最初に彼女の態度が違うことに気がついたのは2週間ほど前。
次に会ったのはその5日後。
その次に優子と会ったのはその4日後、今より5日前。
こうして、今日に至るわけである。
すでに夜中でタクシー代も深夜料金で高くなっているはずだ、家は歩いて帰れない距離ではない。少し肌寒いのは我慢だ。
時刻はすでに10月16日になっていたがそんなことはどーでもいい。
最近彼女・優子の態度が違う。
今まであんなに優しかったのに・・・優子を変えたのは誰だっ?!・・・はは〜ん。
最近よくテレビで見かけるやけに派手な衣装の『綾○路き○まろ』だな?・・・でもわしらは何十年も連れ添った熟年夫婦じゃないしのぅ。
とにかく、優子は変わったのだ。
久しぶりのデートの間中そっけない態度でどことなくいつもと違う。その姿はまるでいつ別れ話を切り出そうか考えているようで、怖い。
わし、なんか悪いことしたんじゃろうか?浮気なんて身に覚えはないし、タバコもだいぶ前から止めとるし。・・・思いつかん。
あっ!こないだ優子が取っておいたアイスをわしが食べてしまったから・・・なんてことはないか。
「・・・優子?なんか、怒っとるん?」
「なんで?そんなことないよ。ちょっと、考え事。」
「そっか、ならえぇんじゃけど。」
終始そんな感じで、ドライブデートの道のりなんて覚えちゃいない。
ただ、いつ「別れよう」なんて言われるんじゃないかって、ヒヤヒヤしとった。
結局その日は、何にもなく終わった。
わしの仕事の都合上、あえない日が重なったりすることもあったりして。
その日優子はわしの家で夕食を作ってくれた。
けれども、あいつは食べた食器なんかを片付けたら、
「用事があるから。」
と言って、すぐに帰ってしまった。
・・・もしや、あいつ浮気しとるんか?
そりゃあわしは、会いたいときに会えなかったり堂々とデートは出来ないけれどもわしは優子に淋しい思いをさせたつもりはなかったのに。
それでつらい思いをしとるのは、わしも同じなのに。
その日、わしはそんなわけの分からぬ態度の優子にとうとう言ってしまった。
「浮気しとるなら、わしと別れたいのならそうはっきりと言えばえぇのに。」
すると、優子は少し驚いた顔で言ったのだ。
「昭仁が、そう思いたいなら思えばいいよ。」
こいつ、否定もせんのか。薄情な女じゃ。
それから、彼女からの連絡は途絶え、わしからも連絡する気にはなれなかった。
ちなみに、今日は10月15日。運悪くもわしの誕生日なのだ。
さすがに誕生日に一人さびしく酒を飲むのはいやじゃ。とりあえず晴一を誘って・・・
「無理じゃね。今日は先約があるけん、お前の誕生日は別の日に祝っちゃる。」
くそぉ。友達思いのないやつじゃ。わしにはタマと言う心の友が・・・
「無理。」
おいおい。2文字で終わらすなやタマ・・・。
かくして、わしは誕生日を1人でさびしく過ごすこととなったのだ。
家に帰って、ちびちびと酒を飲むよりもどこかで飲んだ方がまだ寂しさは紛れるだろうと思い、わしはよく行く飲み屋へと足を運んだ。
「マスター、ちょっと聞いてよ。最近の子ってのは人間関係を大切にしとらん!わしは悲しいっ!!」
マスターに愚痴り続けること数時間。
夜も遅いことだし、言いたいことは全て言ったからそろそろ帰らんといけん。
お勘定をしてマスターに別れを告げると、別れ際にマスターは誕生日のプレゼントだと言ってワインの栓のコルクをくれた。
なんでも、これを持っているといいことが起こるらしい。どこにそんな根拠があるのかはよく分からんが、嬉しかった。
寒い夜の道を歩いていると、だんだんと酔いもさめてきた。
酔いがさめるのとともに、なぜか頭の中に優子のことが浮かんできた。
あのときケンカしていなかったら、今日は優子の手作りのケーキを2人で食べていたはずなのに。
そういえば、優子は出会った頃からそうゆう性格だったではないか。
言いたいことはハッキリと言う人である。
第一、分かれたいと思う男のためにわざわざ飯を作りにくるか?
冷静になって考えてみれば、浮気をしているという事実があったわけじゃない。
もしかしたらわしの早とちり・・・?
そうだとしたら優子に悪いことをしたな、と思った。
証拠もない浮気の疑惑をかけられて、ましてや「分かれたいならそう言え」だなんて。
明日朝一で優子の家に行こう。そして、謝ろう。
わしが心の中でそう決意したときには、すでに自分の家の前だった。
気づくのが遅かったら、たぶん通り過ぎていたはずだ。
・・・あれ?わしの部屋、明かりがついとる。
誕生日を祝ってくれといった相手にはことごとく全員に断られたはずじゃし。その前に、家に入れるはずがない。
わしの部屋の合鍵を持っとるんは管理人さんと・・・優子だけだ。
真っ暗な心の闇の中で一筋の明かりが見えたような気がした。
わしは一目散で部屋へと向かう。
案の定簡単にドアは開き、玄関には優子の靴がそろえてある。
ゆっくりとリビングに進むと、テレビの前のソファーで彼女はおだやかな寝息を立てて眠っていた。
テーブルには料理がたくさんの並んでいて。
わし、こんなに愛されとるのになにを勘違いしとったんじゃろう?わしの彼女は浮気なんかせんよ、わしらは一生ずっと一緒におるって約束したんじゃもん。
彼女の子供のような寝顔がとてつもなくかわいくて、こんなかわいい女守ってやれるのはわししかおらんじゃろう、岡野昭仁!
気づくとわしは優子を抱きしめていた。
突然眠りから起こされた優子は何がなんだか分からない様子で、もどかしかった。
「優子・・・こないだはごめん。わし、証拠なんかないのに「浮気しとる」とか言ってしまって。
好きじゃ、愛しとる。わしのそばにはまだまだお前におってほしいんよ。」
「あき、ひと?そんなのなんとも思ってないよ・・・まぁ、確かに0ではないけど。
私がそう思われる行動をしてたんだから仕方ないの。今日のことで頭がいっぱいだったんだよ。
プレゼントを買うのに残業とかしたりしてお金を貯めたり、準備とか料理の練習とか。だから、昭仁を勘違いさせちゃって、ごめんね。」
そう言いながら彼女は小さな箱を取り出した。その箱にはハッピーバースデー昭仁と書かれていた。
「開けてもえぇん?」
尋ねると彼女は首を縦に振る。
包装紙を丁寧に剥がして箱を開けると、そこにはわしが前からほしいほしいと言っていた新型のサッカーシューズが入ってる。
「マジ?!これ、高かったじゃろ?ホンマに、もらってえぇの?」
高いうえにそんじょそこらでは予約しても手に入れるのが難しい代物だ。
「今ネットオークションに出したら高く売れるかな?私の昭仁への愛がこもった分通常の数倍の値段で買ってもらわなきゃね。」
彼女はテーブルの上の食品に手を伸ばしながら笑った。
「ホントに、優子の彼氏はバカなやつじゃ。こんなに愛されとるのに、勘違いして。絶対後悔してるはずよ!」
わしも笑って彼女の作った料理に手を伸ばす。
「まったくだ。まぁ、その少しマイペースなところが好きなんだけど。さ、遅くなったけどご飯食べよ!ケーキもあるんだから!」
僕の横に君がいればもうそれだけで十分だから。
ポケットの中のコルクのおかげなのかな?今度2人でマスターに会いに行かなきゃね。