「友雅さん何の用なのかなぁ?」
夕闇の中を牛車に乗りながら、あかねはつぶやいた。
「今日の夜、私の屋敷においで」
「夜に・・ですか?」
怪訝そうに問うと、友雅は笑った。
「私はそんなに信用がないのかな?何もしやしないよ。藤姫には内緒でおいで」
「何かあるんですか?」
「ふふ・・それは来てからのお楽しみだよ。夕方には牛車を迎えにいかせるから」
これが今日の昼の会話。
友雅はこれだけ伝えると、仕事に行ってしまった。
「友雅さんていまいち何考えてるかわかんないよねぇ」
ぶつぶつ独り言を言っていると、牛車が止まった。
どうやら着いたらしい。
「神子殿。こちらへどうぞ。主がお待ちです」
「あ、はい」
女房について、広い屋敷の庭へと歩いていく。
「あかね。こっちだよ」
声のしたほうを見ると、友雅が縁側に腰掛けて手招きしていた。
あかねが駆け寄ると、隣に座りなさい、と自分の横を手で叩いた。
「藤姫には内緒で来たかい?」
「もー言い訳考えるの大変だったんですよー!」
「すまないね。でも正直に話したら許してはもらえないだろう?」
友雅は手が早いので有名なので、藤姫も警戒している。
「神子様。2人だけでは決して友雅殿と会ってはいけませんよ」
そう言われていたのを思い出した。
「友雅さんの日頃の行いが悪いからですよ」
「おや、つれないことを言うね。いきなり呼んだことを怒っているのかい?」
「怒ってはないですけど・・・私に見せたいものって何なんですか?」
「まだだよ。もう少し暗くなるまで待っておくれ」
「あ、もしかして蛍とかですか?」
「残念だけど、違うよ」
友雅はゆったりと微笑んでいる。
本当に言うつもりはないらしい。
すでに結構な暗さなのに、もっと暗くないと見えないものなのだろうか?
「ま、まさか幽霊!?」
あかねが青ざめて言うと、友雅は笑い出した。
「ははっいきなり何を言い出すんだい?面白い姫君だねぇ。霊を見せたって仕方ないだろう?」
「それもそうですね・・・クシュンッ」
夏とはいえ夜は涼しい。 くしゃみをしてしまった。
「羽織るものを持ってくれば良かったね。・・・もう少しこっちへおいで」
「えっ大丈夫です」
「ふふ、食べたりなんかしないからおいで」
友雅はあかねを引き寄せると、自分の着ていた上着を半分かけた。
肩がぴったりと触れ合って、あかねは赤くなった。
「初々しい反応だね・・・そろそろだ。あかね、あそこを見ていてごらん」
友雅が指差したのは、庭に生えている緑の植物だった。
白い大きなつぼみがついている。
「・・・サボテン?」
「あれは月下美人だよ。もうすぐ花が開く」
友雅の声に促されるように、白いつぼみが開きはじめた。
ゆっくりと花が咲いていく。
「綺麗・・・」
月光に照らされて、白い大輪の花が浮かび上がる。
どこか幻想的な光景だった。
「気に入っていただけたかな?」
「はい!見せたかったのってこれですか?」
「そうだよ。今日咲きそうだったから、神子殿にぜひ見せたいと思ってね」
「ありがとうございます。でも何で夜なんですか?」
「月下美人はね、満月の夜に一夜しか咲かないのだよ。朝になればしぼんでしまう」
「そうなんですか・・・こんなに綺麗なのに」
「一夜限りの幻・・・まるで神子殿のようだね」
「えっ?」
友雅は、儚く美しい花をじっと見詰めた。
一瞬の夢だと分かっているのに、手に入れたいと思う。
「波雲の 一夜きは色 知りつやも 常を願うは かぐにやあらむ」
「・・・どういう意味なんですか?」
「ふふ、愚かな男の歌だよ・・・」
一夜限りの美しさだと分かっているのに、永遠を望むのは愚かなことでしょうか
友雅さんのキャラソング、月下美人から作りました。この曲大好きです。
本当に京にあったのかは疑問ですが(笑)
月下美人は夏の月夜に咲くサボテンです。
友雅さんが最後に詠んでいる歌は、私が作りました