ホワイトデー。

バレンタインよりは盛り上がりに欠けるが、女子にとっては嬉しいイベントだ。

そして何をあげるか悩むのは、男も女も同じ。

この男も悩んでいた。

「飴とかクッキーはありきたりやしなぁ。かといって何が好みかもわからんし・・・。あ゛―!!!」

「おい、うるせーぞ」

頭を抱えて叫んでいると、後ろから声がかかった。

「和馬か。俺は今悩んどんねん。ほっといてくれや」

「だからって廊下で騒ぐなよ。何悩んでんだぁ?」

「お前には縁のない話・・・なこともないか。ホワイトデーや」

「ホワイトデー?そんな悩むことじゃないだろ」

「アホか!好きな子に何あげるんかは重大やで!お前だって誰かから貰ったんやろ?どないするつもりやねん」

「お、俺は適当にクッキーでもやるよ。あ、大滝だろ?」

「蓮ちゃんの好みがわからんねん・・・」

「あいつならいらないって言ってたぞ」

「は!?」

「この前帰り道で会ったんだけどよ、ちょうどホワイトデー用の菓子が並んでる店があったんだ。それ見て「ホワイトデーなら気にしなくていいよ。チョコは嫌がらせだから」って言ってたぜ。まぁあれ食わされて、お返しくれって言われても怒るけどな。お前もロシアンチョコの被害者だろ?」

