このコンクールには、何か意味があるのだろうか・・?
彼―月森蓮は、そんなことを考えていた。
楽器も違うし、曲のテーマも漠然としすぎている。
これで優勝したとしても、今後の役にたつのだろうか。
でもそれは、消しようのない敗北感を隠すための言い訳でしかなかった。
あの普通科の参加者。
全くの初心者であるはずの彼女は、前回のセレクションで優勝している。
ヴァイオリンを触ったこともなかった、という彼女の言葉が嘘だとは思えなかった。
最初の頃にちらっと聴いた演奏は、全く酷いものだったからだ。
あれに比べれば確実に上手くはなったが、技術があるわけではない。
しかし、彼女の演奏は聴く者の心を揺さぶる。
それが何故なのか、その理由は自分との演奏スタイルが違いすぎて、月森には分からなかった。
「誰かのことを気にするなんて、俺らしくもない・・・」
一人ごちて、楽器を構える。
自分の演奏をするだけだ。
何曲か弾き終えて一息ついていると、外から話し声が聞こえた。
窓が少し開いていたらしい。
閉めようとして窓際に寄ると、声の主が見えた。
日野と・・・土浦だ。
知らず知らず、耳をすませてしまう。
「あいつは嫌いだが、技術だけは認めるぜ」
多分、俺のことを言っているのだろう。
安心しろ。
俺だってお前が嫌いだ。
「何でそんなに仲悪いの?」
「あー?第一印象からして最悪だったからな。お前だって文句言ってたじゃねーか」
「そ、そんな昔の話蒸し返さないでよ。今はヴァイオリンの事とか教えてくれたりするんだから」
香穂子が自分を庇ったのを見て、嬉しいと感じている自分に気づいた。
何故―?
「でもお前とアイツじゃ、全然違うだろ?月森の演奏、どう思う?」
「うーん・・・。あ、この前ね。花屋さん見つけたんだ」
「はぁ?」
「すっごい綺麗でね、思わず手に取ったら造花だったの。匂いもちゃんとついてたから、触るまで分からなかった」
「・・・・何が言いたいんだ?」
「月森君の演奏を聴いた時、そのこと思い出したの。とても美しくて惹かれるけど・・・。花で例えるなら命のぬくもりはないんだ」
冷水を浴びせられたようだった。
俺の演奏は、造花の美しさなのか・・・?
俺と彼女の違いは、そこなのだろうか。
「・・・お前結構きついこと言うのな。要するに偽物ってことだろ?」
「そうじゃなくて・・・!上手く言えないけど・・」
日野は俯いて、必死に言葉を探しているようだった。
偽物・・・。
土浦の言葉が、胸にのしかかる。
確かに、いつも感じていた。
上手く弾くことはできる。
しかし、技術で感嘆はさせられても、感動させることはできない。
見ないようにしてきた問題を指摘されて、俺はすっかり気分が滅入っていた。
これ以上立ち聞きしていても仕方ない、と窓に手をかけた時。
ふいに日野が、手をぽんと打った。
「月森君はね、オーロラ姫なんだよ!」
「は?」
土浦が呆れた声で問い返す。
俺も眉をひそめた。
「眠ったまま、目覚める日を待ってるの。死んでるわけじゃないから、偽物じゃないでしょ?」
「男を女に喩えるのはどうかと思うが・・・」
土浦が嫌そうにコメントしたが、日野は聞いていないようだった。
「すごい楽しみだな。月森君のヴァイオリンに、命が吹き込まれる日が。きっと誰よりも素敵な演奏だと思うよ」
「あーそうですか。じゃあお前が起こしてやれよ。寝ぼすけの姫様を」
「そうなったら素敵だね!うん。頑張ろうかな」
嫌味のつもりで言った土浦は、拳を握り締めた日野に、呆気に取られていた。
俺は思わず笑ってしまい、慌てて窓を閉めた。
何かが吹っ切れたような気持ちで、ヴァイオリンに弓を乗せる。
お姫様なら君の方が似合うだろう、と思いながら。
微妙につっきーの演奏けなし気味(笑)
すいません。
でも曲に感情を込めるって、すごく難しいです。
上手い演奏は誰でもできるが、感動する演奏は一握りの人間しかできないと思うのです。