下校時刻も近づいた頃、急な雨が降り出した。
生徒たちは慌しく正門を走り抜けていく。
氷室も仕事を終え、教師用の出入り口から外に出た。
銀の糸のような雨に一瞥を与えて、傘を開く。
彼は常に先のことを考えているタイプだったから、急な雨でも動じない。
傘を持っていなくとも車で来ているので、少し濡れる程度なのだが。
駐車場へと歩きながら、半ば義務のように昇降口を見やると。
一人の少女がぼんやりと空を見詰めていた。
彼のクラスの生徒だった。
「どうした?大滝」
蓮は声の主に視線を合わせて、少し微笑んだ。
「あ、氷室センセー」
彼女はいつも氷室を呼ぶとき語尾を伸ばす。
氷室は彼女からそう呼ばれるのが嫌いではなかった。
「傘がないのか?」
「考えてたんです。走って帰るべきか、どうせ濡れるなら歩いて帰ろうか」
「・・・・」
何だそれは。
「どっちがいいと思います?」
彼女は本気で悩んでいるのだろうか?
結局氷室は第三の選択肢を提示した。
「どちらも却下だ。私の車に乗っていきなさい」
「へ?」
「送っていこう。・・・通り道だからな」
言い訳がましく付け加えた。
「いいんですか?」
「早くしなさい。私は時間を無駄にするのが嫌いだ」
蓮を傘の中に入れて歩き出す。
少し強引だったかもしれない、と氷室は思った。
でもこの機会を逃したら、次はないように思えた。
「センセー、車好きですか?」
「何故だ?」
「ピカピカだから」
蓮が車内を見回しながら言う。
塵一つない。
外装も磨きぬかれていた。
「・・・そうだな」
会話が途切れる。
車に乗せたはいいが、氷室は緊張し始めていた。
生徒を乗せるのは初めてだったし、まして自分は蓮に対して教師らしからぬ感情を抱いている。
蓮はある意味問題児だ。
最初はだから気になるのかと思っていた。
でも違っていた。
時折見せる、意外な一面。
どこか寂しげな笑顔。
気づけば、彼女ばかり見ている。
恋をしてしまったのだ、と気づくのに、そう時間はかからなかった。
「センセーはいつもこんなボランティアしてるんですか?」
「・・・ボランティア?」
質問の意味が分からなくて、問い返す。
「傘のない生徒を自宅まで送ってくボランティア」
氷室は一瞬迷ったが、口が言葉を紡いでいた。
「・・・生徒を乗せたのは、君が始めてだ」
彼女はどう受け取ったのだろう?
そればかりが気になる。
蓮は何も言わない。
唐突に、このままどこかへ連れ去ってしまおうかと夢想する。
そうすれば彼女は自分だけのものだ。
このまま閉じ込めてしまえば。
「ねぇ先生」
いきなり少女に呼ばれ、氷室はビクっと震えた。
「何だ?」
「このまま・・・遠くへ行きませんか?」
さらりと告げられた言葉。
痛いほどの静寂。
手と手が触れ合う。
聞こえるのは、御互いの息遣いと、雨がガラスを叩く音だけ・・・
ものすごい久々のGS。
ヒムロッチのキャラ忘れかけてました(苦笑)
甘々のを、と言われたのに甘くないし。
つ、次は頑張りますです><