私はりえこ。平凡な高校生である。とくに何かで有名なわけでもない普通の高校生。
今日は広島のライブハウスでポルノのライブ!!
でも、1つだけ自慢できることはいとこにポルノグラフィティのベース、Tamaがいること。
さすが人気バンド、私がついたときにはまだ時間があるにもかかわらず、入り口前にはかなりの人数がもう並んで待っていた。
相変わらずすっごい人だなぁ。・・・そだ、始まる前に楽屋に行って応援してこよっと。
裏口のスタッフ関係者入り口の前で私は持ってきたバックから1つの証明書を取り出す。
それには『ポルノグラフィティ関係者』とデカデカと書いてある。
私がTamaちゃんに頼んで作ってもらった特別パス。これを持ってれば、どこの会場でも裏口から入れるのだ。
それを警備員さんに見せて中に入るとさすがに開演前だけあってたくさんの人が働いている。
その人たちの邪魔にならないよう慎重に奥へと進む。
あった!控え室!!
私が2、3回ドアをノックすると、中から「どうぞ」と声がする。
その声があまりにかしこまっていたから私も「失礼します」とかしこまって中に入った。
・・・あれ?いないよ?3人が。中にいるのはマネージャーの隼人さん一人だ。
「今リハ中なんです。もうすぐ戻ってくるんで座って待っててください。」
私の考えていることが分かったのかそう教えてくれた。こうやって裏から入ってくるのも初めてではないから、顔も知られているみたい。
「ありがとうございます。でも、リハなのに楽屋にいていいんですか?」
「3人が、ここにいろって言ったんです。リハ中にりえこさんが来たら大変だからって。」
「そうなんですか?!ホントにすいません・・・。」
「いいんです。来てくだされば3人の気が紛れますし、緊張もほぐれますから。あ、そろそろ時間なんで戻ってきますよ。」
隼人さんがそう言った瞬間、楽屋のドアが開いた。ぞろぞろと人がなだれ込んでくる。その中には、もちろん3人の姿も。
「りえこっ!!!」
最初に部屋に入ってきた昭仁が叫ぶ。
「ひっさしぶりじゃのぅ!!!元気にしとった?」
「うん。元気元気!3人も元気そうじゃね!!」
どれくらいぶりだろう・・・。去年のツアーから会ってないから、もう1年近くになるんだ。
「りえこじゃ!!今日のライブ、来てくれたん?」
続いて晴一もドアから顔を覗かせる。
「そりゃ来るよう!!大事な大事なポルノのライブだもんね。」
私がまだ幼稚園生や小学校低学年だった頃、両親が共働きだったからよく美容院のタマちゃんの家に預けられていた。
そのときおもり役のタマちゃんに連れられて練習を見に行ったりしていて、知らず知らずのうちに私は3人の後ろをついて歩くようになっていた。
「りえこ、今日ライブの後あいてるか?ちょっと話があるんじゃけど・・・。」
急に晴一が真剣な顔で言った。
「あいてるけど・・・なんかあったん?」
「ん?ちょっとな。」
そう言って、晴一は廊下の向こうへ消えていった。
変なの。なんだかいつもの晴一じゃないなぁ。
「ね、晴一なんかあったん?」
近くを通りがかったタマちゃんに尋ねてみる。
「さぁ。わしから見るといつもと同じだと思うけど。」
「ライブ、大丈夫かなぁ?・・あ、時間だ。そろそろ私席の方に戻るね。晴一に終わったら来るって伝えておいて。じゃあ頑張って!!」
そう言いながら私はもと来た道を戻った。
「心配だ・・・。」
ライブ後、まだまだ人がわんさかいてとても裏口に行けるような状態ではない。
晴一、平気じゃろうか・・・。ライブ中はちょっと無理してたんじゃなかろうか。
こうなったら強行突破だ。えーい!!
