昔々、あるところにケイという王子様がいました。
王子は類なき美貌、頭脳、運動神経と、誰もが羨むくらいの人物でしたがただ1つだけないものがありました。
それは笑顔です。
王子は生まれてからこれまで、たったの1度も笑ったことがなかったのです。
彼は笑わない王子として有名でした。
ある日、部屋にいた王子の前に、黒いローブを着た男がいきなり現れました。
「・・・誰だお前」
「もうちっと驚いてくれへんか?ま、ええわ。俺のことはクイーンとでも呼んでくれ」
「お前魔法使いか?」
「そうや。お前に呪いをかけにきた」
「何だと?」
王子の片眉が跳ね上がりました。
「何もかも恵まれてるんに、笑わないなんて贅沢やねん」
「・・・笑えないんだ」
「そんなんどうでもええ。16歳の誕生日までに心から笑えなければお前は死ぬ。笑えば助かる。どや?簡単やろ?」
「・・・お前暇なんだな」
「何とでも言いや。どうせお前は死ぬんやからな」
そう言ってクイーンは王子に向かって杖をふりました。
真っ黒い煙が王子を包みます。
「・・何だ?これ」
「呪いはかかった。せいぜい悪あがきしいや」
高笑いをしながら魔法使いは消えました。
呆然としている王子を残して。
王国は大騒ぎです。王様とお后様は王子の話を聞くと、青ざめました。
「何てことだ・・・」
困った2人はあることを思いつき、国中におふれを出しました。
「王子を笑わせた女性は、王子と結婚することを認める」
なぜ女性限定なのかというと、王子も年頃なのでついでにお嫁さんを探そうと思ったからです。
果たして王子の呪いをとくことができる女性は現れるのでしょうか?
「王子様!私と結婚してください!」
「・・・やめとく」
「・・・・」
「・・・・」
王子に求婚した娘は、泣きながら部屋から出ていってしまいました。
王様とお后様はため息をつきました。
「・・・ケイ。今ので何人目だと思ってるんだ?」
「・・・さぁ」
「美人だったじゃないか」
「・・・興味ない」
王国のみならず、他国からも娘が集ったのですが、誰一人王子を笑わせることはできませんでした。
どんなに面白い娘を見ても、どんなに美しい娘を見ても。
王子は仮面をかぶったように表情を変えないのでした。
「・・・いいかげんに飽きたんだけど」
「なっ!笑わなかったら死んでしまうんだぞ?!」
「別に未練なんて・・・ない。一人にしてくれ」
「お、おい。ケイ!」
王子は部屋へ戻ってしまいました。
真夜中。
王子はふと目を覚ましました。まるで誰かに呼ばれたように。
王子は窓から外に飛び降りると、森に向かって歩き出しました。
真っ暗な森の中で、三日月と星だけが輝いています。
しばらく歩き続けた時、目の前に小さな泉が見えました。
不思議とそこだけ回りより明るいのです。
王子が前に進もうとした時、泉のそばに白い服を着た女の子がいるのを見つけました。
こんな時間に何をしているのでしょう。
その子はただ空を見上げていました。
今にも消えて、闇の中に溶けてしまいそうです。
王子はつい声をかけました。
「・・・・妖精か?」
少女が振り向きました。
「さぁどうでしょう?あなたは誰?」
少女は微笑んでいます。
「俺は・・・ケイだ」
「ケイね。私はレン」
「ここで何してるんだ?」
「ケイこそ何してるの?」
「俺は・・・・散歩だ」
王子はついそう言いました。
「私も散歩。空を見てたの」
「こんな夜中に?」
「夜じゃなきゃ月と星は見えないよ」
「・・・それはそうだな」
王子が何を聞いても、レンは不思議な答えを言うのでした。
1時間ほど喋った後。
「・・・また会えるか?」
王子がそう聞くと、レンは笑っていいました。
「私は毎晩ここにいるよ」
「じゃ、明日も来る」
「うん」
「・・・おやすみ」
「おやすみ」
王子が空を見上げて、また前に視線を戻した時。
レンの姿はもうありませんでした。
相変わらず、花嫁候補はたくさんやってきます。
そして王子は相変わらず、興味ないと言い続けるのでした。
両親はやきもきしています。死んでしまうかもしれないのに・・・
