あんなやつら消えてしまえばいい
人の人生を狂わせて、のうのうと生きている虫ケラども
「ハァ・・・」
蓮の今日何度目かも分からないため息。
「ちょっと!さっきから何なのよ。こっちまで気分が暗くなるでしょーが」
奈津美がイライラして怒鳴った。
「別にー」
「別にってことはないでしょ?!だいた・・・」
「席・・・変われ」
奈津美の声を遮ったのは葉月だった。
「な、何なの?」
「席、変わってくれ」
もう一度繰り返す。
「いいけど・・イライラしても知らないからね」
席を立った奈津美の変わりに、葉月が蓮の隣に座る。
ずっと窓の外を見てこちらを向きもしない蓮に話し掛けた。
「お前・・・酔ったんだろ」
ここはバスの中。今日から修学旅行なのだった。
「そう・・・・京都までバスなんて信じらんない」
青い顔で蓮がゆっくり振り向いて言った。
葉月は彼女が車酔いをすることを知っていて、心配してこっちにきたのだった。
「大丈夫か?」
「・・・大丈夫に見える?ここにいてもつまんないだけだよ。なっちゃんが怒ってたの見たでしょ?」
「気持ち悪いって言えばいいだろ?何で黙ってるんだよ」
「だって言ったって治るわけじゃないし、心配させてもしょうがないから・・・」
そう言いながらうつむく。
「下を向くな。もっと悪くなる。寝てろよ」
「寝たいのは山々なんだけど、揺れて窓に頭ぶつけるの・・・」
「・・・・」
「地獄だよ・・・」
力のない声で言う蓮を見て、葉月はしょうがないなとでもいうように、ため息をついた。
「・・・ほら」
そう言って自分の膝を叩く。
「え?」
「・・・膝枕してやる」
「えぇ!?いや・・・悪いし・・」
「いいから寝てろ」
「わっ」
蓮を引き寄せて無理やり寝かせる。
「・・・ありがと。・・・吐いたらゴメン・・・」
「・・・やめろよ」
そのうち蓮は眠ってしまい、それを見届けると葉月も目を瞑った。
この光景はクラスにちょっとした波紋を呼んだのだが、葉月が恐くて誰も騒がなかった。
「ふわぁ。よく寝たー。珪君ありがと!」
「・・ん」
バスから降りた蓮は、先ほどとはうってかわって元気だった。
「ここが今日から泊まる旅館かー。年季入っててすごいね」
「そうだな。老舗だから」
「君達!速やかに中に入りなさい!」
氷室の怒鳴る声がする。
普段なら静かになる子供達も、旅行先で興奮しているのか耳に入らないようだった。
「じゃ、またあとでねー」
蓮がヒラヒラと手を振って奈津美を探し始めた。
「蓮!こっち!」
奈津美が腕を掴む。
「あ、さっきはごめんねー」
「そんなのいいわよ。それより・・・ま、いっか。部屋で聞くわ」
「?」
そう言ってニヤっと笑った。
はばたき学園の生徒が旅館に着いたのは5時を過ぎており、荷物を運んで一息つくとすぐ夕食だった。
「宴会場じゃないんだね」
「なんか盛り上がりに欠ける気がするけど・・・でもゆっくりできていっか」
夕食は各部屋ごとになっていた。 全員の集まれる大きな部屋が、ここにはないらしい。
ここは八人部屋で蓮と奈津美の他にクラスの女子がいたのだが、食事中チラチラと蓮は見られてるような気がしていた。
気のせいだろうか?
その頃男子の方は・・・・
「おー葉月」
「・・・お前か」
「なんや相変わらず無愛想やな」
廊下で葉月と姫条が話していた。
昔ならガンつけあって終わっていたのを考えると、すごい進歩だろう。
「・・・何か用か」
「別に用はないけどな。お前は蓮ちゃんと同じクラスでええなぁ。バスずっと一緒やったんやろ?」
「ああ」
「俺も1組がよかったわ。そんならこの退屈な旅行も楽しくなったんになぁ」
「・・・・」
「蓮ちゃんとどんな話したん?」
「・・・してない」
「嘘言うなや。あんな長い時間あったんに。どうせ隣に座ってたんやろ?」
「・・・あいつは酔って寝てた」
もちろん、自分の膝で・・・とは言わない。
「車酔いするんか?以外やな。じゃ、きつかったやろな」
「機嫌が悪かった・・・・お前が隣だったら殴られてたぞ」
「・・・マジか?」
「・・・・・」
「・・・・・」
男同士の会話なんてこんなものだ。
「大滝さん。ちょっといい?」
「へ?何?」
一緒の部屋の子に急に聞かれて蓮は戸惑った。
何かしでかしたんだろうか?と奈津美を見ると、奈津美はニヤニヤしていた。
「あのね、えーと・・・葉月君とつきあってるの?」
「は?」
ついマヌケな声が出る。
「え?違うの?」
「つきあってないよ。何でいきなり?」
「だってバスで・・・」
「バス?・・・あぁあれはー」
言葉に詰まった蓮に、奈津美が追い討ちをかけた。
「ばっちり見たわよ!ひ・ざ・ま・く・ら」
