羅針盤のライブ


クアトロのステージがこんなに広く見えたのは初めてだった。 おもむろにパイプ椅子が3つ。右端にキーボード。中央後ろにドラム。 噂には聞いていたが、山本精一氏は歌詞カードを見ながら歌うようで、 中央のパイプ椅子の前に譜面台も置かれていた。
3or4曲目でゲストの勝井祐二さんが登場。 最後のアンコールだけに参加するという私の予想は外れ。勝井祐二さんは 全体の三分の一以上は演奏してたから、準メンバーと言い切ってもおかしくないほど。 大らかで包み込むかのようなヴァイオリンの音色。 ヴァイオリンの音で「fly to (the) heaven」というコーラス部分 を表現してた時には、 男性的というより、 どちらかといえば母性のような慈悲を感じた。 やっぱりROVOが好きだし、勝井祐二さんが大好きだ。できることなら、 勝井祐二さんの参加するライブを全部観てみたい。

一部最後の曲は「がれきの空」。 あのギターソロに全てが定められ、また動き始めた。 身体がワナワナ震えだしてた。他人さえ気にならなければ、もはや泣き崩れていただろう。 ライブの最中に、完全な孤独には持っていかれれば、たやすく泣くことぐらいできたのに。 まだまだ自己と他人との境界線の区別はついていたし、理性も失われはしなかった。

ニ部最後の曲は「ソングライン」。パイプ椅子を蹴飛ばし投げ飛ばし、 須原敬三さんと勝井祐二さんに立って演奏をすることを求めた 山本さんの姿は、 今まで静かに熱く演奏してた山本精一とは、まるで別人のようであった。
感情の渦をギターで表現してたCD音源よりも、 視覚で訴えかけあの空間に漂い出してしまった恐慌が、 私の毛穴から入り込み直接脳へと襲い掛かってくる。 "シートから立ち上がり踊り狂って死のうが構わない。" そんな欲望を押さえ込むだけで精一杯だった。

これは感動ではない。潔さと諦めだ。 これほど観たかった羅針盤のライブは、もう二度と聴けない。 思えば、Fishmansのライブこそ、 このような空間をいつも作り出していたはずに違いない。 「Fishmansのライブは凄かった」と言い切ってきた人達には、 羅針盤のライブの尋常さが、少しは想像つくのかもしれない。
あの場所で起きたことも何時か忘れ去られる。 私が何を書こうとも、あの時間が他人に伝わるとも思えない。 ただ、あの場所にいた人達にしか、 分かり得ない共通財産だったことだけが、唯一の事実だ。 羅針盤をライブを観た人は、 事故にあっても怪我一つ負わなかった時と同じように、 "憑きまくってた"としか言い様がない。神憑かり的な 羅針盤のライブを観たことが、これからの私の人生の宝になりはじめてる。


Fishmans



by Lucy Stone world lucystone@geocities.co.jp