バレンタインデー。

それは乙女の祭典。

いつもは言えない気持ちを、一粒のチョコレートに怨念のように込めて渡す日。

バレンタインデー。

それは、モテる男とモテない男の差が歴然とする日。

チョコを貰えなかった親友が自分の命を狙う敵になるかもしれない。


の中では、こんな見解の日だった。

次の日チョコが投売りにされてラッキーくらいにしか思っていなかった。

でも今年は傍観者をきめこむわけにはいかない。

あの男を見返してやらなければ。

でもどうやって?

買ってきたチョコを手作りだと言って渡す?

ダメダメ。

あの男の写輪眼の前では、こんな小細工通用しないだろう(こんなことの為に使われるのも嫌だが)。

自分で作れなければ意味がない。

・・・出来上がらなくても意味がないのだが。

そして不幸な幼馴染みに、白羽の矢が立ったのだった。


「ヒナちゃーん!!チョコの作り方教えて!」

日向の家に訪ねてきたは、開口一番そう言った。

「え?チョコ?食べたいなら・・・作ってあげようか?」

「ち・が・う・よ!一週間後はバレンタイン!先生に少しはいいとこ見せようと思って。
ヒナちゃんもナルトにあげるんでしょ?」

「えっ!?そ・・・そんな・・・」

考えてもみなかった。

今までだって一度も渡したことがないし。

でも・・今年こそは・・・。

そんなヒナタの心の内を見透かしたように、が言う。

「きっと喜ぶよー?」

「そ、そうかな・・?」

「間違いない!で、ついでに私に作り方を教えてもらえると嬉しいんだけど」

「それはいいけど、でもちゃん料理できないんじゃあ・・・?」

の料理のできなさは、幼馴染みである自分はよく知っている。

家に遊びに行っても、料理担当はヒナタなのだ。

一人暮らしで他に作ってくれる人もいない彼女を心配して、ヒナタはよく夕飯のおすそわけに行ったものだ。

「だーかーらー作りたいの!最近先生私に包丁握らせてくんないんだよ?」

それを聞いて、悪いとは思いながらもクスっと笑ってしまった。

あの上忍は、それだけが大事なのだろう。

あらゆるものが彼女を傷つけないように。

「あ、笑ったな?」

「ご、ごめん・・・でも羨ましいなって」

「羨ましい?料理ができないのが?」

「違うよ。じゃあこれから毎日特訓ね。ちゃん、夜は暇?」

「うん。大丈夫だよ。よろしくお願いします!ヒナタ先生!」

ちゃんったら・・・」


日向家の広く年季の入った台所で、とヒナタはエプロンをして立っていた。

ヒナタの妹のハナビが不思議そうに覗いていく。

「はいちゃん。これ持って」

と、ヒナタが差し出したのはなぜか下ろし金だった。

「チョコ作るんだよね・・・?」

ちゃん包丁使えないでしょう?手に切り傷作ったら、秘密も何もないよ」

「ヒナちゃん・・・結構きついこと言うよね・・」

「それでチョコを細かくして」

「このまま溶かしちゃダメなの?」

がいかにも初心者、といった感じの質問をする。

「そのまま溶かすとね。固めた時に分離しちゃったりして汚いんだよ」

「へぇ・・・・」

素直に感心して、でかいチョコの塊を下ろし金で削り始めた。

「あんまり強く握っちゃだめだよ?体温で溶け・・・」

ヒナタはそこから先が紡げなかった。

もう既に、の手はベトベトになっていたからだ。

一週間で果たして間に合うのだろうか・・・?


「あー・・・ヒナタ」

イルカに頼まれて、アカデミーの雑用をしていたヒナタは、珍しい人物に呼び止められた。

「カカシ先生・・・?」

上忍であり、ナルトの教官であり、の恋人でもある銀髪の男。

接点のない自分に話し掛けてくるとは珍しい。

それにヒナタはカカシが少し苦手だった。

何を考えているか分からないし、その銀髪が冷たい印象を与える。

友人の彼氏を悪く言うつもりは全然ないのだけれど。

「えっと・・と仲良かったよな?」

なんだ。ちゃんのことか。

でも私より先生の方が一緒にいる時間が長いのでは?

「そうですけど・・・何か?」

「んー。単刀直入に言う。アイツが夜に何してるか知ってるか?」

うっ・・・。

知ってるも何も、特訓してるのは自分だ。

でも言ってしまったら意味がない。

どうしよう・・・

「し、知らないです・・・先生の方がよく知ってるんじゃないんですか?」

「最近アイツ、任務終わるとどっか行っちゃうんだよ。大事な用があるからとか言って。ヒナタが知らないんじゃ、誰も知らないか・・・」

先生はもしや浮気を疑っているのでは?

全然違うのに。

むしろ先生の為なのに。

そう思ったら、勝手に口が動いていた。

「あの・・!ちゃんは浮気なんかしません!」

「へ?」

ちゃんは人を裏切ったりなんか、絶対しません」

カカシは呆気にとられていたが、ヒナタの気持ちが分かったのか、ふわっと笑った。

「俺が心配してんのは、浮気じゃないよ。アイツそんな器用じゃないから。それより、メシのこと」

「え?メシ・・?」

が料理できないのは知ってるだろ?最近は俺が作って食べさせてたんだけど、アイツ一人じゃロクなもん食ってないと思って」

さらりとすごい事実を聞いて、今度はヒナタが絶句した。

ちゃんはこの上忍に料理をさせていたのか。

里一番の技師に?

