「また一人・・・・」

新聞に載った顔写真は、見知ったものだった。

「昨日からんできた奴らの一人や」

誰に言うでもなく、姫条が呟く。

また一人殺された。

傍には血で書かれた楽譜・・・

「・・・・・」

「さすがに今日はおらんか」

またゲームセンターに来たのだが、あいつらはいなかった。

仲間が二人も殺されて、遊んでるどころじゃないのだろう。

次は自分かもしれないのだから。

「前宮も・・・いないみたいだな」

「昨日より少し早いしな・・・あ、CD屋行ってもええか?」

「・・・いいけど」

「今日発売やねん。おおきに」

姫条は拝むように顔の前で手をあわせた。


駅前のCD屋は、中途半端な時間のせいか人が少なかった。

「買うてくるから、ちょっと待っといてや」

「ああ・・・」

することもなくて、ぼんやりと周りを見渡す。

クラシックのCDでも見るかと思い立ち、隅にあるコーナーに向かって歩き出した。

そう広くない店だから、姫条も気づくだろう。

他のコーナーに比べて更に人がいない棚に、男子高生が佇んでいた。

「前宮・・・・?」

葉月が声をかけると、相手はびくっと肩を震わせた。

「・・・葉月か。偶然だな」

「・・・そうだな」

「お前クラシックが好きだったのか?」

「少し聴く程度だけど・・・バッハが好きなのか」

前宮が持っていたのは、バッハのCDだった。

「最近・・・・な」

「おい、葉月!勝手にいなくなんなや・・・って前宮やないか」

買ったらしいCDの袋を持って、姫条が近づいてくる。

「お前ら仲がいいんだな・・・」

「俺ら実はデキとんねん・・・」

そこまで言ってから、葉月の険悪な表情に気づき、慌てて手を振った。

「じゃ、冗談やで。丁度お前を探してたんや」

「俺を?」

「お前の学校に、ピアニストがいたやろ」

姫条の言葉に、前宮の顔が強張る。

「・・・ああ」

「何で死んだのか知っとるか?」

「自殺だよ・・・」

「そうやなくて・・・原因や」

「どうして・・・そんなことを聞く?」

前宮の言葉に、姫条は何も言えなかった。

「・・・ファンだったんだ」

葉月がぼそっと呟く。

「え?」

「あいつのピアノが・・・好きだったんだ」

ナイス葉月!と、姫条は心の中で思った。

「・・・・指を骨折したからだよ」

前宮が、言葉を搾り出すように喋りはじめる。

「事故でもあったんか?」

「折られたんだ・・・・」

「!誰に!?」

「・・・・さぁな」

「それで自殺したのか」

「・・・・多分な」

「他に何か知っとるか?」

「いや・・・」

「そうか。嫌なこと聞いてごめんな。葉月、行こうで」

「・・・ああ」

二人が立ち去ろうとした時。

「葉月!」

「・・・・?」

振り返ると、前宮は下を向いていた。

「あいつは・・・バッハが好きだったんだ。特に半音階的幻想曲が」

「・・・・そうか」

「演奏がCDになってるから、聴いてやってくれ・・・・」

「・・・・分かった」

それ以上は何も言わずに、背を向けた。


「指を折られたねぇ・・・その割には事件にならへんかったよな」

「・・・・・」

何か、忘れている気がする。 とても大事なことを・・・

「そうや!家族なら知っとるよな。線香あげにきた言うて行けばええ」

「・・・警察にも言わなかったことを、教えてくれないんじゃないか」

「わからへんやろ?このままじゃ死んだやつも浮かばれん!」

怒ったような声を出す。

「・・・・」

「そーいやさっきは助かったわ。ほんまにファンやったん?」

「いや・・・気づいたら言ってた」

「あーゆー場面はお前のが強いな。次も何かあったら頼むで!」

「・・・・・」

多分姫条は、ピアニストのことを助けたいのだろう。

もうこの世にいなくとも。

しかし、中々うまくいかないで焦っているのが葉月には分かった。

どうしてこいつは、人の為にここまでするのだろうか。


お線香をあげにきたと言ったら、すんなり家に入れてもらえた。

母親らしき人が、にこやかに話し始める。

「わざわざありがとう。違う学校の方よね?今じゃ純君くらいしか来てくれないのに・・・」

「純?」

「幼なじみの子なの。向かいの家の前宮さんの息子さんなんだけど・・・」

「前宮!?」

つい声を荒げてしまう。

「あらお友達?」

「え、ええ・・・」

「純君とはすごく仲が良くてねぇ・・・指が折れてしまった時も、ずっと傍にいてくれて・・・」

「あの・・・どうして指を?」

「それが・・・何も言わなかったのよ。いくら問い詰めても、転んで折っちゃったんだって・・・」

「・・・そうですか」

「あの子にはピアノ以外もやらせるべきだったわ。私が未来を閉ざしてしまったのね・・・」

そう言うと、泣き始めてしまう。

二人は線香をあげ、苦い気分で家を後にした・・・