはい、おしまいと済ませることもできたはず。だが、彼らは「サイコ・サーカス」という完全な新作をリリースしてみせた上で再びワールド・ツアーに出ています。これが、やる気の顕れでなくていったい何だというのでしょう?

私は言いたい。キッスを好きにならなくてもいい。ただし、ろくに聴きもしないで嫌いだとか興味がないだとかぬかすな。彼らのアルバムを聴いて、彼らがロック・シーンにどれほどの影響をもたらし、その中で功績を果たしたかを理解しないかぎり、ロック・ファンの資格はない。わかってる?そこのファッション・パンクスに某メタル雑誌の信者くんたち!



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