「ピアノの音・・・?気のせいか」

こんな夜中にピアノを弾くやつなんていない。

でも悲しそうな音色だ、と葉月は思った。

「おっはよー」

いつもは遅刻してくる蓮が、めずらしく先にいた。

「・・・早いな」

「そっかな?昨日なっちゃん家に泊まったんだけど、叩き起こされてさぁ」

「・・・そうか。なぁ」

「なーに?」

「夜中に・・・ピアノが聞こえたんだ」

「ピアノ?夜になんて非常識だね」

「・・・多分気のせいだと思う。近所でピアノがある家ないし・・・」

「でも聞こえたんでしょ?あ、幻聴が聞こえ出したって心配してるの?」

「・・・・ちょっと違う」

「よくわかんないなぁ。そーいえばピアニストが死んだよね。その子が珪君家に来たんじゃないの?」

「・・・お前どこまで本気なんだ」

「怖がってくれないのー?つまんないなぁ。あ、昨日の夜また誰か死んだらしいよ」

「そうなのか?」

「路地裏で殺されてたんだって。被害者は高校生。不良だったみたい。犯人は不明。あ!」

「・・・どうした」

「現場にね、血で書いた楽譜が落ちてたの。あれはピアノの楽譜だね」

「・・・ピアニストと関係があるのか」

「さぁ?不良と関わりがあったとは思えないけど・・・祟りってのはナシね」

「・・・なんで」

「死んだらそこでおしまいだから」

「・・・・・」

こいつは時々、こういうことを言う。


「はーづき」

「・・・・気持ち悪いな」

葉月が振り返ると、後ろには姫条がいた。

「一緒に帰らへん?どうせ一人なんやろ?」

「・・・いいけど」

「っしゃあ。下校デートの始まりやで〜」

「・・・冗談はそこまでにしておけ」

「・・・・睨まなくてもええやんか」


校門から出たところで、葉月が口を開いた。

「何か・・・用があるんだろ」

「さすが天才。昨日の事件聞いたか?」

「・・・殺された高校生のことか」

「そうや。俺は少し前に死んだピアニストと関係があるんやないかと思うとる」

「・・・・」

「これは復讐とちゃうか?自殺の原因作ったのはきっとあいつやで」

「・・・死んだ人間には復讐できない」

「もちろん生きてるやつや。友達とか親とか・・・」

「証拠がないだろ。それに学校も違うし接点がない。そもそもピアニストの男に関係がある事件とは限らない」

「ないならそれでええんや。実はな、昨日死んだ不良は仲間がおってん。いつも駅前のゲーセンでたむろってるらしい」

「そこで確かめよう・・・か?」

「その通り!どうや?」

「・・・・」

「やっぱ・・・ダメか」

葉月がため息を一つついた。

「つきあってやる」


どうして行く気になったのか分からない。

ただ・・・あいつは復讐なんて望んでないと思うんだ。


「どいつやろか?」

「・・・さぁ」

それらしい人間ばかりで、見当がつかない。

「不良なんてどれも同じようなもんやからなー」

「・・・帰るか?」

「いや、もう少し見てみよや。ただつったってんのも怪しいから、ゲームでもせえへん?」

「・・・それが目的だろ」

「ちゃうって!」

姫条は慌てて手を振ったが、説得力がなかった。


レースゲームをしていると、後ろで口論が始まった。

「なぁ・・・次は俺達なんじゃないか?」

「やめろよ!」

「あいつに殺されるんだ・・・」

「やめろって言ってるだろ!あいつは死んだんだ!俺達が殺せるわけがない」

「でも三田は死んだじゃないか!」

仲間割れしている。

「あいつらやないか?」

こっそりと様子を伺いながら、姫条が呟く。

「ああ・・・多分な」

「ってことは俺の予想は当たっちまったってことやな」

自分が言い出したくせに、どこか寂しそうだった。

「あーもう!クソ!おいお前!金よこせよ!」

リーダー格の男が、近くにいた高校生にいきなり絡み始めた。

「断る」

「何だと!?」

絡まれた方は、臆しもせずに言い放つ。

弱そうには見えないが、相手は5人はいる。

「しゃーないな。行くで!」

「お前は本当にお人よしだな・・・」  

渋い顔をしたが、葉月の言葉はどこか優しかった。

「そうこなくちゃな!おい!ちょっと待ちーや!」

立ち上がりながら、何だか水戸黄門みたいだな・・と葉月は思っていた。