「誰か呼んでくる!」
蓮がそう言って、走り出した。
「今のうちに何か見つけとかんと!」
「・・ああ」
姫条と葉月は、死んだ少女にじっと目をこらす。
「・・・手に何か乗せることは意味があるのか?」
「わからん・・・でも偶然だとは考えにくい」
水面は赤く濁っていてよく見えなかったが、手がかりになりそうなものは何もなかった。
「藤井。この子誰か知っとるか?」
姫条が地面に座り込んでいた奈津美に問い掛けた。
奈津美が我に返る。
「えっと・・・島津さんだと思う」
「どんな子やった?」
「知らないわ・・・喋ったことないもの」
島津は髪の毛を染めていて、制服も着崩していた。
葉月が何かに気づく。
「・・・一人目と似てる」
「あ?顔がか?」
「違う。雰囲気が」
「・・・そう言われてみればそうやな。前の子もギャルって感じやったしな。狙われとんのはギャルか?」
「・・・こいつら何かしたんじゃないか」
「そう考えんのが妥当やな。これも聞いてみんことには何もわからんか・・・」
「君達!どうした!?」
氷室や他の教師達が走ってきた。蓮も一緒にいる。
「ここまでやな・・・」
姫条がつぶやいて場所を空ける。
教師達が息をのむ音が聞こえた・・・・
外出禁止令が出る前に、聞けることは聞いておかないといけない。
早く犯人のめぼしをつけないと、また犠牲者が出るかもしれない。
2人はまた何人かの生徒に島津のことを聞いてみたが、かえってくるのは1人目の時と同じ答えだけだった。
「なんや、あの子ら友達おらんのか?」
「・・・・」
「さぁて、どないする?ここらでもう一度考えてみるか」
「・・・2人とも悲鳴をあげてない。それに誰も2人がいなくなるのを見ていない」
「それは1人でいたんとちゃうか?でも連れ去られた形跡がないところをみると、顔見知りかもしれんな」
「ああ・・・少なくとも怪しまれない奴だ」
「・・・旅館の従業員とかはどうや。こんだけ警戒されてても、ここの奴なら安心するからな」
「2人目ならそれでいいが、1人目は外だった。外の全然関係ない場所にいたらおかしいだろ?」
「まーそうやな。じゃ誰やねん・・・」
「・・犯人は従業員になりすましたのかもしれない。ここの制服は普通のスーツだろ。いくらでも手にいれられる」
「そうか!お前やっぱ頭ええな。でもそこまで分かっても肝心の誰なのかがわからへん・・・」
「そうだな・・・」
姫条が頭をかかえた時、もう聞きなれてしまった悲鳴が聞こえた。
「またか!?くそっ!行くで!」
2人は声のしたほうに、走り出した。
玄関で仲居さんが座り込んでいた。
それを遠巻きに生徒や従業員が取り囲んでいる。
傍に行こうとした時、集まってくる人間に逆らって部屋に帰る人影がいた。
「あれ見ろ・・・」
「なんや?従業員やないか。警察に電話しにいくんとちゃうか?」
「警察なら、さっきの騒ぎでもう来てるはずだ。また連絡する必要はない。それよりあの顔・・・・」
葉月が考え込む。
「見覚えがあるんか?」
「・・・どっかで見た」
「どっかってお前なぁ」
「はい!そこからどいて下さい!」
警察が野次馬達をどかしはじめる。
被害者の顔がちらっと見えた。
「こんな目立つとこに・・・見せしめか?」
また女性徒だった。化粧をした派手な感じの子だ。
床に横たわっていた。両腕を広げられていて、手のひらには釘がささっている。
姫条が近くにいた女生徒に声をかけた。
「なぁ、あの子の名前知っとるか?」
「え?う、うん・・・。山野さんだよ」
「自分あの子と友達か?」
「ううん。近寄りがたいから・・・」
「そうか。おおきに」
「・・・さっきの男思い出した」
「誰やったんや?」
「ガイド」
「ああ?ガイドなんか関係あらへんやんか」
「服を見ただろ」
「服?・・・・あ!ここのスーツ着とった!てことはあいつが犯人か!?」
「可能性は高いが、動機が分からない。それに証拠もない・・・」
「もう少しやのに・・・」
姫条が歯噛みしていると。
「あ、あの姫条君・・・」
声をかけてきたのはさっきの女生徒だった。
「何や?」
「悪口言うみたいで嫌なんだけど・・・私、殺された3人がよく一緒にいるの見たことあるの」
「あの3人、仲良かったんか?」
「多分。あのね・・・あの子達援交してたの」
「ほんまか?」
