10/16

いつもだったら忘れて過ごしてしまうような日。
いつからか・・・どうでもよくなった日。
でも。今年は違った。・・・アイツがいたから。

「珪君!」
後ろから聞きなれた声がする。
「蓮。 ・・・何だ?」
「何だって・・・。ねぇ!今日ヒマ?」
「ああ」
「家行ってもいい? そんな長居しないから!」
「いいけど・・・何か用があるのか?」
「へへ。秘密。ってもうばれてるかもしれないけど・・・じゃ後でね!」
そう言い残すと。 走って行ってしまった。
何なんだ?アイツの行動はいつも・・・・読めない。
そう考えながら楽しみにしている自分に気づく。
自分の変わりように、苦笑してしまった。

そういえば、授業中いつも話し掛けてくるのに、今日は大人しかった。
帰りも、いつのまにかいなくなっていた。
何をしようとしているんだろう。
一人で家まで歩きながら、そんなことを考える。
俺の無愛想なんてまるで気にせずに、いつも笑顔で話し掛けてきた。
たまにとんでもないことをやらかして、俺をハラハラさせるけれど。
いつのまにかどんどん惹かれていって。
毎日、アイツのことばかり考えている。
「・・・気づいてないだろうな。鈍いから」

家の前についた時。 パタパタと走ってくる足音が聞こえる。
・・・ついでにガチャガチャという音も。
振り返ると、蓮だった。
「ハァハァ・・・ナイスタイミング。・・・よし。ハッピーバースデー!」
蓮が笑顔で言った。  ・・・そういえば。
「アレ? どうしたの?」
「忘れてた」
「えぇ!? ふつう忘れないよ」
「サンキュ。・・よく覚えてたな」
「だって特別な日だもん。珪君が生まれてこなかったら、私たち会えなかったんだよ」
・・・こいつはこういうことを言うから、かなわない。
「そうだな・・・。なぁ、その荷物は何なんだ?」
「あ、これ? ケーキとギター」
「・・・ギター?」
「これがプレゼントじゃないよ。ね、中入ろう?」
「そうだな・・・」

「おじゃましまーす。いつ見ても綺麗な家だよねー。こんな家住みたいな」
「・・・そうか?先部屋行ってろ。飲み物持ってく」
「うん。ありがとう」

紅茶を入れたグラスに氷を浮かべる。 季節は秋だが、蓮は猫舌だった。
ケーキを持ってきたって言ってたから、ナイフと皿も持ってかないと。
不思議な感覚になる。  ・・・バースデーケーキなんて何年ぶりだろう。
誕生日に誰かと過ごすのも。

ドアを開けると、箱の上にケーキを出して蓮が待っていた。
「ごめんね。全部持たせちゃって」
「いや・・・これお前が作ったのか?」
「うん! 味見するわけにもいかなかったから、おいしいかわかんないけど・・・」
「・・・ありがとう」
「ううん。ねぇ、ロウソクさしてもいい?」
「ああ・・・持ってきたのか?」
「だってロウソクがなきゃ誕生日じゃないよ!」
「・・・そうなのか?」
「そうなの。 じゃ火つけます」
蓮がライターで火をつけようとする。しかし慣れていないのか、なかなか着火しない。
「貸してみろ」
「ごめん・・・普段使わないから」
色とりどりのロウソクに火を灯していく。
「ねぇ、電気消してもいい?」
「ああ・・・」
暗くなった部屋で。 ロウソクが幻想的にゆらめく。
「ハッピーバースデー珪君!」
笑顔でじっと見つめる蓮の前で。 火を吹き消した。
「すごい。一息で消えたね。今年はいい年だよ」
「そうだな・・・」
「うん。じゃあプレゼント。今日のために曲作ったんだ」
「曲?」
「珪君のためだけに。・・言葉じゃうまく伝えられないから」
「・・・・」
そのためにギターを持ってきたのか。そういえば弾けるって言ってた。
蓮が奏でるアルペジオは。とてもせつなくて。
いつもより低い声の、ささやくような歌は。 胸をしめつけた。

気がついたら終わっていて、蓮が不思議そうにこっちを見ていた。
「珪君・・。泣いてるの・・・?」
いつのまにか、泣いていたらしい。 頬を涙がつたう。
「ごめん・・・言葉じゃうまく・・・言えない」
「ううん。ちゃんと・・・伝わってきたよ。あ、本当のプレゼントは、実はまだ決まってないんだけど、何か欲しいものある?」
そんなこと言うから。 俺は自分を止められなくて。
「・・・お前がそばにいてくれれば、他に何もいらない」
びっくりしている蓮を。抱きしめた。
ずっと。ずっと。 手に入れたかったぬくもり。
蓮の腕が、背中に回る。
「・・・そばにいるよ」

「さっきの曲なんて名前なんだ?」
「・・・remercier Dieu votre naissance」
「・・・意味は?」
そう聞くと。
「秘密」
蓮は微笑んで教えてくれなかった。



誕生日エピソードでございます。 最後のセリフはもう1パターンあって、すごく迷ったんですけどこっちにしました。文法間違ってるかもしれません(笑)蓮の視点で書くと、また違った感じになるかもしれませんね。