いつかの教会で

「お疲れ様!」スタッフの声。「今日もよかったよ!」「・・・どうも。」

俺はモデルだ。別に好きでやってるわけじゃない。

周囲の憧れの眼差しも、女の子の黄色い声も。ただわずらわしいだけだ。

家までの帰り道に通る公園で、星空を眺める。

儚げに輝く星たちは、いまにも闇に消えそうで、まるで俺みたいだ。

いつから星が好きになったのだろう。思い出せない。

でもいつも変わらず見守ってくれているようで、安心する。

人付き合いがうまくない俺にとって、いつまでも変わらない存在は大切に思える。

小さい頃は普通に友達もいたのに、いつからか一人でいることがほとんどになった。

みんな遠巻きに俺を見つめるだけ。

一人でいるのが好きなわけじゃない。でも迷惑をかけたくなくて。

俺と一緒だとつまんないだろうから。

中学時代から、体育館裏の猫と仲良くなった。

友達がいなくても。こいつらがいればいい。いつでも微笑みかけてくれるから。

中学も卒業をひかえたある日。学校にある教会の前で足を止める。

ふいに幼い頃を思い出した。

この教会で、名前も知らない女の子と絵本を読んだことを。

外国に行くことになった俺に「また会えるよね?」と寂しげに聞いた女の子。

「必ず迎えにくるよ。約束」・・・・・。そうだ、俺は約束したんだ。

どうして今まで忘れていたんだろう。どうして今思い出したんだろう。

気が付くと目から涙が流れ落ちていた。もう何年も泣いたことなんてなかったのに。

彼女は覚えているだろうか? 俺との約束を。

ここで待ち続けているのだろうか。

教会の扉に手をかける。 閉まっていた。

「・・・バカだな」 あれから何年たったと思ってるんだ。

自分にもこんな感傷が残っていたのかと驚いた。

あれは遠い日の思い出。 

それで・・・・・いい。



桜が咲き乱れる4月。高校の入学式。

エスカレーター式なので、中学と同じ敷地内だ。

俺は吸い寄せられるように、教会に向かっていた。

木々を通り抜け、建物が見えた時。 前から来た誰かとぶつかった。

「キャッ」 倒れた女の子に手を差し伸べる。

いつかの教会の前で。

 顔をあげた彼女を見たとき。

俺は。

 奇跡を信じた。