「まずいやつも食ったけど、うまいのもちゃんとくれたんや。何もしないわけにはいかん」

「うまいやつなんてあったのか?まーせいぜい悩めよ。俺は知らないからな」

そう言いきって、鈴鹿は行ってしまった。

「おい和馬!・・・こうなったら本人に聞くしかないか。一番確実やしな」


蓮は教室で本を読んでいた。

「蓮ちゃん。ちょっとええか?」

「いいよ。何?」

本から顔を上げずに答える。

まぁ面と向かってないほうが、聞きやすいかもしれない。

「最近欲しいものあるか?」

「なーに?急に」

「今リサーチしとんねん!し、新聞部に頼まれて・・・」

蓮がやっと顔をあげた。

「じゃ、家」

「家!?」

「一戸建てに住みたいんだよねー」

「で、でも家は簡単に買えんやろ?もっと手軽なものはないんか?」

「特にないや」

「そ、そうか・・・おおきに」


何の役にも立たなかった。

「さすが言うことが違うわ・・・・」

いくらなんでも家は買えない。

途方にくれかけた時、視界に珠美が写った。

「そうや!友達なら好きなもん知っとるよな!。おーい!珠美ちゃん!」

いきなり呼ばれた珠美は、ビクっと震えた。

しかし姫条だと気づいて、ほっとした顔になる。

「姫条君。どうしたの?」

「あのな、蓮ちゃんがどんなもん好きか知っとるか?」

「蓮ちゃんの好きなもの?うーん・・・・」

「ホワイトデーに何あげるかで困っとんねん。助けてくれ」

「助けてあげたいけど・・・でも何かが好きって話は聞いたことないなぁ。赤が好きなのは知ってるけど」

「色だけかい!・・・もっと具体的にあらへん?」

「物に執着しないみたいだから・・・ごめんね。分からない」

「そうか・・・・」

姫条はあからさまに肩を落とした。

不憫に思ったのか、珠美が励ますように言う。

「きっと何をあげても喜ぶと思うよ?」

「そんなもんなんか・・・?自分は何を貰ったら嬉しい?」

「えっ!?私は・・・気持ちだけで十分嬉しいよ」

顔を真っ赤にして俯いてしまった。

多分珠美の言うとおり、何をあげたとしても蓮は喜んでくれるだろう。

でもどうせなら気に入るもんあげたいやんけ・・・

何か記憶に残るものを・・・

「あ・・・・」


ホワイトデーの日。

そこここで「ありがとう」という声が聞こえる。

「そっか。ホワイトデーだっけ」

まるで人事のように蓮は呟いた。

「大滝」

「あれ?氷室先生?」

「この前のことを私なりに分析した」

「この前のこと?」

「コホン。君からのチョコレートだ。貰ったからにはお返しをしなくてはならない」

「別にいらないですよ」

「そうはいかない。これを受け取りなさい」

そう言いながら、紙の束を手渡した。

「・・・・嫌な予感がするんですが」

「課題を出してやる。期限は一週間だ」

「えー!!?先生の鬼―!!」

廊下に蓮の絶叫が響く。

氷室は勝ち誇った笑みを浮かべていた・・・


教室で、蓮が意気消沈していると。

「おい・・・これ・・・」

葉月が小さな箱を差し出した。

「え?・・・くれるの?」

「ああ・・・チョコのお返し」

「実は宿題・・・とかじゃないよね?」

「何だよそれ。気に入るかわかんないけど」

「じゃ、開けさせてもらおーっと」

ごそごそと包みを開くと。

出てきたのは、星の形をしたピアスだった。

「かわいいー!!でも、高かったんじゃない?」

「俺が作ったから・・・」

「え?作ったの?!」

「ああ・・・」

「器用だねぇ。珪君は何でもできるんだね。さっそく着けさせていただきます」

嬉しそうに耳に着ける。

「どう?」

「・・・いいんじゃないか」

「本当?エヘ、ありがとう」

「ああ・・・先生に見つかるなよ」

蓮が思いのほか喜んでいるので、葉月の表情はいつになく柔らいで見えた。


「今日ばっかりは一緒に帰ってもらわなあかん!気合いいれんと!」

深呼吸してから、姫条は蓮に近づいて行った。

「あ、まどりん。今帰り?一緒に帰ろうよ」

用意していたセリフを言われてしまい、動揺してしまう。

「も、勿論や!あ、これから時間あるか・・?」

「あるけど?どっか行くの?」

「見せたいもんがあるねん。俺、チャリやから後ろ乗せてく」

「おー二人乗りかぁ。久しぶりだな」

「ほな、行こ!」


「風が気持ちいいねー。どこまで行くの?」

「もう少しや。しっかり掴まっといてや」

まるで恋人同士や・・・と思いながら、姫条は至福の表情で自転車をこいでいた。

まぁチャリってのがかっこ悪いけど・・・

「なんか青春って感じー!」

「自分、言うことがいつも少しおかしいで・・・?」

「そっかな?」

そうこう言ってる間に、目の前に海が見えてきた。

「着いたで」

「海を見せたかったの?」

「もう少し待ちぃや」



自転車を降りて、テトラポットに腰掛けた。

「やっぱこの時期じゃ人いないね」

「そうやな・・・」

水色だった空が、だんだんと姿を変えていく。

雲が黄金色に染まり、燃えるような太陽が沈んでいく。

夜になる前の一時。

「きれーい・・・・」

思わず蓮が呟いた。

「ありきたりやけどな、これが見せたかったんや。ホワイトデー何をあげたらええんかわからんくて・・」

恥ずかしいからか、前を向いたまま姫条が言った。

「ありがとう。すごいプレゼントだよ」

「自分、赤が好きなんやろ?」

「え?」

「だから、夕日。海まで染める、ほんまもんの赤やで・・」

「景色をプレゼントなんて、まどりんもキザー」

「な、なんやねん!ええやろ?こんくらい」

てっきり笑うかと思った蓮は、予想に反して静かに海を眺めていた。

「きっと、忘れないよ。この夕日」

「そ、そんなこと言われたら照れるやんか」

「だって同じ景色は二度とないんだもん。二人だけの思い出だね」


辺り一面に広がる、様々な赤。

切なくなるような、恋の色。


いつになく真剣な感じ?(笑)

バレンタイン創作とあわせてお楽しみください。