「あいつは何で黙ってたんやろな」
「・・・さぁ。言いたくなかったんじゃないのか」
「まさか、不良ら殺したんはアイツじゃ・・・・」
「どこにも証拠がない」
「そりゃそうやけど、動機は余る程あるで」
「・・・・」
二人が立ち話をしていると、後ろから声がかかった。
「お前ら、どうしてここに・・・・」
「前宮・・・・」
「・・・そうか、誠次の家に来たんだな」
「・・・ああ」
前宮は、ふっと笑った。
「家、来いよ。目の前だし。誰もいない」
思いがけない申し出に、葉月と姫条は顔を見合わせる。
「ええんか?」
「話が・・・あるんだろ?」
「・・・・ああ」
前宮は、ドアを開けて二人を招きいれた。
「麦茶でいいか?」
コップを3つ持って、前宮が現れた。
ここは彼の部屋らしい。
余計なものは何一つなく、男子高生の部屋とは思えなかった。
「悪いな。にしても静かやな」
「両親は旅行中なんだ。暫く帰ってこない。一人っ子だから、家にいるのは俺だけ」
「そうか・・・」
「聞きたいのはそんなことじゃないだろ?」
姫条は麦茶で口を湿らせ、意を決したように話し出した。
「・・・・。お前、あのピアニストと親友やったんやってな」
「そうだ」
「どうして黙ってたん?」
「・・・・言うわけにはいかなかったんだよ。結局バレちまったけどな」
「骨折の理由も知ってるのか」
前宮は静かにうなずいた。
「知ってるよ・・・あいつの指は折られたんだ」
「・・・不良どもに?」
「ああ。誠次は最後まで違うって言い張ってたけどな。あいつらが話してるのを聞いたんだよ」
「どうして嘘ついたんや?」
「あいつらのこと友達だと思ってたんだよ。実際はいいように使われてただけだったのにな。指も、ゲームだと言って折られたらしい」
「最低やな・・・」
「それでも誠次はかばった・・・あんなどうしようもない奴らを。自分をあっさりと捨てた奴らを・・・」
「・・・・・」
「自殺した理由も、本当はあいつらに捨てられたのがショックだったのかもな・・・・」
「・・・お前には何も言わんかったんか?」
「疲れた、としか言わなかったよ。俺はあいつの何だったんだろうな・・・」
黙って話を聞いていた葉月が、顔を上げた。
「それでもお前は・・・・復讐したんだろ?」
責めるでもなく。
怒るでもなく。
言葉は淡々と紡がれた。
「・・・そうだよ。誠次を物みたいに使い捨てた、あいつらを許さない」
あっさりと前宮は認めた。
「じゃ、やっぱりお前が・・・・」
「誠次だけ死ぬなんて不公平だ。例え誠次が望んでなくともな・・・あいつらには生きてる価値なんてない」
「そうかもしれんけど!人の価値は人が決めていいもんやないやろ?人は人を裁けんのや」
「・・・・・」
「今からでも遅うない。もうやめようや?」
「・・・元には戻れない」
前宮が椅子から立ち上がる。
彼に手を伸ばそうとして、体がぐにゃりと傾くのを感じた。
「な、なんやこれ・・・?体が・・・」
「・・・睡眠薬・・・か」
口も回らなくなってくる。
「ごめんな・・・俺は終わらせなきゃいけない」
「終わらせるって・・・まさか・・・」
「後一人なんだ。終わらせてやる。俺が神じゃなくともな・・・」
「ま・・・て・・!」
「最後に気づくなんて、皮肉なもんだよ。お前らみたいな人間もいるんだって・・・・」
「前・・・宮!」
「じゃーな」
前宮が、扉の外に消えてゆく。
すぐ傍なのに、永遠に手の届かない距離。
最後の一人を片付けた後。
お前と最後に話したこの場所に戻ってきた。
分かってたよ。
こんなことをしても、お前は喜ばないって。
でも許せなかったんだ。
お前の未来を奪っておいて、平気で笑ってるあいつらが・・・
お前は馬鹿だよ。
指を折られても、友達だって信じてたんだからな。
さっさと警察に突き出せばよかったのに。
いや、何をしたとしても未来は変わらなかったのかもしれない。
お前のところには行けそうもないけど、後悔はしてない。
お前にはお前の生き方があったように、これが俺の生き方なんだ。
そうだ、最後にあの二人組に会ったのは計算外だったな。
出会わなければ、この世の全てを憎んでられたのに。
いや・・・救われたのかもしれないな。
どうして俺達は、あの二人のようになれなかったんだろう
お前のピアノがどこからか聴こえる。
俺を呼んでるのか?
こんな俺でもいいのか?
待っててくれ。
すぐ、行くよ。
今日未明、市内の高校に通う前宮純君(17)の死体が発見されました。
学校の屋上から飛び降りた模様。
警察は、連続殺人との関連があるかもしれないとみて、捜査を進めています・・・
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