ドーンという音と共に、夜の闇に光が広がった。
あちこちから感嘆の声が聞こえる。
「ここ・・・よく見えるな」
「さすがなっちゃん。いい場所知ってるよね〜。ちょっと混んでるけど」
とある橋の上。橋と言っても川の上にあるわけじゃなく、大きな歩道橋のような感じだ。
ここは丁度花火が上がる真正面で、絶好のポイントと言えた。
増え続ける人ごみを無視すればの話だが。
「なんかはぐれそうな感じー」
「・・・こっち来い」
珪君に引き寄せられる。
肩と肩が触れ合った。
「おい葉月―!!抜け駆けすんなー!」
まどりんの叫び声が聞こえたけど、人ごみのせいで姿が見えない。
「ちょっと邪魔するのやめなさいよ!」
なっちゃんの怒った声もするけど、どこにいるんだろ?
「・・・お前、すぐいなくなりそうだからな」
「迷子になんてならないってば。もー子供扱いして!」
「十分子供だろ?」
「そーゆー珪君だって子供じゃん」
「・・・・そうだな」
花火マジックなのか、珪君の表情がいつもより柔らかい。
やっぱり誘って良かった。
花火、好きなのかな?
しばらくじっと花火を見ていると、酔っ払い集団が前に来た。
はっきし言ってうるさい。
「おー姉ちゃん浴衣かぁ。おじさん達にお酌してくれよぉ」
酔っ払いのうち一人が声をかけてきた。
「嫌」
「そんなこと言わずにさぁ。いいじゃねーか」
腕を掴んでくる。
「!離してよっ!」
私がまさに相手を投げようとした時、珪君が男の手を掴んで捻りあげた。
「いっいたたっ!」
「・・・こいつに触るな」
「何だお前!弱そうなツラしやがってよ」
「・・・やるなら相手になる」
「ちょっと珪君!ダメだってば!」
「お前は手出すな。浴衣着て喧嘩するつもりか?」
「珪君だって浴衣じゃん!」
「つべこべうるせー!いくぜ!」
酔っ払いが殴りかかってきたが、酔いのせいかへなちょこパンチだった。
珪君はあっさりかわすと、右腕を突き出す。
「ひっ!」
拳は男の目の前で寸止めされていた。
「・・・消えろ」
「お、おぼえてやがれ!」
芸のないセリフを残して酔っ払いは逃げていった。
「・・・とりあえず静かになってよかったね」
「そうだな」
「ありがとね。私がやったら穏便にすんでなかったよ」
「・・・そうだな。なぁもう少し静かな所行かないか?」
「どっか知ってるの?でもみんなとはぐれちゃうよ」
「もうはぐれてる。後で電話すればいいだろ。・・・こっちだ」
珪君は私の手を掴んで、前に進み出した。
「ど、どこ行くの〜?」
「すぐ着く」
人の間をすり抜けて、どんどん歩いていく。
そのうち人の数も少なくなって、だだっ広い芝生の上に出た。
公園かな?
「・・・ここならゆっくり見れるだろ」
上を見上げると、さっきより近くに花火が見える。
邪魔な人の声も聞こえない。
「いい場所だね〜」
「・・・毎年ここに見に来てたんだ」
芝生に2人で腰を下ろす。
ひんやりして気持ちがいい。
「ね、寝っころがって見たらいいと思わない?」
「あ?」
その場で後ろに倒れこむと、視界一杯に花火が広がった。
「いい眺めだよ」
私がそう言うと、珪君は黙って同じ体勢になった。
「ね?」
「あぁ・・・気持ちいいな」
「こんな贅沢な見方なかなかできないよ。そーいえば珪君花火好き?」
「・・・好きだな。空に花が咲いたみたいで。お前は?」
「大好きだよー。特に音!」
「・・・音?」
「ドンって音がするでしょ?あの心臓に響く音が好きなの」
「・・・変わってるな」
「そう?だから花火は近くで見るのが好きなんだ。熱いビートを感じられるから!」
「・・・お前時々意味不明なこと言う」
「あ、やっぱり?もちろん音だけじゃなくて見るのも好きだよ。なんかね、夢みてるみたいな気分になる」
「夢?」
「花火って一瞬でしょ?夢のようにすぐ消えてしまう。でもきっと一瞬だからこんなに心惹かれるんだろうね」
「・・・・・」
「私は、花火みたいな生き方が理想なの」
「・・・何で」
「一瞬に命かけて。かっこよくない?」
「・・・勝手に咲いて、勝手に散っていくなよ」
「え?」
「・・・俺の前からいなくならないでくれ・・・・・」
珪君の言葉は囁きに近くて、私にはよく聞こえなかった。
「何て言ったの?」
珪君はふぅっと息を吐き出すと、小さく微笑んだ。
「・・・まだ会ったばっかりだろ?って言ったんだ。ほら、もう花火が終わる」
最後は柳のような長い線が垂れ下がる花火で、私達に降り注ぐ光の雨のようだった。
それはとても名残惜しそうで。
忘れないで、とでも言っているようだった。
私には・・・そう見えたんだ。