濃くなる夕闇。
私とタマちゃんと珪君が佇んでる。
ついさっきここで乱闘を繰り広げたのだった。
友達なくすかも・・・と思った私に、タマちゃんがかけた言葉は、予想を裏切るものだった。
「蓮ちゃん・・・」
「ん?」
「すごくかっこよかったよ!」
「・・・・は?」
思わずマヌケな声をだした私に、タマちゃんはさらに続ける。
「不良たちを一瞬で倒しちゃうんだもん〜ヒーローみたいだった!」
「あ、そう・・・」
とりあえず、怯えてはないみたいだからいいのかな?
まさかこんな展開になるとは思わなかったけど。
興奮気味のたまちゃんを家まで送って、珪君と歩いた。
「・・・蓮、怪我はないか?」
「うん。珪君は?」
「大丈夫だ」
「・・・・ごめんね」
「何で謝るんだ?」
「だって巻き込んじゃったし・・・」
「俺が勝手にやったことだ。気にするな」
「ありがと。・・・幻滅したでしょ?」
「・・・何で」
「こんな暴力女でさ」
「・・・・・」
「あいつらは前の学校でも喧嘩売ってきてたの。まさかここまで来るとは思わなかったけど」
「いつもあんな大勢なのか?」
「一人じゃ私に勝てないからねー。何人いたって私は負けないけど。よく校長室呼び出しされたなぁ」
「・・・そうなのか?」
「君は何を考えてるんだ!ってね。そのうち諦めて何も言わなくなったけど」
「そうか」
「・・・・ねぇ」
「何だ?」
「どうして私の隣を歩いてるの」
「・・・?」
「私のこと恐くないの?私騙してたんだよ」
「・・・騙されてなんかない」
「嘘」
「嘘じゃない。お前は・・・・お前だろ?」
「・・・・」
「お前は何も間違ったことはしてない。友達を守っただけだろ?」
珪君の声は優しくて、私は泣きそうになってしまった。
「・・・・ありがとう」
小さな声で言った私に、珪君はいたずらっぽく微笑んだ。
「俺より強くてびっくりしたけどな」
「私は喧嘩のプロだから!」
「何だ、それ」
2人の笑い声が夕闇に響いた。


いつもと変わらない昼休み。
なっちゃんと喋りながらお弁当を食べていた。
ざわめく教室に、急に放送が入る。
「1年1組の大滝蓮。至急理事長室まで来るように」
「・・・きたか」
みんながこっちを見る。
「何―?あんた何かしたの?」
なっちゃんが不思議そうに聞いてくる。
「ちょっとねー・・・行ってくるわ」
あいつらプライドも捨てたわけね。
今の気分は、死刑台に向かう囚人のようだ。

葉月がめずらしく息をきらせて、教室に来た。
奈津美の前で止まる。
「・・・蓮は?」
「さっき理事長室に行ったわよ」
「・・・あのバカ」
「何かあったの?」
「・・・ちょっとな」
何か聞きたそうな奈津美を置いて、教室から出る。
すると、廊下を走ってくる珠美と会った。
「葉月君!ねぇ蓮ちゃんは?」
「・・一人で行った」
「そんな・・・私のせいなのに」
珠美がうつむく。
「行くぞ」
「え?」
「蓮のとこ」
「あ、うん!」

