タバコのニオイ





「あれ?カズミさん、タバコ吸いましたっけ?」
「うん・・最近吸い出したんだけど、やめられなくなっちゃって。」
仕事場の後輩が疑問に思うのも仕方がないだろう。
私がタバコを吸いだしたのは1人の男との別れがキッカケである。


―1年前―
「晴一はいつもいつもタバコ吸ってるけど、タバコってそんなにおいしいの??」
「え?・・・おいしくは、ない・・・けど。」
「それなのに吸ってるの?」
「ま、君みたいなお子ちゃまにはタバコのうまさはわからんってことじゃね。」

私と晴一が出会ったのは2年前。テレビ局に勤める友人の紹介で知り合った。
テレビをあまり見ない私が彼を芸能人だと知ったのはそれから数ヵ月後のことだった。



「えっ!!うそ、新藤さんて芸能人だったの?!」
「えっ!!知らんかったん?!・・わしはてっきり知っとるもんだと思ってた。」
「どーりで、オーラが違うと思った。・・・芸能人とお友達になれるなんてやっぱり東京ってすごいなぁ。」
「・・・あのさ、カズミちゃん。わしから1つ言いたいことがあるんじゃけど。そろそろ『お友達』から昇進しませんか。」
「『お友達』から昇進・・・ってことは、つまり。」
「わしの彼女になってほしいんじゃけど。ダメ?」
こうしてめでたく私たちは付き合うことになったのです。




「晴一はいつもいつもタバコ吸ってるけど、タバコってそんなにおいしいの??」
「え?・・・おいしくは、ない・・・けど。」
「それなのに吸ってるの?」
「ま、君みたいなお子ちゃまにはタバコのうまさはわからんってことじゃね。」
「ひっど〜い。彼女をお子ちゃま扱いするなんてとてつもなくひどいわっ!!」
「じゃあ1本吸ってみーよ。ほら。」
そう言って晴一が差し出したタバコを1本受け取ると、見よう見まねで火を付けた・・・のはいいものの。
「ごほっ、げほっ・・・・・・まず〜い。」
「わはははは。ほら吸えんじゃろ?やっぱりお子ちゃま決定ね。」




でも、こんな幸せもずっと続くはずもなく。
逃げ出したのは、私。



「・・・晴一、これで何回目だか分かってる?」
「・・・・・・ごめん。」
理由は彼の浮気。
「・・・晴一の『ごめん』は聞き飽きた・・・もう、無理だよ。私これ以上我慢できない。」
泣いたらいけないと思った。最後くらい、彼の前で大人の女性でいたいと思ったから。



彼と別れてから自分の部屋の掃除をしていたとき、彼が遊びに来たときに忘れていったタバコが出てきた。
ふと『今なら吸える』気がして、火を付けた。



彼のタバコは彼のキスの味がした。正確には彼のキスがタバコのあじだったのだけど。
だから私はタバコを吸う様になったのだ。彼のキスを忘れないように。





そんなある日のこと。
一人残ってやっていた仕事が終わってケータイを見ると、着信履歴が1件。・・・晴一だ。
気付いたら何のためらいもなく掛けなおしていた。


『・・・もしもし?』
「・・・。」
『カズミ?・・・そのまましゃべらんでいいけ、聞いて。』
『わしがしたことは、謝っても許されんことなのは分かってる。嫌われても仕方ないことをしたと思っとる。でも、それでもわし、カズミが好きじゃ。
 カズミがいなくなってから、毎日が白黒なんよ。つまらないんよ。
 だから、最後にもう1度わしにチャンスを与えてくれませんか?』
「・・・って」
『え?』
「・・・ひっく・・・私だって、寂しかったもん。・・晴一がいない生活なんて、もぉヤだ。。。っく。」
『そっか、よかった。』





「晴一、1本ちょうだい。」
「あれ?カズミ、タバコ吸えなかったよの?」
「まぁまぁ、その辺はお気になさらずに。もう私のこと『お子ちゃま』だなんて呼ばせないのさ。」
『あなたのキスの味がするから』なんて、教えてあげない。