「うぅ・・・・」
「やっぱりつきあってるんでしょ!?」
クラスの子が興味津々というように、身を乗り出した。
「違うってば。あれは私が車酔いしたから、珪君が仕方なくやってくれたんだよ」
「仕方なく、ねぇ」
「本当だって。座ったままだと頭ぶつけるんだもん」
「でもただの友達ならそんなことしないよ」
「そうだよ!」
女の子達が口々に言う。
「そんなこと言われてもさー。女だと思われてないんだよ」
「そう思ってんのはあんただけじゃないのー?」
奈津美が意味深なことを言う。
「何それ。とにかく違うの!」
「そっかー。でも葉月君と仲良くなれるなんてすごいよ。みんな恐がって近づかないもん」
「話してみれば恐くないよ。優しいし」
「蓮にだけね」
「もーなっちゃん、喧嘩売ってんの?」
お喋りは深夜まで続いた。
次の日。この日は団体行動。
観光名所と言われる場所をぞろぞろ見る。
蓮は興味なさそうに、金閣寺を見つめた。
「・・・悪趣味―」
「俺もそう思うで」
聞きなれた関西弁に振り向くと、姫条が立っていた。
「まどりん!何でここにいるの?ここ1組だよ?」
「そんなんええやんかー。俺、この辺ガキの頃から何回も来ててつまんないんや。自分も興味ないんやろ?」
「まぁ金閣寺はね」
「雪が積もると綺麗なんやで」
「そうなの?さすがジモティー」
「金が白に映えてなー。特に夜なんて全然雰囲気違うねん」
「へー見てみたいなぁ」
二人がそんな話をしていると。
「・・・姫条。君は違うクラスだろう?なぜここにいる?」
後ろから冷たい声がした。
「げぇ氷室センセ・・・いや、あの金閣寺の説明をしてたんですよ」
「説明ならガイドがいる。早くクラスに帰りなさい」
「・・・はい。じゃ、また後でな」
「あ、うん」
「大滝」
今度は蓮に矛先が向いた。
「何でしょう?」
「君は京都に興味がないのか?」
「いえ、そういうわけじゃ・・・ただ金閣寺が好きじゃないだけで」
「ではどこなら興味があるんだ?」
「うーん。一条戻り橋とかですかね」
「・・・随分とマニアックだな」
「そうですか?私は平安時代くらいの京都が好きです。羅城門とか見てみたかったなぁ」
「日本史が好きなのか?」
「嫌いです」
「・・・・・」
「あ、蓮!一緒に写真とろーよ」
「今行くー。じゃ、先生失礼します」
氷室は蓮の後姿を見送りながら、混乱していた。
彼女の言動は理解できない。
「ここは下鴨神社です。ここの裏にある糺の森は、神聖な場所とされていました。連理の賢木という2本の絡み合った木があったんですよ」
ガイドの人が説明している。
ガイド、というと女を連想するが、1組のガイドは男だった。
なかなかのハンサムで30代前半といったところか。
「ではこれから30分間自由に見て回って下さい」
生徒が思い思いにちらばっていく。
「どこ行くー?」
「中途半端に自由にされても困るっちゅーねん」
「わっ何よあんた。何でここにいるのよ?」
「蓮ちゃんに会いにきたんや」
「・・・どこ見るんだ?」
「あ、珪君。私上賀茂神社の方が行きたかったなー」
いつのまにかいつものメンバーが集まっていた。
「明日行けばいいだろ?」
「まぁそうなんだけど」
「とりあえずお参りしよっか」
「そうだね」
そんなに大きくない神社なのですぐ回り終えてしまった。あと10分ほど残っている。
「森に行こうよ」
蓮の提案で糺の森に入っていく。
他の生徒の姿はなく、とても静かだ。
「神聖視されてたのが、なんか分かるなー」
「・・・そうだな」
「俺はわからへんけどなー」
「馬鹿にはわかんないのよ」
「なんやと?」
またいつもの喧嘩が始まる。
蓮と葉月は無視して話を続けた。
「連理の賢木も見たかったなぁ。どんなだったんだろ?」
「でかかったんじゃないか?」
「そうなのかな?あ、夫婦円満の象徴だったみたいだよー」
「・・・へぇ」
「私が見たいやつは、ほとんどもうないんだよね。何でなくなっちゃうんだろ」
「・・・・どうしてだろうな」
その時。
「キャー!!」
森の中を切り裂くような悲鳴が聞こえた。
「入り口の方や!いくで葉月!」
「・・・何で」
「お前男やろ?ほら、はよせな!」
「ちょ、ちょっと二人とも!」
奈津美が止める前に、二人は走り出してしまった。
「私達も行こうよ」
急いで追いかけてしばらく走ると。
大きな木の前で立っている二人を見つけた。
回りにも人がまばらにいる。 泣いているものもいた。
「・・・どうしたの?」
蓮が木を覗き込むと。
藁人形のように木に打ち付けられた女性徒がいた。
流れ落ちた大量の血は、太い幹を紅く染めていた。
