昼休み。 私は学校の裏庭を歩いていた。
なっちゃんは部活の集まりでいなかったから。
ここの学校は花が多い。 園芸部の活動だろうか。
ダラダラと花壇を見ながら歩いていると、前の方に女の子がいた。
何やってるのかな?と思った時、急にその子の体が傾く。
「!」
ダッシュで駆け寄って、その子を抱きとめた。
私は花壇に倒れこんだけど、その子は無事だった。
「大丈夫?」
声をかけると、うっすらと目を開けたがすぐに気を失ってしまう。
「ちょっと!・・・しょーがないな」
彼女を抱き上げて、保健室に向かった。こーゆー時、力があってよかったなと思う。
保健室までの廊下を歩いてると、生徒達がジロジロ見てくる。
私は気にしないけど、他人から見たら異様な光景だろう。
女が女を抱えてるんだから。
両手が塞がってるので、足でドアを開ける。
「失礼しまーす。 倒れた子を連れてきたんですけどー」
奥から保健の先生が歩いてくる。
「あらあら。一人で連れてきたの? 女の子なのにすごいわね。ベッドに寝かせてくれるかしら?」
「はい」
白いベッドの上に、女の子を寝かせる。 顔色が悪い。 貧血かな?
「どうもありがとう。この子の名前教えてちょうだい」
「知りません」
「え? 友達じゃないの?」
「はい。さっき偶然通りかかったので・・・」
「まぁ。友達じゃないのに、わざわざ連れてくるなんて優しいわね」
「そんなことないです・・・じゃ私はこれで」
「ちょっと待って! あなた腕から血が出てるわよ。 見せなさい」
「え?」
先生に言われて腕を見ると、10cmくらい切れていた。
さっき薔薇の花壇に突っ込んだから、茨に引っかかったのかもしれない。全然気づかなかった・・・・
「ほら。消毒しなきゃ。こんなに切れてるのに痛くないの?」
呆れながら消毒してくれる。 消毒液が染みて痛い・・・
「えっと、包帯は・・・」
「あ、大丈夫です。ほっとけば治ると思うし。それじゃありがとうございました」
「もう行っちゃうの? あなた名前は?この子も知りたいと思うわよ」
「別に大したことしたわけじゃないし、恩着せがましいことしたくないので。失礼します」
「あ、ちょっと!」
先生はまだ何か言いたそうだったけど、私は早々に退散した。
感謝されるために助けたんじゃないんだから。
教室に戻ると、ちょうどチャイムが鳴る所だった。
昼休み終わっちゃったよ・・・・
「おい・・・」
私が席につくと、隣から怒ったように珪君が声をかけてきた。
「え? 何?」
「腕・・・・どうした? 誰にやられたんだ?」
「ああ、これ? 花壇に突っ込んで切っちゃったの。大したことないよ」
「・・・嘘つくなよ」
「ほんとだってば。 嘘ついたってしょうがないでしょ? 女の子が倒れそうになってたのを支えたら、バランス崩しちゃってさ。薔薇の茨で切っちゃったんだ」
「・・・大丈夫なのか?痛いだろ?」
「全然平気。さっきも先生に言われるまで気づかなくってさー。こんくらいは怪我って言わないよ。それより、女の子が怪我しなくて良かった」
「・・・自分の心配しろよ。痕になったらどうするんだ」
「名誉の負傷なんてかっこいいじゃん」
「バカ。・・・お前だって女だろ」
珪君は本気で心配してくれてるらしかった。 だから私もおちゃらけるのはやめた。
「・・・ありがとう。でも本当に平気だから」
「あんまり無茶すんな・・・」
「うん」
その頃保健室では・・・
「う、うーん・・・」
「あら? 目、覚めた?」
「私はどうしてここに・・・」
「裏庭で倒れたのよ。気分はどう?」
「はい・・・大分よくなりました」
「そう。良かったわね。あなたのクラスと名前教えてくれる?」
「1年3組の紺野珠美です・・・。あの・・・」
「何? どうかした?」
「私を・・・運んできてくれた人は・・・」
「あぁ。それは覚えてるの? 残念だけどもう行っちゃったわよ」
「そうですか・・・抱きとめてもらった時、一瞬だけ顔を見たので・・」
「かっこいい子だったわよ。あなたをお姫様抱っこで連れてきたの」
その言葉を聞くと。 珠美の顔は赤くなった。
「そうなんですか・・・?」
「ええ。でも王子様は女の子よ。背が高くて、男の子みたいだったけど」
「あの・・・その人の名前を教えてもらえませんか?」
「私も聞いたんだけどね、教えてくれなかったの。 恩着せがましいことしたくないからって・・・いまどきめずらしい子ね」
「そうですか・・・・」
珠美があまりに落胆した声を出したので、教師もかわいそうに思ったのかこんなことを言った。
「そんなにがっかりしないで。見つけたいなら、ヒントくらい言えるわ。見たことない顔だったからきっと1年生ね。それと・・・左腕に切り傷があるわよ」
「切り傷・・・?」
「そう。薔薇で切ったみたいだったけど・・・」
珠美はすぐに気づいた。その傷は自分のせいだと。
私をかばうために、怪我してしまったのだ。
「先生。ありがとうございました。失礼します」
「もう少し休んでいけば?」
「大丈夫です」
絶対に見つけなくては。お礼を言わなきゃいけない。
教室に向かいながら、気を失う瞬間を思い出す。
力強い腕。
長い黒髪。
優しい声。
まるで恋焦がれるように。
珠美は名前も知らない蓮のことを想った。