いつまでも消えない
君の幻
華やかな内裏。
女が集まれば当然と言ったように、女房達は噂話に華がさく。
「橘少将様、近頃お姿をお見かけしないわね。女房や姫君との噂も聞かないし・・・」
「あら知らないの?龍神の神子様が元の世界へお帰りになってから、ほとんどお屋敷から出ないそうよ」
「京は救われたのに嬉しくないのかしら・・・」
友雅は、月も星も出ていない真っ暗な空を見上げた。
「私は女々しいのかな・・・?」
露草、紫苑、胡蝶花、橘が咲いている夏の庭。
ここでよく話をしたね。
季節が変わっても、私の心は君が消えたあの日のまま。
また思い出してしまう。
最後の戦いの前日。
藤、山吹、木蓮が咲き誇る春だった。
友雅があかねに逢いに行くと、あかねは思いつめた表情をしていた。
「どうしたんだい?戦いが怖くなったのかな?」
あかねは何も答えずに、ただ首を振った。
「大丈夫だ。私が何に代えても君をお守りするよ」
正直、友雅は迷っていた。
明日決着がつけば、あかねは元の世界へ帰ってしまう。
しかし、帰したくない。
ずっと自分の傍にいてほしい。
でも君は自分の世界へ帰りたいだろうね・・・
「友雅さん・・・」
何かを決心したような声だった。
「なんだい?」
「私・・・京に残ります!」
思いがけない言葉に、何と言っていいか分からなくなる。
「それは・・・本気かい?もう戻れなくなるんだよ?」
「それでも・・・私は友雅さんと一緒にいたいんです」
「・・・・・」
友雅が黙り込むと、あかねは泣きそうになった。
「迷惑ですか・・・?」
「・・・明日気が変わったと言っても、私は帰さないよ」
あかねが笑顔になる。
目の前の愛おしい少女を、抱きしめた。
もう離さない。
これでずっと一緒だと思った。
しかし龍神は願いを叶えてはくれなかった。
全てが終わった後。
笑顔で駆け寄ってくるあかねに手を伸ばす。
だが永遠に彼女を抱きしめることはなかった。
目の前で。
消えていく彼女。
「神子・・・その願いだけは叶えることはできない・・・」
「そんな!友雅さん!」
「あかね!!」
必死で手を伸ばしたけれど。
残ったのは君が流した一粒の涙。
「私はこの世界なんてどうなろうとよかったんだよ・・・」
あかねがいない世界なんて、生きている意味がない。
どうして、いつか自分の元を去ってしまう少女を愛してしまったのだろう。
初めての、そして最後の燃えるような恋。
「いっそこのまま儚くなってしまおうか・・・」
自嘲気味に呟いた時。
ひとひらの桜の花びらが目の前に見えた。
桜・・・・?
「友雅さん。そんなこと言わないで」
懐かしい、この声。
何度も思い返した、愛しい彼女の声。
「あかね!!」
夜の庭に、あかねが佇んでいた。
「龍神様が願いを叶えてくれたんです。私が毎日泣いてるから・・・」
「ずっと・・・待っていたよ。逢いたくて仕方がなかった」
「ふふっ友雅さんでもそんなこと言うんですね」
「意地悪な姫君だね。狂うほどに逢いたかったのは私だけかい?」
「私も・・・友雅さんに逢いたくてしょうがなかった・・・」
あかねが泣きそうになるのを堪えている。
「龍神もいい性格をしてるね。最初からこうしてくれれば良かったのに」
「そんなこと言っちゃ駄目ですよ。無理して叶えてくれたんだから。これで・・ずっと一緒ですよね?」
「ああ・・・君が嫌がっても離さないよ」
私の言葉に、笑顔であかねが駆け寄ってくる。
あの時と同じ。
今度はしっかりと彼女の温もりを感じたのに。
抱きしめたあかねの体は。
桜の花びらとなって掻き消えた。
残ったのは、先刻と変わらぬ夏の庭。
今のは、私の心が見せた幻想だと言うのかい?
「ははははっ・・・・」
空を見上げ、静かに目を閉じた。
龍神よ。
そなたほど残酷な存在もおるまいね。
私を狂わせるつもりだろう?
手を触れれば壊れてしまう。
冷たく輝く、あの蒼い月のように
あんまり書かないタイプの話を書いてみました。
どうでしょうか?
ブルームーンはあり得ないこと、という意味があるそうです。
青い月はないですから。
これ、ある本のタイトルだったんですけど、すごい気に入ったので使わせてもらっちゃいました。
タイトルから話を考えたんですが、友雅さんの心を書くのが難しかったです。
痛い話でごめんなさい。