校舎裏。

気の弱い人間なら、訪れたくない場所ナンバーワンだろう。

そして、私はそこにいた。

大勢の女子に囲まれて。

これから何が起こるかは・・・・だいたい想像がつく。

それでも一応聞いてみた。

「何か用?」

私の言葉に、数人の肩がビクっと震えた。

別に、すごんだわけじゃないんだけど・・・・

教室で声をかけてきた子が、一歩前に出た。

「葉月君とつきあってるの?」

・ ・・・ビンゴ。

「ただの友達だよ」

「本当に?」

「嘘だったらどうなの?」

うんざりした口調で、そう答えると。

見る間に目の前の子の眉毛が吊りあがった。

「あなたに葉月君は似合わないわ!」

「あーそーですか」

「!真面目に聞きなさいよ!あんたみたいな乱暴な女、葉月君だって迷惑してるわよ!」

「本人がそう言ってたの?」

「なっ・・・・」

「相手にされないからって私に八つ当たりしないでくれる?話が終わったんなら、帰るわ」

そう言いはなって背を向けた。

「ちょっと待ちなさいよ!逃げる気!?」

進みかけた足を止めた。

ゆっくり振り返る。

「に、げ、るー?誰に向かって言ってんの?」

「な、何よ。恐くなんかないんだからね!」

「あっそ。じゃ、これから珪君のとこに聞きに行こうよ。実際どう思ってんのかさ」

「そ、それは・・・」

あからさまにうろたえていた。

「困ることでもあるの?」

私がそこまで言った時。

「おやおや、今日はギャラリーが一杯いるね。僕は一人で描きたいんだけどな」

およそこの場に似つかわしくない、素っ頓狂な声が聞こえた。

声のしたほうに顔を向けると、ウェーブがかった長い髪の男の子が立っていた。

全体的にナルシストっぽい。

私を囲んでたうちの一人が「色サマ?!」と叫ぶ。

シキサマ?

彼の視線が私に向く。

そしてなぜか笑顔になった。

「君は・・・ヴァルキュリアだね?モデルになりに来てくれたのかい?」

「はぁ?」

この人頭がおかしいんだろうか。

「君の方から来てくれるなんて嬉しいよ。やっぱり僕の美しさは罪だね」

「はぁ?・・・・あ!」

私が呆気にとられてるのをいいことに、女達はこそこそと逃げようとしていた。

「今日はこれで許してあげるわ!」

「ちょっと!待ちなさいよ!」

悪役のセリフを残して、走って逃げてしまう。

私と、変な彼だけが取り残された。

「人気者なんだね」

「どこがよ。どっからどう見たって嫌がらせでしょ?」

「そうなのかい?僕は邪魔したのかな?」

「うーん・・・・助かったような気もするけど。一応ありがと」

「どういたしまして。嫌がらせをされてたにしては、君の方が落ち着いて見えたけどね」

「ま、ね。よくある日常の1コマってやつ?」

「さすがヴァルキュリアだ。毎日が戦場ってわけだね」

「そのヴァル・・・なんとかって何?」

「僕のことを知らないのかい!?この天才、三原色を!?」

彼―三原君は、崩れ落ちるような仕草を見せた。

「え、うん・・・ごめんなさい・・・」

つい謝ってしまう。

「しょうがないな。今覚えて。僕はミューズに愛された芸術家、三原色だよ。君の名前は?」

「私は大滝蓮」

「レンか。美しい名前だね」

「ありがと。色って美術やるために生まれてきたような名前だね」

「そうだろう?マミィがつけてくれたんだ」

「マミィ・・・・?あ、しっきーって呼んでもいい?」

彼は大げさに驚いた。

「君にはネーミングセンスがないの?」

「だって色君って呼びにくいし・・・ダメ?」

「しょうがないな。特別だよ」

「ところでさ、校舎裏の何を描きに来たの?」

「ああ、それはね・・・」

しっきーが何かを言いかけた時。

慌しい足音が聞こえ、誰かが走って来た。

「蓮ちゃん!!大丈夫か?!」

「あ、まどりん」

よっぽど急いで来たらしく、息があがっていた。

「さっき窓から囲まれてんのが見えてん。髪とか切られへんかったか?」

「平気。慣れてるし。これからは誘いに応じないことにするよ」

「でもなー女は陰険やからなぁ。今度なんかあったら俺を呼んでくれ」

「うーん・・・・もっとややこしくなる気がするんだけど」

「なんでや?」

「自分で考えて」

まどりんが本気で考え込み始めた時、今まで黙っていたしっきーが口を開いた。

「僕はもう行くことにするよ。じゃあね、レン」

「あ、うん。またね」

手をさっと振って、しっきーは行ってしまった。

あれ?絵は描かなくていいのかな?

「今の変人の三原やんけ。知り合いか?」

不思議そうに訊ねてくる。

「うん。さっき助けてもらってさー」

「あいつに!?」

私は曖昧に笑ってごまかすと、強引に話題を変えた。

「さ、帰ろっか。喉渇いちゃったから、どっか寄ってかない?」

「ほんまに!?喜んで行くで!」

ぱあっとまどりんの顔が明るくなる。

「じゃ、鞄取ってくるね」

笑顔を向けて、私は教室に向かって歩きだした。