私は人並みをかき分けてダッシュで出口へ向かうと、誰も見ていないことを確かめて裏口へと向かった。
裏口に着くとそこにはもう晴一の姿があった。
「ごめん晴一、遅くなっちゃって。」
「ええんよ。わしも汗かいたから今着替えてきたとこじゃし。」
「そか、よかった。ところで、話ってなに?悩みとかなら相談のるよ?」
私がそう言うと晴一は私に背を向けた。
「悩みと言えば悩みなんじゃけど・・・わし、りえこのこと好きみたいなんよ。」
「へ?・・・ちょっと待って、誰が誰を好きだって?」
「だから、わしがりえこを好きなんよ!!もう言わんけぇね。」
晴一は振り返ってもう一度言う。振り返ったその顔は少し赤くなっていた。
その赤さはライブの興奮を物語っているのか、告白の照れからのものなのか私には分からない。
「そんな・・・。今までだって友達だったのに、急に言われてもよく分かんないよ・・・。」
「それもそうじゃね。大丈夫!今すぐとは言わんから考えてみてくれん?」
私はうんと頷き、精一杯の笑顔を晴一に向けた。本当はドキドキして立ってるのも大変だったけど。
「さ、今のは置いといて中は入ろ!昭仁もタマも待っとるよ。なんたってりえこはわしらの癒し系じゃもんね。」
「癒し系だなんて・・・照れるなぁ。よーし、今日も打ち上げ参加しちゃうぞ!!」
笑いながら2人で楽屋へ向かう。まだ興奮冷めやらぬ廊下は人で溢れていた。
次の朝、私は知らない部屋で目が覚めた。
「・・・ここ、どこ?」
起き上がって周りを見渡すとどうもホテルの一室らしい。
そうだ、思い出した。昨日打ち上げに参加した私は未成年のくせにお酒を飲んでぶっ倒れたのだ。
「・・・頭痛い」
お酒弱いのに、飲むんじゃなかった。
そのとき、不意にバックの中のケータイが鳴り出した。着信は昭仁から。
普段は電話なんてかけてこないのに、不思議。
「もしもし?」
「りえこ?お前昨日ぶっ倒れてたけど大丈夫か?」
「うん。なんとか生きてるよ。とりあえずもうちょっと寝るけど・・・。」
「そうか。。。みんなで心配しとってさ。だから・・・」
急に昭仁の声が途切れる。
「・・・だから?」
「だから、次からはわしが守ってやりたいんじゃけど。」
「・・・・・・・・」
「りえこ?」
そんな、昭仁にまで?神様これは何かの夢でしょうか?夢なら早く覚めてほしいのですが。
「りえこ、大丈夫か?いきなり変なこと言って悪いとは思うとるけど、
昨日りえこの姿を見てからずっと言おうと思っとってさ。考えておいて。」
「分かった。心配してくれてありがとね。」
「おう。じゃあお大事にな。」
そう言って電話は切れた。
昨日の晴一も、今の昭仁も2人して私が好きだなんて。
でも、どちらもそんな風に見たことなんてなかったし・・・どうしよう?
私はタマちゃんに電話してみることにした。タマちゃんならきっと相談に乗ってくれると思ったから。
「そんなんわしに聞いてもしかたなかろう。」
ことを打ち明けると、タマちゃんはそう言い放った。
「そんなぁ。だって、今いきなり2人して言われても、頭真っ白になるわ。」
「知らん。お前のことじゃろ。お前が決めんでどうするんよ。」
「・・・分かった。そうだよね、タマちゃんに聞いても仕方ないか。ごめんね。」
「ええんよ。よーく自分で考えたほうがりえこのためじゃ。・・・でも2人ともいい奴じゃけん。
どっちもりえこを幸せにしてくれるはずじゃ。」
「うん。ありがとう。・・・そだ、じゃあ2人に伝えておいてほしいんだけど・・・。」
私は2日後晴一と昭仁を一緒に呼び出すことにした。もう心は決まっているから。
あれから2日が経った。とうとう2人を呼び出す日だ。
呼び出す場所は3人が泊まっているホテルの屋上。私は時間より早めに行って風に当たっていた。
風がぬるくなってきたなぁ。夏ももうすぐそこだぁ。
そんなとき、晴一と昭仁の2人が一緒に屋上のドアをあけた。
2人は互いに見合って、お前何しとん?って顔をしている。
「私が呼んだんよ!晴一も、昭仁も。・・・それで、こないだのことなんだけど・・・。」
「昭仁、お前もだったんか!まぁ、大体気付いとったけど。」
「それはこっちのセリフじゃ晴一。わしだって昔からりえこのこと好きだったんよ!!」
「あのね!・・・私考えたんよ。どっちが好きなのかって。
で、考えた末にどっちとも付き合わんことにする。」
「「はい?」」
言い争いになりかけていた2人は私の口から出た言葉に驚いて動きを止めた。
「だって、私どっちも好きじゃし。それに、今の私じゃ2人にはつり合わんと思うんよね。」
私は風に吹かれながら今の気持ちをハッキリと伝えた。
「それがりえこの答えか?」
晴一が尋ねる。
「うん。今の正直な気持ち。」
「そうか。・・・分かった。今回は諦めるわ。じゃありえこがわしにつり合う人になったと思ったときまで待っとるよ。」
「そうじゃね。わしも待っとる。そんときこそ負けんけね、晴一!!」
「なにおぅ?!わいだって負けん!!」
「それじゃ、3人で下の食堂いってなんか食べよ。わし、腹減ってさぁ。」
まず晴一が歩き出す、続けて昭仁も。
「ありがとう。2人とも大好き!・・・でも、タマちゃんも一緒に食堂連れてってあげようよ・・・。」
もうすぐ夏が来る。
答えを出すのはそれからでも遅くないだろうと思った。
だから、今は自分らしくしていよう。
・・・今年の夏は例年よりも暑くなりそうだ。