事件はあっというまに広がり、生徒たちは旅館へ帰された。
様々な噂が流れ始める。
「通り魔とかかなぁ?恐−い!」
「殺人犯がうろついてたんだよ!」
どの生徒も例外なく怯えていた。
「蓮ちゃん、さっきのどない思う?」
と姫条が聞いた。
「犯人がどんな奴かってこと?うーん、通り魔だとは思えないけど」
「うちの生徒を狙ったってことか?」
「うちの生徒ってゆーより、あの子じゃないの?」
「普通の殺され方やなかったしな」
「なっちゃんあの子の名前知ってる?」
「確かー高倉って名前だったと思うけど。派手な子だよ」
「ふーん・・・・」
「こら君達。早く部屋に戻りなさい!」
氷室に怒られて、4人の会話はそこで終わった。
「葉月、ちょっとええか?」
「・・・ああ」
葉月と姫条は旅館の端の方に向かった。ここなら先生にも見つからないだろう。
「お前どない思う?」
「・・・何が」
「わざわざ旅行中を狙ったと思うか?」
「・・・どうだろうな。あれだけじゃ分からない」
「そうやな。殺されたのには理由があると思うか?」
「・・・ああ。無差別ならわざわざ木に打ち付けたりしないだろ。見られるかもしれないしな。あの殺し方には理由があるんじゃないのか」
「なるほどな。じゃ計画的やったってことか。・・・まだ続くと思うか?」
「・・・分からない。でも先生が外に出さないだろ」
「そやな。なら安全か」
「・・・お前犯人探そうとしてんのか」
「お、分かったか?警察はあてにならへん」
「俺を巻き込むなよ」
「なんや俺とお前の仲やないか。それに蓮ちゃん守ると思えばやる気になるやろ?」
「・・・・」
「ほな決まりな」
「・・・決まりたって何も分からないのにどうするつもりなんだ?」
「最初は聞き込みやな。殺された高倉のことを聞きにいこうや」
聞き込みは難航すると思われたが、意外にすんなりと進んだ。
葉月と姫条の容姿が関係しているのであろう。
ただ重要なことは分からなかったが。
「高倉さんは、あんまり仲良くなかったからよく知らないけど、夜遊びとかすごかったらしいよ」
高倉はあまり好かれていなかったらしい。どの子も、よく知らないと答えた。
共通していたのが、夜遊びを毎日のようにしていたらしいということ。
これだけじゃ何もわからない。
「うーん。収穫なしやなぁ・・・」
姫条がため息をついた。
「・・・だから言ったろ」
葉月がにべもなく言う。
「これ以上は無理かもな・・・」
「ずっと部屋にいろなんて地獄〜」
奈津美がうんざりした声で言う。
「そうだね・・このままだと明日も外出禁止かも」
「えー!!」
叫んだ奈津美に、傍にいた女子が青ざめた顔で言った。
「外になんか行かない方がいいよ。通り魔かもしれないんだから」
「恐いよねー」
「何でわざわざ京都で・・・」
口々に言う子たちを、蓮は冷めた目で見ている。
「蓮・・・こっちで話しない?」
奈津美が窓際を指差して、蓮をうながした。
「あんた恐くないの?」
「全然」
「どうして?」
「私は狙われてないし。なっちゃんも」
「何でそーやって断言できるわけ?」
「だってさっきも言ったけど、通り魔とか無差別殺人とかじゃないもん。殺され方見れば分かるよ」
「じゃ誰がやったの?」
「高倉って人に恨みがあった人じゃない?」
「仮にそうだとしても、何でわざわざ旅行中なの?」
「足がつきにくいからじゃない?旅先なら犯人との接点を調べるのは難しいし。でも普通に殺して変態に見せかけなかったってことは、よほどうらみがあるのか、殺し方に理由があるのか・・・」
そこまで言った蓮を、奈津美は驚いたような呆れたような顔で見た。
「・・・よく知ってるね」
「そう?でも全部推測にすぎないけどね」
修学旅行3日目。
「今日の自由行動は中止にする。旅館の中で静かにしているように」
氷室の声に、みな静かに従った。 何人かが不満の声をあげたが、それも数えるほどしかいなかった。
大多数は恐いのだろう。
「やっぱり中止になったね」
「そうね」
「おー二人ともここにおったんか」
姫条と葉月が2人の前に来た。
「私行きたいとこあったのにな」
「まーしゃーないな。俺と楽しい1日を過ごそうや」
「えー」
「蓮ちゃんヒドイ・・」
部屋にいてもつまらないので、旅館の中を歩き回ることにした。
廊下のあちらこちらに置かれた花が品がいい。
庭もよく手入れが行き届いていた。
「ねぇ庭に出ようよ」
「そうだな」
4人で外に出る。庭なら旅館の中ということになるだろう。
鯉が泳いでいる池、もみじなど赤く染まった木があちこちに植えてある。
「豪華な庭やな」
「さすが老舗旅館」
思い思いに感想を言いながらぶらぶら歩いていると、蓮が突然顔をしかめた。
「・・・何か変なにおいしない?」
「におい?」
奈津美が問い返す。
「・・・向こうから微かにする」
葉月も気づいたようだ。
「見に行ってみるか」
錆びたようなむせかえるような香りは、だんだん強くなってくる。
「これ何のにおい?」
庭の端まで来てしまった。
目の前には池があるだけ。水が腐ってでもいるのだろうか?
あまり大きくない池を覗き込むと。
透明なはずの水は紅く、広げた手の上に石を置かれて沈んでいる人影。
はばたき学園の女生徒だ。
胸にはナイフが突き刺さっていた。
「いやー!!!」
静かな庭に、奈津美の叫び声が響いた。