そう思ったらおかしくて、笑いがこみ上げてきた。

身をよじって笑いを堪えているヒナタに、カカシが戸惑い気味に声をかける。

「ちょ、ヒナタ?何かおかしなこと言ったか?」

「ご・・ごめんなさい・・・。ちゃん愛されてるんだなって思って・・・つい・・」

「自分でも・・・おかしくなるよ」

目の前の大人が急に可愛く思えてきて、ヒナタは謎めいた言葉を伝えた。

「明日、何の日か知ってます?」

「明日?」

首を捻るカカシを後にして、ヒナタは微笑みながら仕事を再開した。

これくらいのヒントなら、ちゃんも怒らないだろう。

わざわざ自分の所へ出向いてきた彼への、せめてもの応援だ。


「ヒナちゃ〜ん。出来ないよぉ〜」

が半泣きの表情で、ヒナタに助けを求める。

「だから、どうしてなのー!?」

いつもは大きな声など決して出したりしないヒナタも、どうにもならなくて叫んだ。

に教えたのは、一番簡単にできて、かつ相手が見直すようなチョコだった。

溶かして混ぜて丸めるだけ。

溶かして混ぜる、まではも上手くいくのだが、最後の丸めるのが上手くいかない。

手早くやらないといけないのに、モタモタしてしまって溶けてしまうのだ。

しかも丸まったとしても、丸くない。

「やっぱり私に手作りなんて無理だったんだ・・・」

「諦めないで!今考えてるから!」

いつもとはまるで立場が逆な自分たちに苦笑しながら、ヒナタは必死でアイデアを出した。

が失敗するのは、丸めるのができないから。

それなら手で触れなければいい。

横でがガナッシュをスプーンですくって、食べている。

「味は美味しいんだけどなぁ」

「つまみ食いしちゃダメだってば!・・・ってそうだ!」

「はえ?」

スプーンを口に咥えているを指差して、ヒナタは満面の笑みを浮かべた。



家に帰る途中のナルトを待ち伏せして、ヒナタは必死の思いで呼び止めた。

「あ、あの・・ナルト君!」

「おーヒナタ。どうしたんだ?」

「えっと・・・あの・・」

「何だってばよ?」

ヒナタのモジモジにも慣れたので、最近はナルトも大らかに待つようになっている。

「あ・・・あの・・コレ!」

決死の思いで差し出したのは、綺麗に包まれた小さな箱だった。

「くれんのか?サンキュ!」

受け取ってもらえて安堵したヒナタは、ナルトの次の行動を見て、目を見開いた。

バリバリと包み紙を取ったかと思うと、箱をあける。

中の小さなチョコレートをつまむと、特に何も疑う様子もなくひょいぱくっと口に入れた。

「あっ・・・!」

「?うまいぜコレ。ありがとな」

「う・・うん・・・」

ヒナタは気づいた。

ナルトは今までバレンタインとは無縁に過ごしてきたのだろう。

だからきっと、ヒナタが差し入れをくれたくらいにしか思っていないのだ。

でも。

とりあえず食べてくれたのだし(目の前で)、美味しいとも言ってくれたのだから、いいとしよう。

ちゃんは上手くいったのかな?



一方こちらは

今日は任務がなかったので、カカシの家でカカシを待っていた。

自分の面倒をみる以外にも、仕事は沢山あるのだ。

「ただいま〜」

「おかえりっ!」

机に乗せてあったチョコを持って、玄関へと駆け出していく。

「おー。どうしたんだ?そんなに急いで」

「はい!これ!」

が差し出したのは、透明な袋に入った銀のスプーンだった。

「スプーン?どうしてスプーンなんか・・・」

「スプーンだけど、スプーンじゃないの!よく見てよ」

頭を捻りながらスプーンを見ると、口に入れる部分に何かついている。

「何だこれ・・?チョコレート?」

「ピンポーン!ね、食べて」

が作ったのか?」

「そうだよ」

の表情は、期待半分、不安半分といったところか。

よく作れたな・・と思いながら、カカシはふいにヒナタの言葉を思い出した。

明日は何の日?ってこのことか・・・

スプーンを取り出して、口に入れる。

甘いチョコレートの味と、飾りのドライフルーツの酸味。

口の中で自然に溶けて混ざり合っていく。

「・・・・・」

カカシは黙り込んだ。

その様子を見て、が不安げに問う。

「・・・おいしくない?」

「うまいよ。ちょっと感動してたの」

嘘ではなかった。

「ほんとに!?ほんとにホン・・・」

カカシがの唇をふさいだ。

カカシの唇についていたチョコレートが、の口にも入る。

「もうないの?」

「・・・先生のエッチ!」

珍しく赤くなりながら、が背中を向けた。



チョコレートは愛の媚薬。

効果はご覧の通り。



バレンタイン記念に書いてみました。
スプーンのチョコは、丁度お菓子の本で見つけたんですよー。
可愛くていいかな、と。
チョコを下ろし金は、書いててナイスアイデアかも!?と自画自賛(笑)
まな板にチョコつくと洗うの大変だし。
だんだん溶けてくると手が滑って危ないんですよ。
楽しんでいただければ幸いです。
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