王子は毎晩森に通っていました。
そこでレンと他愛のない話をするのです。
王子は普段あまり喋りませんでしたが、レンと一緒だと次々と口から言葉が出てくるのでした。
「・・・なぁあの花なんて名前なんだ?」
王子がオレンジ色の小さな花を指差しました。
「あれはマリーゴールドだよ」
「マリーゴールド?」
「そう。花言葉はね、真心」
「花言葉?」
「花にはね、全部言葉があるの。花を贈る時は、言葉も一緒に贈ってるんだよ」
とうとう明日が誕生日になってしまいました。
レンに会うのも今日が最後だと思うと、王子は悲しくなりました。
最初に会った時三日月だった月も、今日は満月です。
「・・・今日は何だか悲しそうだね」
レンにそう言われて、王子は呪いのことを話すことにしました。
「俺・・・呪いをかけられたんだ」
「呪い?」
「16歳の誕生日までに笑えなかったら死ぬんだ。それは明日。俺・・最後にお前に会えてよかった」
うつむいた王子に、レンは思いがけない言葉をかけました。
「何言ってるの。ケイはもう笑ってるじゃない」
「え?」
「私と喋ってる時、いつも微笑んでたよ」
レンの言うとおり、王子は知らないうちに笑顔になっていたのでした。
「本当か?」
「心配なら今笑わせてあげようか?」
いたずらっぽくそう言うと、レンはいきなり泉に飛び込みました。
「!?おい!レン!」
びっくりした王子も、思わず飛び込みました。
「っぷはっ!」
「おい・・」
「ふふっケイずぶぬれ」
「お前もだろ?」
「アハハ!」
「・・ハハッ」
レンが笑い出し、つられて王子も笑いました。
ひとしきり笑った後。
「ほら、これで呪い解けたよ」
「お前そのために・・・」
「良かったね」
「・・・・サンキュ」
その時、遠くで鐘の音が聞こえました。
12時です。
10月16日の今日。王子は無事に16歳になれたのでした。
「誕生日おめでとう!」
レンがにっこり笑って言いました。
「お前のおかげだ」
「私何もしてないよ?」
「気づいてないだけだ」
「そうかな?」
王子はレンを見つめました。
「俺・・・今分かったよ」
「?」
「レン。お前を・・・愛してる」
王子の言葉に、レンは目を見開きましたが、その顔はだんだんと笑顔になりました。
「私も・・・この気持ちを愛してるって言うんだね」
2人は抱き合いました。
すると。
「!?」
レンの体が一瞬輝いたかと思うと、王子の腕はレンの体をすり抜けました。
「レン!?」
レンはゆっくりと宙に浮いていきます。
「・・・今思い出したよ。私もね、魔法をかけられてたの。私の体はずっと眠ったまま。ここにいるのは私の意識なの」
「・・・なんだそれ」
「私はね、誰も愛せなかったの。ケイが笑えなかったように。誰かを本当に愛するまで、私は意識だけの存在でいなきゃいけなかった。それが・・・今解けたの」
「どこに・・行くんだ?」
「体に戻るんだよ」
「離れたくない!」
「必ずまた会えるよ。今日の誕生花はマリーゴールド。ケイはその真心で私を助けてくれたんだね。・・・私に愛を教えてくれてありがとう」
そう言い残して、レンは夜空へ消えました。
泣きながら空を見上げている王子の元に、ミヤコワスレの花がどこからか舞い降りてきました。
また会う日まで・・・・
それから数年がたちました。
王子は少し笑うようになったものの、どこか悲しそうでした。
王様達は引き続き結婚相手を見つけようとしていたのですが、王子は誰にも心を開きません。
みなが頭を悩ませていたある日のこと。
従者が王子の前に来てこう言いました。
「王子様。王子様にどうしても会いたいという姫が来ていますが・・・」
「ケイ、会ったらいいじゃないか。通しなさい」
「はっ」
扉の前から現れたのは、白いドレスを着た姫でした。
彼女の顔を見た時。
王子はゆっくりと微笑んで、言いました。
「・・・・ずっとお待ちしていました。・・・姫」
fin
誕生日記念SSでございます。おとぎばなし風にしてみました。
誕生花はこの他にも色々あったのですが、ここではマリーゴールドにしました