えらく豪華な扉だった。
校長を通り越して理事長かよ・・・と一瞬逃げようかとも思ったが、諦めてノックした。
「大滝です」
「入りたまえ」
中の声にうながされ、ドアを開けた。
氷室先生と、ダンディな男の人がいる。
理事長にしては随分若いな。30代後半くらいだろうか?
「・・・なんで呼ばれたか分かるかな?」
穏やかに聞かれる。
「分かりません」
私がしれっと答えると、氷室先生のこめかみがピクピク動くのが分かった。
「君は昨日喧嘩をして、相手に怪我をさせたそうだね。向こうの学校から連絡があったよ」
女に負けた上にチクるなんて、あいつらも堕ちたもんだ。
「私は襲われそうになってる友達を助けただけです」
「・・・しかし暴力をふることはなかっただろう?」
「じゃあ黙って見てればよかったんですか?」
「そういうわけじゃないが・・・」
「これは正当防衛です。自分が悪いとは思いません」
私の言葉に、氷室先生が何か言いかけた時。
ドンドン!といささか乱暴なノックの音が響いた。
「誰だ?」
そして中に入ってきたのは、珪君とタマちゃんだった。
「何だい?君たちは。今は取り込み中なんだが」
「蓮ちゃんは悪くありません!私を助けてくれたんです」
「タマちゃん・・・」
「俺も一緒にいました。向こうが喧嘩売ってきたんです」
「もう分かったから。大滝さんを責めるつもりはなかったんだよ。実は先方は謝ってきたんだ」
「まさか・・・」
「いや本当だよ。うちの生徒が迷惑をかけたと。どうやら手を焼いていたらしくてね、骨折したことでしばらくは大人しくなって良かったと言っていた」
「・・・じゃあ何で私を呼んだんですか?」
「君は女の子だ。いくら強くても男を相手に喧嘩をすべきじゃない。危険だし、立派なレディになれないよ」
理事長は優しく諭すような口調で言った。
「私はレディじゃないし、大事な人を守れないくらいならレディになんてなりたくもありません」
「大滝!」
氷室先生が声を荒げる。
「君はお姫様より、騎士を選んだんだね?」
「・・・・・」
「今日はこれでよろしい。しかし覚えておきなさい。君が傷ついたら悲しむ人物がいるということを。例えば、後ろにいる友人のように」
「・・・はい」
私達は一礼をして、部屋から出た。

「面白い子が入ってきたね」
「・・・・はぁ」
「きっと君に何かを教えてくれるよ」
「そうでしょうか?」
理事長はこんなことを言うが、氷室は不安を感じていた。
この先も同じようなことがあったらどうするのか?
元気すぎるとはこういうことだったのか・・・・とぼんやりと考えた。

私が呼び出しをされたことで、色々な噂が飛び交ったようだ。
乱闘を見てた人もいたみたいだし。
レディースだったんだ、などという声が遠くで聞こえた。
なっちゃんには事の顛末を話したけれど、びっくりはされたものの態度が変わったりはしなかった。
私も見たかった!って悔しがってたくらい。
いい友達ばっかりで良かった。

「おー蓮ちゃんやないか」
お気楽な声に振り向くと、姫条だった。
「またあんた?何か用?」
「そんな冷たくせんでもええやんか。ちょっと話があってきたんや」
「話?」
「自分、不良をのしたんやってな」
「そうだよ。見た目に騙されなくて良かったって言いにきたの?」
「・・・そうやな。俺は上辺しか見てへんかった。今回ので目覚めたわ」
「・・・・」
「俺は蓮ちゃんの中身に惚れたで!」
「はぁ?」
「ダチを体張って守るなんて、そうそうできることじゃあらへん。その優しさと強さに惚れたんや」
「・・・・本気で?」
「俺はちゃんと蓮ちゃんを見てる。だから蓮ちゃんも俺を見てくれ」
真剣にそんなクサイセリフ言うから。
思わず笑ってしまった。
「・・・変なの」
上辺しか見てなかったのは、私かもしれない。
「おー初めて笑ってくれたな。やっぱ自分笑った顔のがかわええで」
「そういうこと言うから軽く見られるんだよ」
「これは本気やで。改めて言うわ。まずは友達になってくれへんか?」
「なんか謙虚だね。じゃ今からまどりんって呼ぶから!」
「はぁ?なんやねん。その変なあだ名は」
「まどかだからまどりん」
「・・・そんな女みたいな」
「嫌ならいいよ」
「・・・分かりました」
落ち込んでたと思ったら、急に顔を上げた。
「おっしゃー!友達の次は彼氏やで!」
「それは無理だと思うけどね」
「意地悪やなぁ」

最悪の出会いをした2人は。
こうして友達になったのだった。