「3人で話してるのが聞こえちゃったんだけど、サラリーマンを騙してお金だけとったんだって。しかも奥さんにバラして家庭壊してやったって笑ってた・・・」
「・・・最低だな」
葉月がつぶやく。
「そうか。重要なこと教えてくれておおきに。今度何かおごるわ」
「じゃ私はこれで・・・」
女生徒を見送ると、2人は人気のない方に向かった。
「サラリーマンが多分ガイドやな」
「ああ。この旅行を狙ってたんだろ」
「証拠はどないする?」
「・・・カマかければ何とかなるだろ」
「ほんまか?」
姫条が不安そうな声を出した時、旅館に放送が入った。
「生徒諸君。速やかに自分の部屋に戻りなさい。今日は部屋からでないように」
「時間切れだな・・・やるなら明日だ」
「分かった」
修学旅行4日目。
旅館にいても安全ではないのと、これでは旅行の意味がないということで団体行動になった。
「チャンスは休憩の時や。そん時にあいつを捕まえる」
「分かってる」
昨日のガイドはにこにこと喋っている。
あの仮面の下は、残虐な殺人犯なのか。
「15分間休憩にする。必ず誰かと一緒に行動するように」
「さぁいこうや」
葉月と姫条はガイドの元へ向かった。
「ちょっとええですか?」
「何だい?質問かい?」
「そんなもんです。あの、もうちっと静かな所で話したいんですが」
「いいよ」
ガイドを林の方へと連れていく。
さりげなく、葉月が男の後ろに回る。逃がさないためだ。
「ここでええです。・・・・殺したいほど憎んでたんですか?」
「!・・・何の話かさっぱり分からないんだが」
「・・・あんたがうちの生徒を殺したんだろ?」
「おいおい、何を根拠にそんなこと言うんだ?」
「昨日、旅館の制服を着たあなたを見ました」
「・・・・」
「言い訳がありますか?あんたは被害者をすんなり連れ出すために従業員になりすました」
「・・・・・」
「一人目は、先生が呼んでるとでも言って連れ出したんやろ?・・・殺された奴ら、援交してたんやってな。あんた騙されたサラリーマンやろ?」
「・・・ハハッ。よく調べたね。お手上げだ」
「認めるんか?」
「ああ。俺がやったんだ。あんな虫ケラ死んで当然なんだよ」
人のいい仮面が剥がれる。
「虫ケラ・・・ね」
「あいつらのせいで俺の人生は狂ったんだ。妻にも離婚された」
「それはあんたが援交なんてしたからやろ?」
「・・・あいつらは俺の金だけ奪って逃げたんだよ。しっかり妻にも連絡してな」
「・・・・・」
「だからあいつらの人生も壊してやろうと思った。壊れていく俺のように!」
「・・・そんなに憎んでたのか?」
「当たり前だろ?あの後俺はやつらの学校を調べた。すぐ復讐しても良かったが、やつらに相応しい死に方を用意してやったんだよ」
「それがここか」
「ああ。修学旅行に行くことを知って、俺はガイドになることにした。旅行会社に勤めてたから簡単だった」
「・・・・」
「あいつらは俺のことを覚えちゃいなかったよ。所詮カモの一人だからな」
「聞いてもええか?殺し方には意味があったんか?」
「藁人形のように、呪いながら殺してやったのさ。ぴったりだろ?」
「・・・あんたそれで幸せなのか」
葉月がぽつりとつぶやく。
「・・・幸せ?ああ、幸せだよ。やっと復讐できたんだからな」
「本当に?」
「・・・・・」
「あいつらに同情の余地なんてない。でも殺したからって何も変わらんやろ?何か変わったか?」
「・・・・・」
「一度狂ったからってそこで終わりなわけやないやろ?何度だってやり直せるやろ?」
「・・・もっと早く君たちに会いたかったよ。そうすれば他の道が見つけられたかもしれない・・・・」
「・・・自首して下さい。そしてやり直してください」
「・・・分かった。君たちのおかげでこれ以上醜くならなくてすんだよ・・・」
2人は、警察の方に向かっていく男を黙って見送った。
「根は悪い人やなかったんやな・・・」
「・・・そうだな」
犯人が自首して、皆に安堵が広がった。
夜、葉月の部屋に蓮と奈津美、姫条が集まって話をしている。
「お手柄じゃーん!2人とも!」
奈津美が明るい声で喜んだ。
「ほんとにねーよく犯人分かったね」
「こんなん俺にかかれば朝飯前やで!どや惚れ直したか?」
蓮は微笑んだだけで何も言わなかった。
またきついことを言われると思った姫条は拍子抜けする。
まさかほんまに俺に惚れてくれたんか!?
