風も吹かない夏の夜。

寝苦しくて目を覚ます。

めずらしく夢を見た。

こんな日は、あの子に会いたい。

可愛い笑顔、柔らかい髪、細い首筋、よく動く唇。

全てが愛おしい。

今すぐに、触れたいのに。

我ながら子供じみてると思いながら、それは諦めた。

外を見やると、空が灰色に染まっている。

「明日は雨かな・・・?」

ふとそんな言葉が、こぼれた。


予想通り雨が降った。

小降りだが、止む気配はない。

こんな日にわざわざ出かけて行くなんて、君は馬鹿げてると思うかな?

「あかね」

名前を呼ぶと、

「友雅さん!」

いつも笑顔で駆け寄ってくるね。

「雨なのにどうしたんですか?」

「姫君が退屈してるだろうと思ってね。お邪魔してもいいかな?」

「邪魔だなんて・・・すごい嬉しいです。早く中にどうぞ」

にこにこしながら、袖を引っ張ってくる。

「少し落ち着きなさい。私はいなくならないから」

「へへ・・・少しはしゃいじゃいました」

そう言って照れる顔を見ながら、知らずに笑みがこぼれた。


「雨の日はあんまり好きじゃないんです。外に出かけられないし・・・怨霊退治とかしなくちゃいけないのに」

「そんなに気にすることはない。気楽にやりなさい」

「気楽にって言われても・・・みんなに会えないのもつまらないし」

「私に・・・とは言ってくれないの?」

「えっ?・・・・友雅さんに会えないのは寂しいです」

「ふふっ嬉しいことを言ってくれる」

この子はどこまで本気で言っているんだろうねぇ。

「どうして友雅さんは、そんなに優しくしてくれるんですか?」

「おやおや。私に口にさせるつもりかい?八葉だから・・・と言ってほしいのかな?」

「違うんですか?」

「龍神の神子だからじゃない。あかねだからだよ」

「私だから・・・?」

「ふふっ鈍い姫君だね・・・」

私の焦りなど、君にはどうでもいいことなのかもしれないね・・・


次の日も雨だった。

こんなに雨が降るとはめずらしい。

あかねはがっかりしているだろうか、と思いながら、藤姫の屋敷に向かう。

しかし部屋の前で名前を呼んでみたが、返事がない。

「神子様ならお庭です」

後ろから声が聞こえた。

あかね付きの女房らしい。

「ありがとう」

薄々そうではないかと思った。

私は知っているよ。

雨の日に、庭で一人佇んでいるのを。


あかねは傘も差さずに、濡れるままになっていた。

隣に歩いて行ったが、私のことなど見えていないようだった。

一点を見据えたまま、瞬きもしない。

なぜか声をかけられなかった。


「と、友雅さん!?」

あかねが驚いた声を出したのは、暫くたってからだった。

「私も雨に濡れれば、君の気持ちが分かるかと思ってね」

「・・・・何のことですか?」

「覚えていないのかい?どうして庭に出ていたのかを」

「あの・・・気づいたらここに立ってて・・・そしたら友雅さんがいて・・・」

あかねは困惑した表情を浮かべた。

「本当に分からないみたいだね。では早く中に入ろう。風邪をひいてしまうよ」

「あー!!」

「ど、どうしたんだい?」

「友雅さんごめんなさい・・・こんな濡れちゃって・・・」

泣きそうな彼女の肩に手をかける。

「私が好きで濡れたんだから気にすることはない。さぁいこう」


龍神があかねを呼んだのかもしれない。

しかし連れていかせはしないよ。

「私はね・・・全てから君を守りたい」

「えっ・・・?」

「降りかかる雨からも、運命からも・・・」

これは私の我侭だ。


胸の痛みは日に日に強くなる。

焦燥も増す。

彼女を手に入れることが罪だというならば、喜んで罰を受けよう。

私を本気にさせた姫君は、誰にも譲らない。

例え、龍神であっても。


君の嫌いな雨が

今日も降っている



もっと甘くなる予定だったんですが、全然甘くないですね(笑)
個人的には幸せにしたいんですけども。
私が書くと、切ないかギャグにしかなりません(笑)