そんなことを考えている姫条をよそに、話は進む。
「あの優しそうなガイドさんがねぇ・・」
「・・・普通の人がいつだって殺人犯になるんだよ」
蓮の言葉に、皆が黙り込む。
「人の心って難しいね」
「・・・そうだな」
そんなシリアスな話をぶち壊すように、枕が姫条の頭に飛んできた。
「いてっ!なんやねん!」
後ろでは枕投げが始まっていた。
「よーし!私達もまざろうよ!」
奈津美が手近にあった枕を拾って、投げ返す。
やる気のない葉月に蓮が枕をぶつけた。
「先手必勝!」
その言葉を聞いて葉月が微笑んだ。
部屋の中は枕が飛び交い、生徒たちが大騒ぎしている。
今までの不安を吹き飛ばすかのように。
ドンドン!突然ノックの音が響く。
「コラ君達!静かにしなさい!」
「やべぇ!隠れろ!」
それぞれ布団の中や、テーブルの下、押入れなどに隠れた。
蓮は布団に潜り込んだが、先客がいたらしい。
「わっ誰かいた・・・」
でもそんなこと気にしてられない。
「・・・早く寝なさい」
氷室がそう言い残して、部屋から出て行った。
「・・・行ったみたいだな。よし、出てきていいぞ」
蓮が布団から這い出すと、葉月も出てきた。
ということは・・・
「珪君だったの!?」
「・・・・お前のシャンプーいい匂いがする」
「・・・そう?」
部屋の向こう側では、姫条と奈津美が言い合いをしていた。
「何であんたがいんのよ!」
「こっちのセリフやボケ!ひっついてきやがってきもいねん!」
「何ですって!?」
「またやってるよ。あの2人・・・」
「ほっとけ」
2人の喧嘩は延々続いたのだった。
修学旅行5日目。
「あっという間だったね」
「てゆーか何もしてなくない?」
「言えてる」
事件も解決したので、今日は念願の自由行動だった。
いつもの4人で、色々回っている。
コースは蓮が決めたのだが、いわゆる観光名所は入っていない。
よくこんな場所を・・・と他の3人が思うほど、変わった場所が多かった。
今は随心院にいる。ここは比較的有名だ。
「ここはねー百夜通いの悲恋の話があるんだよ」
「へぇー。どんな話なの?」
「小野小町が住んでたんだけど、小町に熱心に文を送ってくる人がいたの。でも彼女はつきあう気がなかった」
「それで?」
「困った彼女は、百夜ここに通ってくればあなたの想いを受け入れますって言ったの。こう言えば諦めると思ったから。でも男は諦めなかった」
「それで百回通いきったんか?」
「そしたら悲恋になんないじゃん。百夜目の夜、外は嵐だった。でも男は出かけた。今日で最後だったから。でも男が門を叩くことはなかった・・・」
「・・・どうなったの?」
「次の日の朝、小町の元に従者が変わり果てた男を連れてきた。男は百夜通いきれずに死んじゃったんだよ」
「なんや1回くらい大目にみてやりゃよかったんに・・・」
「そうだね。でもきっと想いは伝わったんじゃないかなぁ」
「蓮にしてはロマンチックな話ね。あんたならどうする?」
「百夜通うかってこと?うーん・・・そこまでの情熱があればね」
「俺は通うで!百回でも二百回でも!」
「葉月は?」
「・・・通う」
「へぇ。そんなこと言うと思わなかった」
それから蓮にだけ聞こえる小さな声で奈津美が囁いた。
「あんた愛されてんねぇ」
「はい?」
「これじゃ葉月も苦労するわ・・・」
その後ろで。
葉月と姫条が睨みあっていたことを、蓮は知らない。
あとがき